『ブラックペアン』S2の二宮和也は想像以上? 日曜劇場初挑戦の西浦正記監督に狙いを聞く

7月7日から始まるTBS日曜劇場『ブラックペアン シーズン2』。2018年4月期に二宮和也主演で放送されたシーズン1の“続編”となる本作だが、主演の二宮はシーズン1で演じた渡海征司郎ではなく、“別人”の天城雪彦を演じるというこれまでにない試みが行われている。そんな本作のチーフ演出を務めるのは、『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~』(フジテレビ系)など数々のヒットドラマを手がけてきた西浦正記。日曜劇場というドラマの中でも特別な枠、そして続編の監督を務めるにあたり、どんな心構えで臨んだのか。放送を前にじっくりと話を聞いた。(編集部)

●「どれだけ新しい楽しみを視聴者に提供できるか」

――西浦監督にとって初めての日曜劇場となりますが、伊與田英徳プロデューサーから依頼を受けて、すぐに快諾されたそうですね。

西浦正記(以下、西浦):「日曜劇場だ」という責任の大きさは感じましたが、地上波ドラマで育った人間として、「ここでチャレンジしなくてどうするんだ!」という気持ちがすごくありました。

――やはり日曜劇場の存在は大きいものなんですね。

西浦:言い方が難しいですけど、予算感、規模、あとはスタッフみなさんの意識、すべてが全地上波ドラマを背負ってやっていらっしゃるイメージがあって。フジテレビ周りでお仕事させていただいていたときには、正直「すごいなぁ」と思うだけでしたが、フリーになってからは、やっぱり「いつかは」という思いもありましたね。

――これまでの作品を拝見して、西浦監督にはチーム、さらにはそれ以上の大人数にスポットを当てるのが上手だという印象があります。

西浦:ありがとうございます。ただ『ブラックペアン』では、やはりシーズン1で福澤(克雄)監督が作られたキャラクター造形が素晴らしくて。元研修医の方も含めて、ちゃんと細かく作られていることに驚きましたし、自分の中で腑に落ちるところもありました。そういった意味でも、今回やらせていただいてすごく良かったなと思いますね。

――とはいえ、福澤監督の後を引き継ぐというのはプレッシャーがすごいですよね。

西浦:はい、ものすごいです(笑)。自分としては、福澤さんの『ブラックペアン』を超えるということではなくて、“また別の『ブラックペアン』をどうやったら面白く見せられるか”と考えるようにしています。正直、超えることはできないんですよ。まず第一にご本人の力量もありますし、時代もありますし、ストーリーの違いもありますし。たとえ同じ舞台であっても、絶対に超えることは不可能だと思っているので、どれだけ新しい楽しみを視聴者に提供できるかを考えるようにしています。

――演出する中で「シーズン1のここを継承しよう」、逆に「シーズン2ではここを攻めていこう」というところを教えてください。

西浦:もともといるキャラクターに関しては、完全に引き継いでいこうと思っています。たとえば当時40代後半くらいの人は、6年経とうが、7年経とうが、リアルに考えてもあまり“キャラ変”はしないじゃないですか。10年くらい経つと、ちょっと頑固になるとかはあるかもしれないですけど(笑)、基本は変わらないので、そこはそのまま踏襲させていただきたいなと。センシティブに作っていったのは、天城(二宮和也)もそうですが、やはり世良(竹内涼真)ですね。シーズン1では病院に入ったばかりの研修医で、夢も希望もあって、それをダイレクトにぶつけていくようなキャラクターでした。でもシーズン2では、研修医から医者になり、20代の真ん中から30代に差し掛かる年齢になっているので、ここは結構変化が出るだろうなと。それはご本人とも探り合いながら、台本の意図を伝えつつ、よりリアルな年齢の変化、成長を見せたいと思ってやっています。

――キャラクターを作っていく上で、竹内さんとはどのようなお話を?

西浦:今回は新しく研修医のパク・ミンジェ(キム・ムジュン)という役が登場しますが、どうしても過去の世良のイメージと重なるようなところがある。そこと比べたときに、今の世良は思ったことをダイレクトに言うのか、ワンクッション置いて言うのか、といったことをいろいろなシーンで話し合いました。基本的には、落ち着いて自分の考えを言えるようになっていますが、やっぱり世良らしくいてほしいところもあるので、その調整を日々やっています。(視聴者が)もともとの世良を期待していると、少し物足りなく感じてしまう可能性もありますけど、年齢や立場の変化をポジティブに受け取っていただけるとありがたいなと思っています。

――西浦監督は、ふだんから主人公以外のキャラクターを引き立てる演出について、どんなことを意識されているのでしょうか?

西浦:『コード・ブルー』のときにもやりましたが、群像の中にいるけれど、あまり前に出てこないようなキャラクターの場合、「何を持たせるか」「癖を何にするか」ということを考えます。今回も、レギュラーのみなさんには手を加えていませんが、ゲストキャラにはそういうものをなるべく足していければと思っています。たとえば嫌なヤツだったら、30分ずっと爪を噛んでいる、みたいなことですよね。出演時間が少なければ少ないほど、強めの個性を出さなければ印象に残らなかったり、最終的な結末が盛り上がらなかったりもするので、そこは意識しています。

●西浦正記監督が驚いた二宮和也の作品理解度

――あらためて、『ブラックペアン』の現場に入られた感想はいかがですか?

西浦:みなさん、お芝居がすごくしっかりされている方々なので、ワンシーンワンシーン、自分の想像を超えて来てくれるんです。これは本当に幸せなことだなと思いながらやっています。

――特に驚かされたことはありますか?

