日本にオランダ・インド・トルコの軍艦が3日連続で寄港…ロシア・北朝鮮の戦略的パートナー条約が世界にもたらす激震

24年ぶりのプーチン訪朝がもたらしたもの

6月19日午前3時頃、ロシア政府の特別飛行隊に所属するIL(イリューシン)-96-300型3機が、北朝鮮の平壌に降り立った。

そのうちの2機は、ロシア大統領が政府や軍のすべての部門と連絡が取れるよう最先端の通信システムの一部となるアンテナを格納する平たい出っ張り(フェアリング)が機体上部にあるIL-96-300PUだった。

「PU」というのは、「Punkt Upravleniya (пункт управления)=(指揮所)」の略で、ロシアの大統領が、必要に応じ、核戦力を含む軍の作戦を指揮する“空中指揮所”として機能するとみられている。

将来の核戦争をも視野に入れて作られたIL-96-300PUから降りてきたのは、24年ぶりに平壌を訪れたプーチン大統領だ。

戦略核、戦術核を保有する五大国の一国の指導者は飛行場で、核兵器開発を急ぐ北朝鮮の最高指導者、金正恩総書記と抱き合うと、これ以上はないと思えるほどの笑顔を見せた。

それはなぜか?

「北朝鮮からロシアに入った少なくとも1万個の輸送コンテナを突き止めていると韓国政府は明らかにした。ロシアがウクライナへの砲撃で使用したような砲弾を最大480万発も搬送が可能なコンテナ数だ」(ブルームバーグ6/14付)という。

ロシアと北朝鮮の戦略的パートナー条約の衝撃

この数字が正しければ、プーチン大統領のこぼれんばかりの笑みは当然のことかもしれない。ロシア国内で生産されている砲弾の数は、1日当たり約6000発。ウクライナで発射している数は、1万発(Forbes 2/15付)との見方もある。つまり、砲弾不足に陥りかねないのだろう。

砲弾を補充してくれる北朝鮮の存在はプーチン大統領にとって心強いものなのかもしれない。

翌6月20日、ロシアと北朝鮮は「包括的な戦略的パートナー関係に関する条約」を結び、その第4条には「いずれか一方が(中略)武力侵攻を受けて戦争状態に置かれる場合、他方は(中略)遅滞なく自分が保有しているすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」として両国の軍事関係強化をうたった。

さらに第10条では「平和的原子力分野(中略)について協力を発展」とあることも、北朝鮮の核開発という観点からは気にかかるところだ。

これに対し、北朝鮮と対立する韓国は「国連安保理常任理事国として対北朝鮮制裁決議案を主導したロシアが、自ら決議案を破って北朝鮮を支援することで、我々(韓国)の安全保障に危害を加える」として、ロシアへの制裁を強化。ウクライナへの武器支援を再び検討する方針を示した。

韓国はすでに、ウクライナの隣国ポーランドへ、韓国製のK2戦車やK9自走砲、それにFA-50軽戦闘攻撃機を輸出した実績もある。ポーランドは韓国製K2戦車を1000両採用する見込みだ。

またポーランドは2028年までに韓国製FA-50を48機導入する見込みで、ポーランドに韓国製兵器を輸出するだけでなく、その整備拠点が作られていても不思議でない状況だ。

つまり、北朝鮮とロシアが関係を強化すれば、それに反発した韓国がウクライナの軍事力強化の支援を検討するという構図なのだろう。その結果、韓国、ポーランド、ウクライナの三カ国の軍事的関係がどのようになるか、気になるところではある。

特定の国家間の安全保障上の関係強化が、思わぬ国家間の軍事関係強化の引き金になるかもしれない。

では、日本はどうなのだろうか?

外国の軍艦が続々入港

6月10日、前日に海上自衛隊護衛艦「あけぼの」と東シナ海で共同訓練を行ったばかりのオランダ海軍フリゲート「トロンプ」が長崎に入港した。

「トロンプ」の日本寄港は、日本との親善、関係強化を視野に入れたものだったが、軍艦であるが故、東アジアの厳しい安保情勢を反映する場面もあった。

オランダ海軍の「トロンプ」は、長崎寄港の前の5月22日、南シナ海で米第7艦隊の米国海軍のインディペンデンス級沿海域戦闘艦「モービル」(LCS26)、ルイス・アンド・クラーク級貨物弾薬補給艦「ウォーリー・シラー」(T-AKE8)と米蘭二国間訓練を実施した。

