相続発生…故人の銀行口座の「残高証明書」はなぜ必要か?【相続専門税理士が解説】

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相続が発生したとき、故人の銀行口座の扱いに迷う方は少なくありません。ここでは、相続時に必要となる「銀行口座」関連の各種手続きと、手続きに必要となる、相続人が準備すべき書類等について見ていきます。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

相続手続きに必要となる、銀行の「残高証明書」とは?

母が他界し、相続手続きを進めているのですが、相続を経験した知人から、銀行預金や郵便貯金を相続するときに、先に「残高証明書」を取得していたほうがいいとアドバイスされました。手元の通帳を見れば、残高はわかるのに、なぜ残高証明書が必要なのでしょうか?

50代・会社員(千葉市・花見川区)

通帳がすべて保管されていれば問題ないかもしれませんが、長らく記帳していない可能性や、通帳自体を紛失している可能性も考えられます。そのため、亡くなった方の全財産を漏れなく把握するには、銀行残高証明書を取得したほうがいいのです。

もしかすると、相続人の方々が知らない口座が出てきたり、借入金など、通帳の通帳だけでは把握しきれない負の資産があったりするかもしれません。

銀行残高証明書は、取引されていた口座の各残高を書面で証明するものであり、借入金などもすべて記載されます。

金融機関での「残高証明書」の取得方法

残高証明書は、各金融機関に申請すれば発行してもらえます。

金融機関によって多少の違いがあるかもしれませんが、申請の際に必要なものは、原則として下記になります。

●亡くなった方の戸籍謄本または除籍謄本
●相続人の戸籍謄本
●申請する方の本人確認書類
●実印と印鑑登録証明書

発行手数料も必要ですが、こちらも金融機関によって金額に差があるので注意しましょう。

相続財産としての「既経過利息」って?

残高証明書には、普通預金だけでなく、定期預金の残高も記載されますが、定期預金には注意点があります。

通常は「既経過利息」という〈預金を相続開始日で解約したときに支払われる利息・未収になっている利子所得の金額〉が記載されていないため、それを記入してもらうように依頼することが必要です。金融機関によっては、残高証明書とは別に「既経過利息計算書」を発行してくることもあります。

残高証明書に記載してもらう残高の日付は「相続開始日」であり、残高証明書の申請日ではない点も要注意です。

預金利息を受け取る際には、20.315%の税率を乗じて算出した所得税と住民税が源泉徴収されるため、源泉徴収額を控除した金額が、相続財産となります。

故人の銀行口座の所在を探す方法は?

ここまでは、被相続人の通帳が残っており、どの金融機関に口座があるかわかっていることを前提として解説してきましたが、もし、通帳を紛失していた場合や、どこの金融機関に口座があるかわからない場合はどうすればよいのでしょうか?

亡くなった方が遺言書を書いていれば、どこの金融機関と取引していたかわかりますが、遺言書がない場合は、相続人が自分で調べなければいけません。

調べる方法は、まず家のなかをくまなく探し、通帳やキャッシュカード、利用明細書といった手がかりを探すという、地道な作業からはじめます。

金融機関の社名が書かれたカレンダーや、広告宣伝の郵便物が残されていた場合は、その金融機関に口座が存在している可能性があると考えるべきでしょう。

インターネット専用銀行の場合は、メールやスマートフォンの銀行アプリを確認するか、郵便物を確認するしかありません。

相続発生で「預金口座は凍結される」というのは本当か?

相続が発生したことを金融機関に伝えると、そこにある口座の預貯金が凍結されて引出不能に…という話を聞いたことがある方も多いでしょう。

被相続人が亡くなったことを金融機関に知らせると、被相続人の口座は凍結され、出金だけでなく入金も含め、一切の取引ができなくなります。

口座が凍結されるのは、預貯金を相続財産として保全するためです。預貯金は遺産分割が確定するまで、相続人のうち誰のものになるか決まっていない状態にあるため、誰にも引き出せないようにする必要があるのです。

遺産分割が確定したあと、名義変更の手続きが完了すれば、被相続人の口座は相続人の名義の口座になります。その口座で今後取引するつもりがなければ、解約して払い戻しすることも可能です。

葬祭費用等を賄う「預貯金の払い戻し制度」

しかし、人が亡くなれば、葬儀や火葬の費用、未払いの医療費の支払いなど、多額のお金が必要となります。被相続人の口座からその費用を引き出したいと考える方も少なくないでしょう。

実は、「預貯金の払戻し制度」といって、一部のお金を先に引き出せる制度があります。法定相続人であれば、単独で払い出しすることが可能です。

ただし金額には制限があり「預貯金残高の3分の1に、法定相続分をかけた金額」が引き出せる上限となります。そのうえで、1つの金融機関から引き出せるのは最大150万円までとなっています。

「預貯金の払戻し制度」を利用する場合、金融機関には「被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本」「相続人全員の戸籍謄本」「申請する相続人の実印と印鑑証明書」が必要となります。

とはいえ、銀行でいきなり申請するのではなく、事前に問い合わせておいたほうが安心であり、スムーズだといえるでしょう。

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

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