マネーゲーム状態の「晴海フラッグ」、世帯年収1,500万円の30代パワーカップルの宮崎出身妻「喉から手が出るほどタワマンが欲しい」…衝撃の決着【FPの助言】

(※画像はイメージです/PIXTA)

高騰が止まらないマンション価格。なかでも人気のタワマンは、度々物議を醸しています。東京五輪・パラリンピックの選手村跡地に建つマンション群「晴海フラッグ」の売買も、まるでマネーゲームだと大きな話題を呼びました。本記事ではKさん夫婦の事例とともに、現在の新築マンション情勢について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

平均価格「1億1,483万円」…東京23区のマンション

マンション価格の高騰が止まりません。不動産経済研究所2024年4月2日に発表した資料によると、東京23区における2023年度新築分譲マンションの戸当たり価格の平均は、なんと1億1,483万円。中央値でも8,200万円と高額です。2013年は平均価格が5,853万円だったため、10年で約2倍になりました。平方メートルあたりの単価は161.1万円です。つまり坪単価は531.6万円ということになります。耳を疑う人も多いでしょう。

1億円前後の住宅など、もはや平均的な年収の会社員世帯には手が届かないものになってしまいました。首都圏の郊外においても東京23区ほどではありませんが価格高騰が起きていて、ペアローンでなければ買えないような状況になっています。

このような状況を見ていると、これからマイホームを買おうとしている多くの人がふと疑問に思うはずです。

「これは正当な価格なのだろうか」

「一体だれがこの価格で買っているのだろうか」

「それを買って資産価値が下がらないのだろうか」

マンション価格の過熱に合わせて冷静な判断を取れない人も増えていますが、少し冷静になるべきかもしれません。最近、「暴落待ち」と言われる姿勢の消費者が増えています。今後はマンション価格が暴落していくはずなので、それまで買うのは待とうという考え方です。これに対して販売業者は反論します。

「建材価格が上がっている」

「病気をしたら住宅ローンが借りられなくなる」

「外国人からの需要が旺盛なので価格は下がらない」

「住宅ローンを借りられる年齢は限られている」

などと言うのですが、これらはどうしても売り手の論理であることは否めません。本当はいま、なにが起きているのでしょうか。現在の新築マンション情勢を理解するために参考になるのが、「晴海フラッグ」の状況です。

転売が相次いだ選手村マンション「晴海フラッグ」

「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」は、東京五輪・パラリンピックの選手村跡地に建つマンション群です。大手不動産会社11社が、東京都から都有地を購入して再開発事業を手掛けました。

最寄りの都営大江戸線・勝どき駅から徒歩で20分と多少不便ですが、銀座から約2.5キロ、東京駅からは約3.3キロという抜群の立地にあります。2019年の売り出しのときは破格の価格で話題になりました。オリンピックの負のレガシーとならないようとにかく売りさばく必要があったのです。分譲棟の抽選は回を追うごとに加熱。最大で266倍という異常な倍率を記録しました。

しかしすぐに問題が発覚します。「転売」目的の投資家が格安のこの物件を大量に購入していることがわかったのです。購入できた投資家が高額な利益の上乗せをして不動産売買サイトに掲載され大問題に発展していきました。

購入者のなかには1人で10棟、20棟と現金で購入した外国人投資家も少なくないと言われています。日本に住む大人数の同胞から名義を借り、抽選に応募し数多くの物件を仕入れたのです。その部屋は今後運用され、時期がやってくれば売却しキャピタルゲインを得るという流れです。

格安の物件であるうえに円安が後押しをし、晴海フラッグは「マネーゲーム」の様相を呈してきたわけです。しかしながら「転売益が上乗せされていても欲しい」という購入希望者層が存在し、1億円を超える価格を出して「居住目的」で購入している状態です。

この状況は、現在のマンション価格の高騰の様子を理解するのに役立ちます。高騰の理由は以下のようにまとめることができます。

・建材価格の上昇
・供給戸数の減少
・地価の上昇
・円安による外国人投資家の参入
・アベノミクス政策で誕生した新しい富裕層
・富裕層についていこうとする「パワーカップル」

このなかでのポイントは「投資マネー」「新しい富裕層」「パワーカップル」です。現在のマンション価格の高騰は、「投資マネーに相場が引っ張られ、新しい富裕層が買い、それに憧れるパワーカップルがリスクを抱える」という構図が実情かもしれません。ここではあるパワーカップルの様子を事例として紹介します。

1億円超のタワマンにどうしても住みたい妻

<事例>

夫Sさん 35歳 年収780万円 会社員 埼玉県生まれ
妻Kさん 37歳 年収800万円 会社員 宮崎県生まれ
子供 2人
現在の家賃 月18万円
預貯金 3,200万円