モービルは速さを重視した三胴船という構造の軍艦で、米国海軍のイージス駆逐艦の時速55kmを上回る時速75kmで洋上を疾走することが可能。

言うなれば、外国の軍艦と“追いかけっこ”をするのに向いている。

南シナ海でオランダ海軍の「トロンプ」と、どんな訓練をしたか詳細は不明だが、南シナ海での訓練であるが故に「南シナ海においてスプラトリー諸島、パラセル諸島、マックレスフィールド岩礁群、プラタス諸島の全てについての領有権と、それらに付随する排他的経済水域の管轄権を主張している」(防衛研究所紀要 第10巻第1号/飯田将史「南シナ海問題における中国の新動向」)中国にとっては、オランダ海軍の「トロンプ」が米第7艦隊と“南シナ海”で行動を共にしたこと、その後、台湾海峡を通過したと報じられたこと(米国営放送VOA広東語版 6/9付)が気掛かりだったかもしれない。

2021年にも別のオランダのフリゲート「エバーツェン」が台湾の傍を航海していたが、その際は、台湾海峡は通っていなかった。トロンプの台湾海峡通過について、中国外交部は「航行の自由を名目に中国の主権と安全に危害を加える行為に断固反対すると表明した」(新華社6月3日付)

今回の「トロンプ」の航海について、オランダ海軍は「北朝鮮船舶の瀬取りを含む違法な海上活動に対してトロンプを派遣し、5月下旬から6月上旬までの間、オランダ初となる警戒監視を行った」(防衛省公式X 6/10付)とされていたが、事件は、まさに、その「トロンプ」の瀬取り監視期間中に起きた。

オランダ海軍VS中国軍 非難の応酬

6月7日、オランダ海軍は、公式Xで「本日早朝、東シナ海で中国の戦闘機2機がオランダ海軍HNLMSトロンプの周囲を数回旋回。さらに、巡回中の同艦のNH90海上戦闘ヘリコプターは、中国の戦闘機2機とヘリコプター1機に接近された。これにより、危険な状況が生じる可能性があった。この事件は国際エリアで発生した。HNLMSトロンプは、国連安全保障理事会で決議された北朝鮮に対する海上制裁の執行を監視(中略)を支援するため、東シナ海で巡回を行っていた」と発表した。

オランダ国防省は「トロンプ」から撮影した中国軍のJH-7戦闘爆撃機と、Z-19軽偵察攻撃ヘリコプターの画像をX上で公開した。

これに対して、中国国防部報道官は11日「トロンプの艦載ヘリ(NH-90)は7日、上海の東方で権利侵害と挑発を行った。中国人民解放軍東部戦区による音声での警告や戦闘機の発進は全く合法的、合理的で、全プロセスが専門的かつ規範的だった。安全でない状況を作り出したのはオランダ側であり中国側ではない。オランダ側は国連の任務実行と偽り、他国の管轄下の海・空域で武力をひけらかし…両国の友好関係に損害を与えた」(新華社6/12付)と反論した。

興味深いのは、中国側の反論は「トロンプ」の艦載ヘリNH-90の行動が中国の「権利侵害と挑発」を行ったので、中国軍は「警告や戦闘機の発進」を行ったと説明していて、オランダ国防省が指摘した「東シナ海で中国の戦闘機2機がオランダ海軍トロンプの周囲を数回旋回」については、新華社通信の記事中には言及がない。

これは、なぜなのだろうか?

オランダ海軍のフリゲート「トロンプ」は北大西洋で2023年5月17日、統合防空ミサイル防衛 (IAMD) 演習「フォーミダブル・シールド2023」を支援し、模擬の脅威に対する実弾射撃演習を実施した。

「フォーミダブル・シールド2023」は亜音速、超音速の飛翔体やミサイル、弾道ミサイル、巡航ミサイルが襲ってくることを想定し、標的に対し複数の味方部隊や軍艦により一連の実弾射撃を行う演習だった。

