植物は著作物なのかーー弁護士に聞く『観葉植物パーフェクトブック』クレジット問題の争点

先日、X(旧Twitter)を騒がせていたのが、NHK出版が作成した『観葉植物パーフェクトブック』の問題だ。NHKの番組『趣味の園芸』に関連した実用書だが、この本に植物を提供したというアカウントが、「自分の名前が掲載されていない」とXに投稿。数多くリポストされ、反響を呼んだ。

「クレジットの抜け」という、道義的にはアウトな事態となってしまったこの一件だが、では「書籍において、掲載されている物の提供元を記載しない」ことに法的な問題はあるのだろうか。また、クレジットや引用元の記載において、法的な面ではどのような規定があるのだろうか。弁護士として小杉・吉田法律事務所に所属する小杉俊介氏に、この一件の法的側面についてお話を伺った。

ーー今回は「出版物を作成するために協力したのに、協力者として名前などが記載されていなかった」という一件ですが、これに法的な問題があると言えるのでしょうか。

当事者間でどのような約束・契約になっていたかによりますが、基本的には法律の問題にはならないと思います。写真やイラスト、文章といった著作物を勝手に使われて騒ぎになること自体はあります。最近も、「他人が作ったグラフを勝手に流用した」という騒動もありました。

ーーグラフなんて数字を元にして作るんだから、誰が作っても同じ……ということにはならないわけですね。

そうですね。「著作物を引用・流用する場合には、どこから持ってきたものかを明示しなくてはならない」というのは、著作権法上のルールです。書籍に限らず、リアルサウンドのようなウェブメディアでもそうで、画像や図表の出所を表示したり、主従の「従」に留めるようにするなど、一定のルールがあるんです。今回の件は著作物の引用とは異なるので基本的には別問題です。ただ、今回の件は果たしてそう割り切って終わりで良いのか、考えさせられるところがあります。

ーーと、いいますと……?

写真は、その写真を撮影した人の著作物になります。では、撮影対象が別の人の著作物だった場合はどうか。絵や彫刻などを撮影した場合ですね。写真の中に写り込んでいる物の著作者の著作権侵害が問題になった裁判も実際にあります。照明器具のカタログ写真に書道作家の「書」が写り込んでいた件でした。

ーーでも、今回の写真の被写体は植物であって、誰かの著作物ではないですよね。

そうです。でも、そこで「植物は著作物になり得ないのか」という問題が浮かび上がってきます。今回のケースだとかなり珍しい植物を貸しているようですね。例えば同じ植物でも、盆栽は作者の作品として著作物性が認められ得ます。では、盆栽と「すごく珍しくて、日本でも一人しか持っていないような、貴重な観葉植物」の差はどこにあるのか。著作権の理屈で言えばそこに個人の創作性が認められるかどうかということになりますが、「貴重な観葉植物」に個人の創作性が認められる余地が全く無いとは自分には言い切れないです。ある意味、「著作物」の定義の限界に迫るような問いなので、不謹慎ながら「興味深いな」と思ってしまいました。

ーー確かに、「植物は著作物になり得るのか」という問いは、考えるほどよくわからなくなりますね……。

この件にニュースバリューに生まれたのは、恐らくそれらの観葉植物についてSNS等で特定の個人と紐づいた認識があったからじゃないでしょうか。その認識と「それらの観葉植物はこの人の著作物でもある」という判断とは、実は地続きだと思うんです。そう考えると意外と難しい問題だと思いました。

ーーそもそも、「出版物の奥付にはこういった内容を記載しなくてはならない」という法的な規定などはあるんでしょうか?

奥付表記の具体的な法的規定はありません。奥付自体は江戸時代の和本に由来する物で、明治時代から戦前・戦中にかけてまでは出版法という法律によって記載が義務づけられていました。出版法によって義務付けられたのは、発行者の住所氏名、発行年月日、印刷社の住所氏名、印刷日で、これを文書図画の末尾に記載することが定められました。この出版法は出版物の取り締まりを目的としており、政府が出版物への検閲を行なうことを定めていたため、終戦後に廃止になっています。ただ、奥付の記載ルール自体は出版業界の慣習として生き残っているため、現在でもあの形の奥付けが掲載されています。

ーーそういった経緯があったんですね。では、現在の奥付は特に法的な規則で掲載されているわけではないんですね。

そうですね。奥付と似たようなものに映画のエンドクレジットがありますが、あれも必ず流さなくちゃいけないというものではありませんよね。昔の映画だと映画の冒頭に出演者や主要スタッフの名前がざっと出て終わりだったりしますし、今だって完全にスタッフ全員の名前が出ない場合もあります。あくまで業界の慣習として、「この著作物にはこういう人が関わりました」ということを列挙しているだけで、時代と共に記載ルールや形式が変化しています。奥付もそれに近いところがあります。

ーーなるほど。では「協力者の名前を出版物に書くかどうか」は、法律上の問題ではなく純粋に慣習や道義上の問題と言えそうですね。

「深く協力してくれた人の名前を出版物に記載しない」ということ自体は道義的に問題になるのは理解できます。ただ、あくまで第一に契約の問題であって、法的な問題とするのは難しいでしょうね。

ーー「出版物のクレジット」というのは、法律ですっぱりと割り切れない、ある意味で複雑な問題なんですね……。

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