SさんとKさんは東京都内に住む会社員です。世帯年収は1,580万円。夫婦ともに30代半ばでの年収であるため、いわゆるパワーカップルといえます。現在の住まいは家賃18万円の賃貸マンション。少し高いなと思っていますが、都心の職場から近く自宅から歩いて通勤することも可能です。

このSさん夫婦の最近の話題は住宅購入のこと。家賃18万円がもったいないし、2人の収入なら銀行も融資してくれるはずと思っています。妻Kさんが狙っているのは都心のタワーマンション。地方出身のKさんにとっては絵にかいたような東京の眺望に思えます。新築で募集をしているので応募したいと妻Kさんは考えているのです。

しかしその価格は1億1,000万円。夫Sさんがマンションの間取りを見ていいます。

「この狭い間取りで1億円……? ちょっとありえないな」

妻Kさんは3,200万円ある預貯金から自己資金として1,500万円を出し、9,500万円の住宅ローンを借りる計算をしています。

「それ、ペアローンということだろう。もし君か僕が働けなくなったら返済できなくなるよ」と夫Sさん。

「でも、いまの家賃が18万円で捨てているだけだよ。9,500万円借りたら返済は月24万円。6万円増えるだけで自分の家になるのだから損ではないと思う。それにあのマンションなら値上がりすれば将来売ればいいし」妻Kさんは熱心に持論を展開しますが、夫Sさんは怪訝な顔をするばかり。

「値上がりって、なにを根拠に言うの。1億円という値段はちょっとそのまま受け入れてはいけない相場のような気がする」

妻Kさんとしては、1億円超のマンションであっても資産性が高いため将来売ることもできる、そうすれば住宅ローンの残債がなくなり、実質的な負担は利息と管理費程度のものだろうと考えているのです。それに妻Kさんにとって、眺望のいいタワーマンションを手に入れるのは自分のプライドの問題でもあると自覚しています。

「プライドや窓からの景色に1億円の借金はできないよ」と夫Sさん。その言葉にかちんとくる妻Kさん。夫婦での話し合いでは出口が見えないため、FPに相談することにしました。

FPの助言

FPの意見は次のようなものでした。

・タワーマンションであろうと将来も相場が維持できるとは限らない
・残債をゼロにできるような売却ができるとは限らない
・毎月24万円の返済は可能だが、家計の収支はタイトになる
・子供の教育費のための預貯金を十分貯められない危険がある
・ペアローンでしか買えないのであれば、そもそも危険である

「個人的な意見をいえば、将来の計画が楽観的かもしれませんね」そうFPは言います。「もし賃貸のままでいったら家計はどうなるかを考えてみましょう」現在の家賃は18万円、それが住宅ローンを借りると毎月24万円の返済となります。その差額は6万円です。6万円を35年間で計算すると2,520万円。現在の家賃のまま住み続けたらその分を貯金できるということになります。

それに加えて、2人の定年退職金の見込み額は合計で7,000万円ほど。2,520万円と現在の預貯金3,200万円を合わせると、将来の金融資産は1億2,720万円になります。さらにボーナスや今後の昇給分を貯金するとしたら、もっと金融資産総額が増えることになります。子供の教育費に使ったとしてもそれでも1億円以上が残ることは確実でしょう。資産運用として投資をしなくてもいいほどです。

「この1億円超でリタイア後の生き方を決めればいいと思います。妻Kさんの故郷である宮崎に引っ越してもいいし、都内でリタイア後のマンションを購入してもいいですね。生き方と住む場所の選択肢を残すメリットがあります」そうFPがいいます。

今後の人口減少の社会では、マンションといえどもいまの相場を維持するとは限りません。現在の相場は不動産投資家たちの投資マネーが引っ張っている側面があります。引っ張られた相場のマンションを買うために高額な住宅ローンを借りてしまうと、ライフプランに大きな爆弾を抱えることになってしまいます。

妻Kさんは少し冷静になったようでした。「夫の意見が現実的だったかもしれませんね。賃貸に住み続けながら教育費を払い、預貯金を作っていけば、老後に選択肢が増えるということですよね」また夫婦で話し合って方向性を決めたいということで帰ったご夫婦でしたが、その後やはりマンション購入はやめるという決断をし、預貯金を増やす方向で話を進めています。

投資マネーがマンション価格高騰の一因とすると…

現在のマンション価格が需給バランスや建材価格の上昇という要素以上に、投資マネーの影響が大きいとしたら、今後の一般世帯にとって大きなリスクが潜んでいるということになります。