この演習で「トロンプ」は、航空機や巡航ミサイルに対処するSM-2迎撃ミサイルを発射した画像が公開されている。

「トロンプ」は、日米のイージス艦と同様の垂直ミサイル発射装置(VLS)を持っているが、弾道ミサイル迎撃用のSM-3迎撃ミサイルは搭載されていない。

弾道ミサイル防衛能力のあるイージス艦を敵の航空機から防御することだけが「トロンプ」に与えられた役割なのだろうか。

"ミサイル防衛の眼"を持つ「トロンプ」

「トロンプ」と日米のイージス艦の違いは空を飛んでいる標的を見つけ、迎撃ミサイルを誘導する仕組み、特にレーダーが異なっていることだ。

建造当初「トロンプ」のヘリコプター格納庫の上には、戦闘機の探知なら距離220km以上という性能の「SMART-L」レーダーが搭載されていた。

現在の「トロンプ」には、同じ位置に「完全にデジタル化され、探知距離2000km」(メーカーのTHALES社HP)で「弾道ミサイルの監視、追尾が可能」(Janes Fighting Ships2023-24)とされる「SMART-L MM/Nレーダー」が搭載されている。

SMART-Lレーダー、または、SMART-L MM/Nレーダーが捕捉した標的が「トロンプ」に接近してくると、マスト上部で四方向に向いた探知距離約150kmのAPARレーダーが標的を捉え、迎撃ミサイルを誘導する。

日米イージス艦で使用される対空レーダー、SPY-1レーダーとはかなり異なるシステムであり、繰り返しになるが、日米が弾道ミサイル迎撃に使用しているSM-3迎撃ミサイルは「トロンプ」には搭載されていない。

それでも統合防空ミサイル防衛 (IAMD) 演習フォーミダブル・シールド 2023に参加した「トロンプ」の“ミサイル防衛の眼”「SMART-L MM/Nレーダー」の監視・追尾能力は、中国にとって関心事項になる。

「トロンプ」の台湾海峡通過が本当であったとすれば、通過時に、このレーダーを稼働して中国内陸部の北京や海南島の上空、衛星など2000km近い先まで覗かれていた可能性を中国側が懸念していたとしても不思議ではない。

中国軍側としては「戦闘爆撃機2機」を「オランダ海軍トロンプの周囲を数回旋回」させて「トロンプ」のSMART-L MM/Nレーダーに電波を出させ、性能の一端を掴みたかったのではないだろうか。

「トロンプ」が撮影した中国軍のJH-7戦闘爆撃機は、2004年に配備が開始されたJH-7Aなのか、それを再設計したバージョンなのかは不詳だが、いずれにせよ現在の中国軍の国産新鋭戦闘機であるJ-10 、J-11 やJ-16、J-20のシリーズよりは“枯れた技術”の軍用機であることは間違いない。

つまり、いまさら飛行特性などの性能をオランダ海軍の「トロンプ」に掌握されても痛くも痒くもない戦闘爆撃機だと思われる。 しかし「トロンプ」としては「中国の戦闘機2機がオランダ海軍HNLMSトロンプの周囲を数回旋回」したなら、レーダーや光学・赤外線センサーを起動し、その性能の一端、例えば追尾能力などを発揮せざるをえなかったのではないだろうか。

SMART-L MM/Nレーダーは、弾道ミサイルや極超音速ミサイル、巡航ミサイルなどの標的がどれくらいの「角速度」なら追尾できるのか。これは逆に中国にとっては、同レーダーの監視・追尾する能力を知る手立てとなったかもしれない。

そして、そのデータを「トロンプ」は米海軍のイージス艦に、そのままリアルタイムで送付できるのかどうか。中国にとっては、知りたいことだらけの軍艦、それが「トロンプ」だったのではないだろうか。

周辺国の様々なミサイルの脅威にさらされる日本にとっても“ミサイル防衛の眼”となり得る「トロンプ」の来航は、日本の防衛という観点からも重要なものだっただろう。

インド海軍ステルスフリゲート「シヴァリク」

「トロンプ」が長崎港に入港した翌日の6月11日、海上自衛隊・横須賀基地にはインド海軍のステルスフリゲート「シヴァリク」が入港した。

「シヴァリク」は2010年に就役した軍艦だが、動力はインド企業がライセンス生産を行っている米国のガスタービン・エンジンとドイツ企業系のディーゼル・エンジンを組み合わせたものだ。

ロシアの3M54T (SS-N-27 Sizzler) 対艦巡航ミサイルや、同SA-N-7対空ミサイルを搭載する一方で、イスラエルのバラク-1対空ミサイルも搭載。イタリアの76ミリ砲を主砲としながら、対空機関砲には、ロシアのAK-630Mを採用している。

またマストには、ロシア製トップ・プレート対空レーダーや、イスラエル製のレーダーが林立している。

このように、各国の技術を取り入れて建造された軍艦だが、インド海軍の公式Xでは「シヴァリク」は「インド“国産”ステルス・フリゲート」と呼称されている。

「シヴァリク」は、どのような特徴がレーダーに映りにくいステルス性能につながるのだろうか?

