銭湯が次々廃業!「儲けはあんまりない」 燃料費高騰や施設の老朽化も “物価統制令”で自由に値上げできず

昔ながらの「銭湯」が次々に廃業している。物価高騰により、ガス代や施設の老朽化などが経営を圧迫している上に、銭湯の入浴料は、都道府県ごとに上限が決められているため、自由に値上げをすることができないことも要因のひとつだ。

人気施設が突然の閉館発表

福岡空港の近くにある人気施設「博多由布院・武雄温泉万葉の湯」。2001年のオープン以来、大分県の由布院と佐賀県の武雄から毎日、温泉水が運び込まれ、九州の名湯を気軽に楽しめると年間、約30万人が利用している。

直近の利用客は、コロナ禍前を上回る数まで回復していたという。しかし、入り口には「2024年8月を持って閉店する」と大きな張り紙が貼り出されていた。

施設のホームページには、「昨今の建設コストの高騰を始め、人件費や仕入材料費の上昇、さらには人材の採用難等々、今後の経営環境はいっそう厳しいものになっていく」と苦渋の決断の実情がつづられている。

建物や設備の老朽化が進み、建て替えを含めた工事を検討するも、建設コストが高騰していることなどから施設の売却を決めたというのだ。

「閉館っていうことなので、来てみようかなと思って」「便利がよくて、たまに来てたんですよ、近いから」と話す利用者たちもおり、施設をよく利用している男性は、「ほぼ毎日、来てるんですよ。だからこれからどうしようかなと。今後は考え中です」と困惑した様子を見せるなど、突然の閉館発表に惜しむ声は後を絶たない。

全盛期は約1000軒 今は20軒ほどに

物価高騰の波は、利便性が高い都心の人気施設でさえも避けられず、その厳しさは、昔ながらの「銭湯」にも容赦なく襲いかかっている。

公衆浴場という役割にとどまらず、地域の“憩いの場”として愛されてきた銭湯。福岡県内には、ピーク時で1000軒近くの銭湯が営業していた。

60年以上に渡って続いた福岡・北九州市八幡西区の銭湯を訪ねると、2024年3月をもって廃業となっていた。

看板などはそのままに、正面に「閉業致しました」の知らせが貼り出されていた。「子どもたちが小さい頃からよく使わせてもらっていた」と近くに住む人も寂しそうに振り返る。

今、昔ながらの銭湯の廃業が相次組合加盟数は最盛期と比べ、実に10分の1にまで激減している。

福岡県内でも2024年3月に福岡市と北九州市、あわせて4軒の銭湯が廃業し、今では20軒ほどしか残っていない。

ガス代に設備費 値上げも難しく

地域の再開発や後継者問題など、様々な理由から廃業を選ぶ銭湯が相次ぐ中、特に経営を圧迫しているというのが昨今の「燃料価格」の高騰だ。

北九州市小倉南区で60年余りに渡って営業を続ける「幸温泉」では、週5日、午後3時半から夜9時までの半日足らずの営業時間だが、朝から湯を沸かして準備をするためガス代は月に約30万円かかる。ここ数年で10万円ほど上がったという。

さらに、「部品を全部換えるわけ。1本のシャワーで15万円はかかる。ばかにならないよ、これ。今回はもう悪いところだけ、4~5本くらいかな」と洗い場のシャワーについて話す幸温泉の吉岡利明さん。

年々、設備の老朽化が進んでいるが、費用がかさむため壊れた部分だけを少しずつ修理して対応しているという。

入浴料は、大人(中学生以上)で480円、中人(小学生)200円、小人(小学校入学まで・乳幼児を含む)100円だ。

銭湯の入浴料は公衆衛生の観点から戦後間もない1946年に制定された「物価統制令」に基づき、その上限が都道府県単位で決められている。スーパー銭湯などと同じ民間事業者が経営しているにも関わらず、自由に価格を決めることができないのだ。

「儲けはあんまりないよ。お客さん、来ればいいよ。値上げして客が減ったら元も子もない」と吉岡さんは苦しい胸の内を語った。

組合の理事長も務める吉岡さんは今後、福岡県に対し、入浴料の上限引き上げを要請したいと考えている。しかし、吉岡さんは、「ここでおしゃべりしてね、2時間、3時間おったら『極楽、極楽』って帰ってくれる。きれいになってね。値上げしたらお客さん、減るやろね。どうしようもないね」と、値上げで年金暮らしの高齢者が銭湯を利用しなくなるのではと懸念している。

移り変わる時代の中で、銭湯は消えていってしまうのか。
日本の「癒やし」の文化にも、エネルギーの高騰が暗い影を落としている。

(テレビ西日本)

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