国内の不動産投資家にとっては、金融機関からの借入によってレバレッジをかけて利回りを確保する手法が一般的です。昨今の超低金利を背景に投資需要が旺盛になっていた側面があります。しかし変動金利が上昇した場合はどうなるでしょうか。利回りが低下するのは必至です。

仕入れコストが上昇すれば、投資家のマインドは冷え込み、次第に売却・相場下降へと向かっていきます。下降圧力に耐えられるのはごく一部の地域にある超高級物件だけでしょう。

高利回り物件の売れ行きに陰りが見えてきた時がシグナルで、もうそろそろ今の相場では売れなくなるかもと思っておいたほうがよさそうです。株価のように毎日チェックできるわけではないのが不動産価格であり、NISAのようにすぐに売却できるわけでもありません。気づいたら逃げ遅れていたということもありえます。

いずれにしても投資家は簡単に逃げることができます。しかしそこを住処とし、しっかりと生活の根を張ってしまったらもう簡単に逃げられません。ペアローンで1億円超の住宅ローンを抱え、資産価値が下がってしまったらそこに住み続けるしか選択肢がなくなります。高額な大規模修繕工事などが将来に待っているうえに、売却によって次のライフプランを計画していたものが白紙になってしまいます。戸建て住宅のように一生住み続けることもイメージしづらく、家計の収支に大きなダメージを与えることになるかもしれません。

いわゆるパワーカップルのようにいくら世帯年収が1,500万円を超えていようと、毎月の給与所得に依存している家計では、今後の変動金利の上昇など経済環境の激変に耐えられる体力はそう強くはありません。勤務先での人事異動ですら年収が変わるのですから、投資家や超富裕層と肩を並べようとするような買い物、購買スタイルは無理があるといえるでしょう。

マイホーム購入問題を解決するためには

新築マンション価格は今後下がらないのでしょうか。

下がると見込んで購入を延期している「暴落待ち」が最近目立っていますが、それに対して売り手は「暴落はしない」「今後も価格が上がり続ける」と力説します。実際に生活するマイホームであれば、相場ではなく買えるかどうかで判断すべきではありますが、ペアローンでなければ購入できないような高額物件ではそうはいきません。高額な住宅購入をするのであれば、いずれ売却し老後資金の一助にするライフプランニングをすべきだからです。

もちろん筆者は今後の相場を断言する立場にはありませんが、事例の夫婦にも伝えたひとつの現実をご紹介したいと思います。

2030年空き家問題

2030年空き家問題という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

2030年は団塊の世代(1947年~1949年生まれ)が相続の時を迎える時期です。日本で最も人口ボリュームの大きなこの世代が次世代にバトンタッチすることによって、生まれるのが「空き家」です。団塊世代の子供世代、団塊ジュニア世代(1971年~1974年生まれ)は2030年には60代を迎えます。この世代にとっての親の世代の家(実家)を相続しても自分たちは既に自宅を購入しているため使い道がなく、多くは売りに出すことになります。

野村総合研究所によると2030年には空き家率が30%になると予想されています。2024年4月30日に総務省が発表した空き家率は13.8%なので、今後急激な増加に向かうことになります。このことにより、住宅は完全な供給過剰に陥り住宅価格が下がっていくという予測されています。しかし古いマンションや戸建て住宅に需要があるのでしょうか。日本ではこれまで新築住宅を優先する価値観があったはずです。特に戸建てでは中古市場が成熟していません。

ところが1980年代~1990年代に新築された建物であれば、2030年で築40年~50年。確かに古い建物ですが1981年に建築基準法が改正されていて、それ以前の建物と比べ耐震性能が上がっています。現代の建物と比較すると耐震、断熱、気密などの性能ははるかに劣るものの、ある程度のリノベーションで十分住めるようになるでしょう。

性能が劣るため光熱費などの負担は増えるかもしれませんが、もし会社員世帯が住宅ローンを借りることなく購入できるほど中古価格が下がってしまえば、家計上の負担はさほどでもありません。

もちろん2030年でも富裕層が購入する高級マンションは開発が進むはずです。しかし会社員世帯にとってのマイホーム選びは、もっと多様な価値観で臨むことができるようになるかもしれません。手持ちの現金で買える家を買う、家は何度でも安く買って住み替えていく、中古住宅にリノベーションをして住み価値を上げて売却する、そのような日本では見られなかったさまざまな価値観が生まれたら、住宅業界は激変します。

住宅ローンに縛られない暮らしをする時代が今のZ世代から下の世代で常識となるのかもしれません。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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