「シヴァリク」を横から見ると、船体と艦橋がつながったのっぺりとした一枚板のような構造であることがわかる。その途中に、小型艇を出し入れする大きな穴があるが、これにも、シャッターのようなものが付けられて、閉めると船体や艦橋と一枚板のような構造となっている。

これなら、敵艦のレーダーの電波が真横以外の方向からあたっても、その電波のほとんどが、鏡で光が反射するように、敵レーダーのアンテナの方向には戻らないということなのだろう。

艦の側面を微妙に曲げて、つなげたような構造は、電波の反射について、極力、敵レーダー・アンテナに戻らないように計算した結果なのかもしれない。

ウクライナに供与される軍艦のベースとなるトルコ海軍のコルベット

「シヴァリク」の横須賀入港の翌12日に東京港・東京国際クルーズターミナルに入港したのは、トルコ海軍コルベット「クナルアダ」だった。

2019年に就役、全長99m、全幅14.4m、総排水量2400トンと軍艦としては小ぶりながら、4月9日にトルコを出港。20か国を訪問し、出港から約2か月後の6月8日に和歌山県・串本町に到着。日本・トルコ国交樹立100周年、両国が友好関係を築くきっかけとなった134年前の和歌山県沖でのエルトゥールル号遭難・救助記念事業の一環として来日した。

「クナルアダ」が属するアダ級も、艦橋や船体の左右側面が一体化したステルス性を意識したとみられる設計。閉じられた側壁シャッターからハープーン対艦ミサイルおよびATMACA対艦ミサイルの発射筒(キャニスター)が透けて見える。

上から覗くと、前部艦橋と煙突の間の側壁に挟まれた間には、対艦ミサイルをセットしたキャニスター(チューブ)が1組4本、合計2組8本並んでいるのが分かる。

側面に空いた穴には、対艦ミサイルを発射する際に開いて、排気用にする構造と見受けられた。

対艦ミサイルのうち4本は射程140km+のハープーンだが、残り4本はトルコ国産で射程220kmのATMCA対艦ミサイルとなっている。

米海軍のイージス駆逐艦並みの最高時速55kmで洋上を走りながら、これらの対艦ミサイルを発射するということになるのだろう。

また、76mm速射砲を主砲としRAM対空ミサイルも装備されている。

興味深いのは接近するドローン撃墜にも使用可能というリモコン式12.7mm機関銃2門が装備されていることだ。

ウクライナでの戦いでは兵器としてのドローンが発達し、ドローンからの防御も重要となっている。トルコ海軍のドローン対策も興味深いものがある。

いずれにせよ、立て続けに日本に軍艦を寄港させたオランダ、インド、トルコは、日本にとって米国のような明確な同盟国ではないにしても“同志国”ということになるだろう。

トルコでは、ウクライナ海軍向けにアダ級をベースとする2隻目のコルベットが建造中でゼレンスキー大統領によって今年3月「ヘトマン・イヴァン・ヴィホウシキー」と命名された。

(※ウクライナ軍ではトルコで建造された1隻目のコルベットから「ヘトマン・イヴァン・マゼーパ級」と呼ばれている)

レーダーや主砲は、トルコ海軍のアダ級と同じものを装備しているが、どんなミサイルを装備するのかは明らかにされていない。

これまで見てきたように、6月10日にオランダ海軍フリゲート「トロンプ」が長崎に入港、翌11日に海上自衛隊・横須賀基地にインド海軍フリゲート「シヴァリク」、さらに12日に東京国際クルーズターミナルにトルコ海軍コルベット「クナルアダ」が相次いで入港した。

3日連続して外国軍艦いわゆる「同志国」に値する軍艦が、遠い本国からの航海を経て日本に寄港し、自衛隊や米軍との共同訓練も行った。

ミサイルや核開発など日本の周辺状況が厳しくなるなか、日本もまた、どんな能力を持つ国を同志国とし関係構築、維持を図るかは重要なことなのだろう。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 能勢伸之】

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