『光る君へ』一条天皇の意外な「趣味」猫を溺愛した天皇 中宮定子への寵愛だけではなかった 識者語る

NHK大河ドラマ「光る君へ」第25回は「決意」。中宮・定子(高畑充希)を寵愛し、政(まつりごと)を疎かにする一条天皇(塩野瑛久)に困惑する藤原道長の姿が描かれていました。一条天皇が溺愛したのは、実は定子だけではありません。一条天皇の内裏には、一匹の猫がいました。その猫は「命婦のおとど」(以下、おとど)と名前まで付けられて、天皇に可愛がられていたのです。その猫の事は、中宮・定子に仕えた女房・清少納言の随筆『枕草子』に登場しています。

ある時、天皇の愛猫に飛びかかった犬の「翁丸」がおりました。逃げ出した「おとど」は天皇のもとへ。愛猫「おとど」の恐怖を見た天皇は怒ります。怒って「この翁丸を打ち懲らしめて、すぐに犬島(野犬の収容場所)に送れ」と命じるのです。追放された翁丸に清少納言は同情しています。ちなみに、翁丸は打たれてボロボロになりながらも、また戻ってきて、宮中で暮らすことになりました。

内裏に猫がいた事は『枕草子』のみならず、藤原実資の日記『小右記』(999年9月19日条)にも記載されています。そこには、内裏で飼われている「御猫」が子を産んだことや、藤原詮子(一条天皇の母。道長の姉)や藤原道長がその子猫のために「産養」(うぶやしない。出産後3日・5日・7日・9日目の夜に、親類が産婦や赤子の衣服、飲食物などを贈って祝宴を開く儀礼)をしたことが記されています。子猫には「馬命婦」という乳母まで付けられます。

『小右記』には、猫にここまですることに人々が笑っている、「奇怪」なことと天下の人々が注目しているとも記載があります。実資自身も「禽獣」に人の礼をもってするのは前代未聞と嘆息しています。宮中における一条天皇の飼い猫への「愛」は、世間では奇異に映ったようです。一条天皇は動物愛護の精神に溢れているようにも思いますが、愛猫を襲った犬の「翁丸」には厳罰を下していますので、その愛は飼い猫にのみ向けられていたようにも感じます。

(歴史学者・濱田 浩一郎)

© 株式会社神戸新聞社