「六月病」はうつ病の入り口 「五月病」とは深刻さが違う 責任感や大人の付き合い…ため込んだストレスで「伸びきって戻らないバネ」に 早期発見には周囲の協力が重要

ここ数年、6月頃に心身に不調をきたす「六月病」が増えているという。4月に入社や異動などで環境が変わることが原因だが、昔からよく聞く「五月病」とは、似ているようで異なるものらしい。

職場のメンタルヘルスに詳しい「人形町メンタルクリニック」の勝久寿院長に、「六月病」の症状や予防法について詳しく聞いた。

■「五月病」と「六月病」の違い…「六月病はうつ病の入り口」

人形町メンタルクリニック 勝久寿院長:「五月病」と「六月病」は似ているようで、違うものです。「五月病」は、新入社員に多くみられる症状で、医学的には「適応障害」と診断されます。4月からの環境変化によるストレスが、5月の連休明けぐらいから不調として出てきます。

仮に、ストレスを「おもり」に例えるとします。社会人になり、「こんなに重いおもりを持つとは思わなかった」と思いながらも頑張っていたけれど、連休で、いったんおもりを下ろしたら、「もう持ちたくない。無理だ」というのが五月病。

一方、「六月病」は、中堅社員…中間管理職といった立場の人に多くみられる症状で、重くなると医学的には「うつ病」と診断されます。「うつ病の入り口」という状態です。

4月に異動や昇進などで環境が変わり、それがストレスの原因となるのは五月病と同じですが、違いは「長く我慢してしまう」こと。中堅社員は、それまでの仕事の付き合いや責任があり、簡単には投げだせません。重いおもりを我慢して持ち続ける…我慢に我慢を重ねた結果、次第に症状が悪化してしまうのです。 五月病は急性の病気、六月病は慢性の病気とも言えます。

■五月病と六月病、見分けるポイントは休日の過ごし方

人形町メンタルクリニック 勝久寿院長:五月病も六月病も、ストレス(おもり)によってバネが伸びた状態です。症状としては、どちらも、憂鬱(ゆううつ)になったり、不安になったり、やる気がなくなったり、体の調子が悪かったりします。しかし決定的な違いがあります。五月病は、おもりと外すとバネが元に戻ることが多いのですが、六月病は進行すると、バネが伸び切ってしまい、おもりを外しても元には戻りません。

五月病と六月病の分かりやすい目安として、「おもりを外した時にどう変わるか」、つまり、休みの日の過ごし方で判断できます。五月病(適応障害)でとどまっている人は、休みの日に活動できます。おもり(ストレス=仕事)を外すとバネが元に戻り、友達と会ったり運動したりと、外出ができます。しかし、六月病(うつ病)の方に休日の過ごし方を聞くと、皆さん、「一日中、横になっています」と返ってきます。おもりが取れても、体が思うように動かない、何かをやろうという気持ちになれない。そうなったら赤信号です。バネが元に戻っていません。

また、六月病の場合、意欲の低下や集中力の低下が、自分でも分かるようになります。人の話が頭に入らないとか、本を読んでも内容が頭に入ってこないといった状態です。

よく、「六月病になったらどうすればいいのか?」と聞かれますが、休日に外出できないぐらいまでになっているなら、「病院に行った方がいい」という返答になってしまいます。だからこそ、六月病を早期に見つけていただきたいのです。

■周りが早く気付いて、入り口で引き留める

人形町メンタルクリニック 勝久寿院長:五月病は自分からSOSを出せる人も多いのですが、六月病は抱えてしまって、我慢し続けてしまっているので、周りが早く気付くことが大切です。六月病が進行してしまう前に、入り口の段階でいかに戻せるか、周囲のサポートが重要です。

六月病(入り口)の人の傾向として、下記のようなことが挙げられます。

*新しいことを嫌がる
余裕がないので変化を嫌がります。柔軟性がなくなり、新しいことを頼むと目に見えてイライラしたりします。

*細かくなる
不安が強いので、「これ以上、何かあっては大変だ。耐えられない」と思い、失敗しないために細かく確認をするようになります。自分自身も、他人に対しても、それまでと比べて細かくなります。

*ストレスから離れられなくなる
何かあったら大変だとの思いから、休日に会社に行ってしまったり、遅くまで会社に残るなどします。不安な気持ちからそのような行動になります。

*急に怒り出す
いつもと同じように話しているのに、責められているようにとらえてしまう…何気ないことに対して、馬鹿にされた、嫌われたなど、悪い方に解釈してしまいます。そういう時は、「この人どうしたの?」と思うのではなく、「大丈夫?何かあったの?」と言ってあげることが大切です。

心の病気の場合、症状の重い軽いと、治りやすさとが、必ずしも比例するわけではありません。しかし、ストレスが過剰にかかっている状態で病気になる訳ですから、早く気付くことは重要なことです。ストレスが多い職場ほど、お互いが支えあうことが大切です。

■ストレス=悪ではない

人形町メンタルクリニック 勝久寿院長:心も筋肉と同じように、ちょうどいいストレスは強くなることが出来ます。社会生活を送っていると、楽しいこと、うれしいことだけではありません。適度なストレスを、段階的にかけて、筋トレのように徐々に心を鍛えていくことは、様々な経験を受け入れられるようになるために必要です。図太くなれることは大事なことなのです。

■自分で出来るケア

*睡眠をとる
当たり前のことのようですが、睡眠時間をきちんと取れていない人は多くいます。しっかり眠る、食事をとる、運動をするといった基本的なことを大切にしてください。

*自分の簡単な“お守り”を作る
自分の気持ちが和らぐ、ちょっとしたことを見つけて下さい。「深呼吸」「空を見る」「好きな香りのハンドクリームを塗る」など、どんなことでもOKです。少し調子が悪いなという時に、ちょっとした息抜きをするのです。これは「コーピング」と言われるストレスへの対処法で、ストレスへの対応力が高まります。

*自分の柱を増やす
人は、趣味・仕事・人間関係などの柱の上に立っているようなものです。もし仕事でぐらついてしまっても、他の柱が支えてくれ、柱の数が多いほど安定します。柱の多い人はストレスに強い人です。

人形町メンタルクリニック 勝久寿院長:「六月病」には、日本特有の事情もあります。春は気持ちが動揺しやすい時期。そんな中で、3月に年度の区切りがあり、4月からは新生活が始まります。ストレスや疲れが溜まってきた頃に梅雨がきます。6月はジメジメして自律神経の乱れが起きたり、雨で計画通りに進ままないこともあります。また、祭日がないので、ストレスを解消する機会も少なくなります。

日ごろからストレスと上手に付き合う方法を身につけ、周囲とのコミュニケーションを取ることで、「こころのバネ」が伸びきらないようにしていただきたいと思います。

(人形町メンタルクリニック 勝久寿院長)

(関西テレビ 2024年6月23日)

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