規格外や売れ残りの食材を使用して家庭料理を提供する『おすそわけ食堂』切り盛りする女性の思いとは【高知】

規格外や売れ残りなどで行き場のなくなった食材を使って家庭料理を提供する食堂が、高知県香美市にあります。

「おすそわけ」の輪で地域全体が思い合う場所を作りたい。そんな願いを抱いて食堂を切り盛りする女性を追いました。

ピーマンの炒め物に、ジャガイモをふんだんに使ったポテトサラダ。ニラとタマネギを使ったおひたしも。

規格外や売れ残りなどで行き場のなくなった食材を使ったある日の定食です。

県東部・香美市香北町の韮生野地区にある「おすそわけ食堂・まど」。

食堂を切り盛りしているのは陶山智美さん、25歳。食材の仕込みや調理を1人でこなしています。

この日も食堂には生産者や市場から譲り受けた「おすそわけ」の野菜などが集まっていました。

陶山さん「これは芸西の高松さんっていうナス農家さん。こういうキズがあるやつをいただいた。イタドリとタケノコは地域の方が寄付してくれて。シイタケは香北ファームという香北町内のシイタケの生産者さんからいただいています」

集まった食材から毎日の献立を考えるという陶山さん。手馴れた様子で料理を作り上げていきます。

規格外だったナスはタマネギと合わせたマリネに、タケノコの炒め物やイタドリの煮物。市場で売れ残ったすじなしインゲンはツナとマヨネーズと和えました。

季節の食材をふんだんに使った日替わり定食です。

食堂は午前11時に開店。この日はゴールデンウイーク初日とあって次々とお客さんが訪れました。

日替わり定食のほかにも手作りのトマトソースで作ったオムライスや、パスタなども提供しています。

定食は大人が800円、子どもが300円。物価高などの影響で経営は楽ではありませんが、出来る限り料金を安くしています。

心のこもった料理に食堂には笑顔が広がります。

子どものお客さん「(定食とオムライスを食べて)美味しい! これは何かツナの所が美味しくて、こっちはタマゴとご飯が合わさった感じが美味しい」

女性「(定食を食べて)お野菜の素材の味が。素朴な感じで。美味しいです」

陶山さん「やっぱり捨てられてしまうのはもったいないですし、これをきっかけに地域の人が地元の食材を食べてくれたらいいなと思うので。変わらずこういう事で続けています」

陶山さんは鳥取県・湯梨浜町出身。過疎と高齢化で衰退するふるさとの姿を見て育ち、集落の再生に興味を持つようになりました。

その後、中山間地域の農業を学ぶため高知大学に進学。在学中の農業実習や子ども食堂でのアルバイトでフードロスの問題に直面したことが転機になりました。

陶山さん「前の日に袋に詰めて出荷したものが次の日には戻ってきていて、せっかく前の日に一生懸命詰めたものが全部袋もゴミになるし中身の方も捨てざるをえないっていう状況があったので、すごくそこにモヤモヤしていて。子ども食堂で廃棄される食材を活用されているって事を知ってこういう形態だったら自分でもやりたかった。食材の廃棄に対する、フードロスに対する取り組みもできるし困っている子どもさんとか。親御さんにもちょっとでも助けになったりとか、地域のつながり作りができるんじゃないかという事を思って」

知り合いの農家などに相談したところ食材を提供してくれる人が現れ、2020年9月の大学4年生の時に「おすそわけ食堂 まど」を開店。

卒業後も高知に残り、現在の場所に移転して食堂を続けています。

食堂を通して陶山さんが目指しているもの。それは、おすそわけの輪をつなげて「お互いが思いあい、地域全体が思いあう場所」をつくることです。

その輪を広げるため、陶山さんは営業の合間を縫って食堂の外でも積極的に活動しています。

ある時はおすそわけをしてくれている農家の手伝いをしたり、またある時はボランティアの一員として小学校で絵本の読み聞かせをおこなったりしています。

さらに去年の春からは週に1回、地域の住民と子どもたちとの交流の場として食堂を開放しています。放課後になると、子どもたちが次々に集まり宿題をしたり、おしゃべりをしたり。食堂が地域をつなぐ拠点としての役割を果たしています。

陶山さんの姿を見て、食堂に来た子どもたちが手伝いに来てくれるようになりました。その中の1人が大宮小学校の6年生・小野晴太郎くんです。

晴太郎くんは2年ほど前から、学校が休みの時に食堂の手伝いに来ています。

何事にも積極的に取り組む性格で、開店前は掃除やメニュー表の準備。開店後は、注文に応じて陶山さんの作った料理を皿や器に盛り付けて運んでいきます。

晴太郎くん「智美さんの力になれたらなって思うのと、まかないのおいしいご飯のためかな」

忙しさがひと段落した午後1時半過ぎ。食堂に晴太郎くんの母親の波さんたちがやってきました。

この日の最後の仕事は家族の注文を聞く事。少し照れくさそうに注文を取りにいきます。

晴太郎くん「日替わり2つ、オムライス1つ、カレーライス2つでいいですか。かしこまりました、少々お待ちください」

家族に食事を届けた後は、晴太郎くんも一緒にお昼ご飯です。

晴太郎くん

「僕も将来コックになりたいと思っているから、とってもためになります。こういう経験は。すごい経験もつくから。そういう事をさせてくれてる智美さん。そういう大人ってあんまりいないと思うので。期待に応えようと思ってやってます」

母・小野波さん

「家ではできない事、学校ではできない事をここでさせてもらってるんじゃないかと思います」

陶山さんにとっても、晴太郎くんのような子どもたちの手伝いは大きな刺激になっています。

陶山さん「大人とやるのも楽しいですけど、普段しない話とかできたり、子どものちょっと予想外の行動に驚くけど逆にいい刺激になってすごく楽しいです」

いただいた食材を料理に変えておすそわけの輪を広げたい。強い思いを抱く陶山さんですが、一時は自分の理想に近づけずにくじけそうになった時もあったといいます。

そんな陶山さんを支えてくれたのは食堂に来てくれるお客さんや子どもたち、そして食材をおすそわけしてくれる農家の人たちです。

その中の1人、芸西村でユズなどをつくる坂本由美さん。

陶山さんが食堂を始めた時から、自分や近所の農家でできた規格外などの野菜を集めて定期的に食堂に届けてくれます。

坂本さん「私も(陶山さんと同じ)ながよ。自分が作った野菜を直販所へ出しよって帰ってきて捨てるのがなかなか辛いき、そういうのが、でも捨てざるをえんき捨てよったけど、(おすそわけ食堂)まどができて、そういうところへできる限り行ける時は出せる時は持っていって使うてもらおうっていう思いで持っていきゆう」

5月下旬。

この日、陶山さんは食堂を訪れる子どもたちや坂本さんを始め、日頃支えてくれている人たちと一緒に近くの山に遠足にいきました。

自然豊かな場所で楽しい時間を過ごし陶山さんも自然と笑みがこぼれます。

食堂を開いて4年目の春。自分の目指す理想の場所をつくっていきたいと気持ちを新たにしました。

陶山さん「まどを通じて地域の色んな人がつながっていって、あたたかい雰囲気作り、地域作りみたいなのができていけばいいなと思っています」

思いやりの気持ちが届きますように。陶山さんは今日もその願いをおすそわけしていきます。

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