「紳士的」な警視庁と「ヤクザか」と揶揄される大阪府警…ここまで違う「家宅捜査」のスタイル【元新聞記者が解説】

刑事によって、2人一組で行われる取り調べ。犯罪者や容疑者は、往々にして自分に不利益な供述を避けようと必死になるそうです。しかし、取り調べで黙秘をすることは彼らにとって得なのでしょうか、損なのでしょうか。『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)より、著者の三枝玄太郎氏が取調室の実情と判例について詳しく解説します。

大阪府警の家宅捜査は群を抜いて派手

殺人事件の捜査をする捜査一課と並んで、ドラマや映画によく出てくるのは、暴力団の犯罪捜査を行う捜査四課ですね。ヤクザ相手に一歩もひるまない職人集団です。

テレビのニュースにも、暴力団事務所を警察が家宅捜索する様子が映ることがあります。私はこれを見るのが趣味に近いほど好きで、ユーチューブでつぶさにチェックしています。おもしろいのは、どこの警察が家宅捜索に入るかによって、大きな違いがあるということです。最も派手で、テレビ映えがいいのは群を抜いて大阪府警です。

ちょうど大阪社会部に勤務していた2005年11月の話です。夕方、MBS毎日放送を見ていたところ、山口組極心連合会(大阪府東大阪市、2019年に解散)組長の自宅を大阪府警が家宅捜索をした、というニュースが流れました。

強制執行妨害容疑で逮捕された組長は、家宅捜索を察して組員を座り込ませていたそうです。しかし、警察はものともせず、大柄な暴力団組員を投げ飛ばしてずんずんと中に入っていくではありませんか。ワイシャツ姿の組員が、金網にガシャーンと音を立てて投げ飛ばされる〝修羅場〞には、見ていて衝撃を覚えました。

大阪市西成区にある山口組弘道会吉島組の事務所を家宅捜索したときの荒れっぷりも、ものすごいものがあります。「大阪や!」「はよ、開けんかい!」と怒鳴り散らす捜査員の様子は、「どっちがヤクザか分からん」という題でユーチューブにアップされ(これもMBSテレビのニュース映像)、3年間で何と3,790万回以上も視聴されています(2024年3月現在)。

警視庁の刑事さんが、大阪府にある暴力団の組員を取り調べていたときの話をしてくれたことがあります。刑事さんがタバコを忘れて刑事部屋まで取りにいこうと立ち上がったところ、容疑者があからさまにビクッと震え上がり、顔をさっと手で覆う仕草をします。

「何だ、どうしたんだ?」「殴られるんじゃないかと……。それか、道場にでも連れて行かれるのかと思って」。

こりゃあ、大阪府警の調べは相当迫力があるんだなと思ったそうです。「大阪は大変だねえ」と同情するそぶりを見せて、ちゃっかり、かなり核心まで供述させたんだけどね、とこの刑事さんは自慢していましたが。

家宅捜索は「ショー」的な要素も

たしかに、大阪と東京とではカラーが真逆といいますか、警視庁の家宅捜索はかなり紳士的です。

山口組落合金町連合を家宅捜索した際のフジテレビの映像がネット上に残っていましたが、暴力団のほうがいきり立って「開けらんねえよ、この野郎!」と敷地内から怒鳴り続けるのに対し、外で待機した捜査責任者(高尾警察署員)は「開けなさい」「私と話をしよう。私が責任者だ」と冷静です。

あくまでも主観ですが、捜索の過去映像を見たかぎりでは、怖い順に大阪府警>福岡県警>岐阜県警>北海道警>静岡県警・警視庁その他……といったところでしょうか。福岡県警も全国唯一の特定危険指定暴力団である工藤會が管轄にいますからね。福岡県警の家宅捜索も迫力があります。

ちなみに「家宅捜索はテレビ映えがいい」と言いましたが、警察もメディアに映ること前提で家宅捜索することが結構あります。いわば一種の〝ショー〞であり、逆に、極秘裏に行うのが〝ガチ〞の捜索というわけです。

森功『大阪府警暴力団担当刑事「祝井十吾」の事件簿』(講談社)の登場人物である大阪府警捜査四課の刑事は、「(大阪)府警のガサは本気ですからね。警視庁とか兵庫県警なんかは、事前に向こうに『ガサを入れるから』と連絡をする。抵抗せんよう話し合いができているらしく、もめることはほとんどありません」と話しています。

暴力団の組事務所や幹部の自宅には、土佐犬などの闘犬や凶暴な生き物が飼われていることがかなりあります。静岡県警の刑事に聞いた話ですが、あるガサ入れの際、やはり立派な土佐犬がケージの中で飼われていたそうです。

捜査員が「ここはいいか……」と帰ったら、後日、犬のお腹の下に拳銃が隠してあるのが判明し、大騒ぎになったといいます。以来県警では、闘犬がいる場合は、あらかじめ組員にケージから出してもらって捜索するのだ、と言っていました。マスコミのカメラの前で嚙まれるなんて、警察の威信に関わりますものね。

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