ドウデュースとブローザホーンの違いとは? 競馬は実力と適性の天秤が揺れ動くゲーム【宝塚記念】

京都で行われる宝塚記念は2006年、ディープインパクトが勝利した年以来のこと。あの宝塚記念は雨の稍重、2分13秒0と時計を要した。これまで瞬発力勝負で部類の強さを発揮した英雄が道悪を物ともせず快勝した結果に、真の最強馬は馬場など問わない。適性の範疇を突き抜ける存在だと知った。この記憶は個人的に最強の定義に大きな影響を及ぼした。

◆【ラジオNIKKEI賞2024予想】「夏の隠れた出世レース、過去GI馬を輩出」出走予定・枠順、予想オッズ、過去10年データ・傾向

■雨の影響で道悪巧者が上位独占

あれから18年。またも京都の宝塚記念は雨の影響を強く受けた。このレースのテーマは京都、道悪、ドウデュースの現役最強の証明にあった。10週間と長い春の京都開催は天候に恵まれ、最終週まで絶好の馬場状態で進み、高速決着が多発。また、昨年の宝塚記念以降、芝中長距離GIはすべて良馬場で行われ、高速決着が続いた。

※昨年宝塚記念以降の芝中長距離GI※順位は2000年以降の記録

【宝塚記念】イクイノックス 2分11秒2(7位)
【天皇賞(秋)】イクイノックス 1分55秒2(1位)
【ジャパンC】イクイノックス 2分21秒8(2位)
【有馬記念】ドウデュース 2分30秒9(5位)
【大阪杯】ベラジオオペラ 1分58秒2(2位タイ)※GI昇格後
【天皇賞(春)】テーオーロイヤル 3分14秒2(5位タイ)

高速決着ばかりのこの路線において、今年の宝塚記念は異色といってよく、速い時計に涙を飲んできた道悪巧者にとって、これ以上ない舞台設定になった。良馬場以外5勝の道悪巧者ブローザホーンが勝ち、2着ソールオリエンス、3着ベラジオオペラは道悪重賞の勝ち馬。4着プラダリアは京都の道悪重賞Vと道悪適性が結果に影響したのは明らかだ。

■ドウデュースは欧州の良馬場なら……

次に京都。舞台は阪神ではなく、京都芝2200m。距離は同じであっても、4コーナーは内回りではなく、外回りに変わる。直線の長さは適性を左右する。阪神内回りは最初の直線が500m近くあり、京都は300m超。1コーナーまで距離がある阪神はナチュラルに前半600mが速く、京都は1コーナーまで距離がなく、そこまで突っ込めない。あわせて阪神は内回りで仕掛けが早く、スタミナ勝負になるが、京都はその反対で後半勝負の瞬発力を問う。さらに3コーナーには丘があり、勝負所は下り坂。末脚の速さは必須条件だ。

そんな京都芝2200mで逃げ馬不在となれば、阪神のようなスタミナ勝負は考えられない。道悪で走りにくい馬場になったものの、本質は決してスタミナ勝負ではなかった。スタートを決めたカラテプラダリアが出方をうかがうスキにハナを奪取したのは川田将雅騎手のルージュエヴァイユ。速くなるはずもない。

前半1000m通過61秒0はこのクラスならスロー判定。1000~1200mも12秒9と遅く、道悪を苦にしない先行馬ペースで進んだ。残り1000mは12秒2-11秒4-11秒7-11秒3-11秒5。重馬場とは思えない高速ラップを刻む800m勝負は京都芝2200mらしい。スローからのペースアップに対応できるギアチェンジが問われた一戦であり、京都適性も結果を大きく左右した。道悪を味方につけた上位4頭は、京都のGII以上で3着以内歴をもち、京都実績も高かった。

二つの得意が重なった4頭に対し、ドウデュースはどちらもなし。現役最強を証明できなかったが、それは実力差ではなく、適性の差といえよう。決して器用なタイプではなく、スロー特有のギアチェンジが難しい。器用さを問うレース展開では、有馬記念のようなマクリなど荒っぽい立ち回りで適性を打ち消す競馬がいい。いいかえれば、日本ほど軽い競馬にならない欧州の良馬場なら、パフォーマンスを上げてくるだろう。結果ではなく、適性がきたる秋に向け背中を押す。

■菅原明良騎手は納得のGI初制覇

勝ったブローザホーンは同じ京都の天皇賞(春)で末脚勝負に賭け、2着に入った経験が自信につながったのではないか。下りを利用し、外から動き、4コーナーでは優位な先行勢を射程圏に入れて進められた。菅原明良騎手の思い切りの良さとヘッドワークも見逃せない。

デビュー6年目、GI初制覇を宝塚記念で達成したのは納得できる。デビューから6月16日までのデータをみると、芝重賞8勝のうち5勝を2000m以上であげており、2000m全体の単複回収値は111、104と高い。芝全体では、上がり最速の勝率が35.3%と高く、騎乗馬が力を出せば、それを着実に結果に結びつけられる。優位なポジションをとり、末脚を伸ばすことに長けており、人気以上に走らせるのは腕達者の証明でもある。

次週以降の夏競馬も福島の勝率10.4%、新潟9.6%と高く、頼りになる。福島では芝1200mのほかに1800、2600mの勝率が目立つ。新潟も1200mと1800、2200mの勝率が高い。ぜひ、夏競馬の回収率向上のために味方につけよう。今回の勝利で人気馬への騎乗機会もさらに増えそうだが、逆らわない方がよさそうだ。ヘッドワークに長けるだけあり、納得感ある競馬も多く、安心して買える騎手だ。

この春はGI12戦ですべて違う騎手が勝利し、エピファネイア産駒が4勝をあげた。ハイペースでロベルトの血が目覚めたヴィクトリアマイル、後半の瞬発力勝負を制した桜花賞、スローペースを巧みに立ち回り、ロングスパートを決めたダービーと、産駒の適性は多岐にわたる。言いかえれば、つかみにくい面もある種牡馬だが、その分、魅力的でもある。そして、適性は大雑把に血統だけでくくれず、一頭一頭の個性であることも伝える。

宝塚記念は改めて競馬が実力と適性の天秤がレースごとに揺れ動くゲームであり、予想において、目の前のレースがどの馬の適性に傾くのかを見定める大切さを教えてくれた。出走各馬の長所短所を把握し、各レースが問う適性を見極める作業は時間がかかるものの、その分、馬券が当たった快感もひとしお。この先、関係者も苦労が絶えない季節になるが、夏の暑さにめげず、我々も根気よく競馬に向き合おう。

◆【ラジオNIKKEI賞2024予想】「夏の隠れた出世レース、過去GI馬を輩出」出走予定・枠順、予想オッズ、過去10年データ・傾向

◆【ラジオNIKKEI賞2024/展望】春の重賞敗退組が反撃の狼煙 青葉賞4、5着サトノシュトラーセ、ウインマクシマムが上位

著者プロフィール

勝木淳
競馬を主戦場とする文筆家。 競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬ニュース・コラムサイト『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』( 星海社新書)などに寄稿。

© 株式会社Neo Sports