西浦:やっぱり二宮さんの芝居がすごくて。大事なシーンの撮影があると、1週間くらい前にヒントの出し合いみたいなことをするんですよ。「絶対こうしようね」ということではなくて、「このとき天城ってどうするかね」「声は掛けないよね、たぶん」という感じで。でも、最終的には二宮さんがカチッと固めて、ドライ(※リハーサル)でバンッと出してくるので、「おぉぉ」と(笑)。もう8割くらいがそうかもしれません。素晴らしいなと思いますね。

――二宮さんとは過去に『拝啓、父上様』(フジテレビ系)、『優しい時間』(フジテレビ系)でもご一緒されているので、再び二宮さんと組むことへのワクワク感もあったのではないでしょうか。

西浦:それはもちろんあります。昔お仕事した人とまた一緒にやるというのは、ドキドキしますし、自分がどれだけ成長できているか、どれだけ研鑽を重ねて来られたかな、と試されるような気もします(笑)。

――一方で、今回は同じ二宮さん主演でありながら、演じる役が違うという挑戦もあります。

西浦:そうなんです。なので見た目についても、ご本人といろいろと話をしました。彼の髪の長さを考えたときに、どうしても渡海との違いを出しにくいので、「シルバーにしたらどうか」とか「ピアスをつけたらどうか」とか。渡海は見た目を気にしないタイプだったけど、天城はビジュアルも気にするし、いわゆる美的な造詣にも深い人だと考えてやっていこう、という話になりました。

――ドラマを制作する中で、二宮さんから提案されて印象的だったことはありますか?

西浦:シーズン1では「誰かがオペを失敗して、それを渡海が助ける」という流れが名物になっていましたが、今回第1話のオペシーンでは誰かが失敗するのではなく、“ただ彼の技術が素晴らしくて、華麗である”ということを表現しなければいけなかった。さてどうしようかと悩んでいたところ、彼から「新しい劇伴を作るのではなくて、もともとあるクラシックの曲を使えないか」と提案されました。しかも、スタンダードナンバーではないけれど、どこかで聴いたことがあるような、ちょうどいいところを突いてくる。「この人はクラシックにまで造詣があるのか」と思って驚きましたよね(笑)。実際、オペシーンに織り交ぜて編集することで、軽やかかつドラマチックな映像に仕上がったと思います。

――本当にキャストの方と一緒にドラマを作り上げているんですね。

西浦:まさにそうですね。他の監督がどうやっているかはわかりませんが、僕は中身に関してよく喋るほうだと思います。今回も、いろんなキャラクターの方となるべくコミュニケーションを取るようにしています。

――なかでも印象的だったお話はありますか?

西浦:佐伯清剛役の内野さんとは、台本上からフィードバックされるお芝居と、シーズン2全体において「佐伯は何を考えているのか」ということをよく喋っていました。今回、彼は病院長の椅子に座ることになりますが、「後ろの額に“書”を額装して入れたい」という話になって、僕は「一度すべてを焼き尽くして、そこからスタートする」というような意味合いで「燎」(かがりび)を選んだんです。そうしたら内野さんに「自分としてはカンフル剤を打って、今少し停滞している東城大と医療の世界を変えていきたい、といった気持ちでいたけれど、それを全部リセットするくらいの気概で始めるんだ、ということに合点がいった」とおっしゃっていただいて。佐伯がその書を眺める芝居を入れていただけたりもして、すごくよかったですね。

――間もなく第1話が放送されますが、撮影中に「ここは惹き込まれた」という注目シーンを教えてください。

西浦:二宮さんのアドリブのシーンはすごかったです。先ほど言ったように、ヒントの投げ合いをしたあと、答えが出ないまま現場が始まり、ドライをやったときに、ものすごい勢いでアドリブをワーッと喋り始めたわけですよ。その内容も素晴らしかったし、現場の空気にもいい緊張感が生まれました。いわゆる医師としてのこだわり、患者に対する思い、そういった自分の中にある哲学の欠片を世良に訴えかけるんですが、撮影しながら自分が一瞬止まってしまうくらい、心に来るものがありました。あとは、やっぱり天城と渡海のキャラが全く違う。渡海は“短いワードで刺さる人”でしたが、天城は“サーッと一気に喋ってそれを伝える”という手法に変えているので、そんなキャラクターを伝えるシーンでもありますね。

――伊與田プロデューサーから、西浦監督は自分の考えだけに固執しない、台本に寄り添う監督だとお聞きしました。本作に限らず、常にそのあたりを意識されているのでしょうか。

西浦:共通言語として台本があるので、そこを逸脱したいなら自分で企画を立てて、自分で脚本を書けばいいと思うんです。でも、プロデューサー、原作者、脚本家がいらっしゃって、その方々に「今回はこれをやっていきたい」という気持ちがあるので、そこをあえて逸脱する必要はなくて。「“何を言いたいか”をどれだけちゃんと見せられるか」を考えながら、表面張力ギリギリのところを攻めたいなと思っています。バーッと注いで溢れさせることは簡単だけど、この枠で、こういう座組で、こういうことをやりたいと思っている、という共通言語があるので、そこを面白くするために「どうギリギリを攻めようかな」と常に考えています。

――3月に独立されたとのことですが、フリーになって新たな気づきなどはありますか?

西浦:制作側の想いが強い作品は、いいものになる。そんなスタッフの想いを束ねるのが監督の仕事でもありますが、やはりそれぞれの想いが強い番組や作品はいい結果につながると思います。あとは本当にいろいろな作品が選べるので、それはすごくありがたいことですよね。

――これからは、“西浦監督らしくない”作品が見られるのも楽しみです。

西浦:自分の頭の中でも、くるくると角度を変えながらやっています(笑)。7月19日には『逃走中 THE MOVIE』が公開されますが、まずはこの『ブラックペアン シーズン2』をみなさんに楽しんでいただけたらと思っています。

(文=nakamura omame)

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