【独自解説】「朝露関係は最高潮」金正恩総書記がロシアとの“蜜月アピール”に込めたメッセージとは?新たに結んだ『包括的戦略パートナーシップ条約』は「東アジアにとっては脅威」専門家がロシアと北朝鮮の思惑を解説

【動画】最近の金正恩総書記が“おかしい”!? 方針転換に北朝鮮国内が右往左往か…専門家指摘「このような調子でやっていくと国が大変なことになるのではないか」

実に24年ぶりとなった、ロシア・プーチン大統領による北朝鮮訪問。金正恩総書記は首脳会談の後、「両国の関係は最高潮」とロシアとの蜜月ぶりをアピールしました。“異例尽くし”ともいえる大歓迎のウラには一体、何が?両首脳の思惑は?娘・ジュエ氏の“外交デビュー”は?龍谷大学・李相哲教授の解説です。

午前3時から始まった異例尽くしの“おもてなし”!滞在わずか一日ながら“熱烈歓迎ムード”に包まれた北朝鮮、対するプーチン大統領の思惑は―

プーチン大統領による訪朝はわずか一日の滞在でしたが、金総書記の稀に見る“熱烈な歓迎ぶり”が話題となっています。

始まりは、2024年6月19日午前3時ごろ。異例の時間に北朝鮮を訪れたプーチン大統領を金総書記自らが出迎え、笑顔で握手し、抱擁。ロシアの高級車『アウルス』で移動し、通りにはロシア国旗とプーチン大統領の肖像が並んでいました。また、真夜中にもかかわらず周囲のビルには煌々と明かりがつけられ、歓迎ムードを演出。

国営放送でも、プーチン大統領の到着を大々的に報道しました。

(女性アナウンサー)

「敬愛する金正恩同志が、ウラジーミル・プーチン同志を温かく迎えました。夜景の美しい平壌(ピョンヤン)の街を駆け巡りながら、最高指導者たちは積もりに積もった深い思いを交し合い、今回の再会を機に、朝露関係を両国人民の共通の志に沿って、より確実に発展させる意向を分かち合いました」

金日成(キム・イルソン)広場で開かれた歓迎式典では、集まった市民がロシア国旗の3色を身にまとい、空の色までロシア色に染めました。広場の中央にはプーチン大統領の肖像画が飾られていて、外国の首脳が掲げられるのは異例のことだといいます。

また、プーチン大統領は、2024年2月に続き2台目の高級車『アウルス』を金総書記にプレゼントしたといいます。プーチン大統領がハンドルを握り、助手席に金総書記を乗せて走ったかと思えば、途中で交代した金総書記が運転する姿も見られました。

こうした中で行われた、1対1の首脳会談では…。

(ロシア・プーチン大統領)

「我々はウクライナ問題を含め、北朝鮮のロシアの政策への揺るぎない支援を、高く評価しています」

(北朝鮮・金正恩総書記)

「朝露関係は、朝ソ時代とも比べられない最高潮を迎えています」

金総書記は、両国の関係を「史上最高の全盛期」と表現。そして会談後、両首脳が新たに署名したのが『包括的戦略パートナーシップ条約』です。軍事面での関係を強化していくことを明らかにしました。

(プーチン大統領)

「本日署名した条約には、どちらかの国が攻撃された場合、お互いを支援すると規定している」

(金総書記)

「両国の関係は、同盟関係という新たな高い水準に上がる」

“史上最高の関係”として、連携を強めるロシアと北朝鮮。異例の熱烈歓迎でもてなした金総書記の思惑とは…?

「金正恩は物凄く興奮状態だが、プーチンは一歩下がっている」両首脳の思惑は?新たに署名した“条約”の内容は?中国はどう見ている?専門家が独自解説

Q.物凄い人数の出迎えがありましたが、あれは動員されていたのでしょうか?

(龍谷大学・李相哲教授)

「人の列は20キロも続いている、といわれています。もちろん動員したものです」

Q.動員された人たちは、仕事を休んでいるのですか?

(李教授)

「平壌では年中、そのような行事に動員されるのが仕事です」

Q.李教授は、「日付をまたいで首脳同士が会うのはあり得ない。ロシアが上からかましてきている」という見解を示されていますよね?

(李教授)

「金正恩は物凄く興奮状態ですが、プーチンは一歩下がっているという感じが、いろんな場面からわかります」

Q.なぜ北朝鮮はそんなに喜んでいるんですか?

(李教授)

「後ろ盾ができた、ということです。プーチンからすると、“東アジアで北朝鮮が暴れてくれたら、アメリカをけん制できる”という思惑もあると思います」

Q.広場にはプーチン大統領の肖像画も飾られていましたが、外国の首脳の肖像画が飾られるというのは、あまり見たことがないですよね?

(李教授)

「金日成広場に飾られたことは、今までなかったです」

北朝鮮メディアによると、今回プーチン大統領と金総書記が署名した『包括的戦略パートナーシップ条約』とは、「一方の国が武力侵攻を受けて戦争状態となった場合、他方の国はあらゆる手段で遅滞なく軍事支援を行うものだ」ということです。プーチン大統領は「どちらかの国が攻撃された場合、お互いを支援すると規定している」、金総書記は「両国の関係は同盟関係という新たな高い水準に上がる」と述べています。

ロシア(当時ソ連)と北朝鮮は1961~1996年にも『友好協力相互支援条約』を結んでいて、“どちらかが攻撃を受けた場合は、軍事的に自動介入すること”が明記されていました。李教授は、「1961年の条約と比べて曖昧な内容となっている今回の条約の内容は、自動介入ではなく“どうにでも解釈できること”に注目だ」と指摘しています。

Q.プーチン大統領は「お互いを“支援”」、金総書記は「同盟関係」と言っていますが、この言葉の違いをどう考えますか?

(李教授)

「全文が公開され、22項目ある条約の中の第4条で『介入する』ということになっています。ただ条件がついていて、『一方が攻撃された場合に、国連憲章第51条、そして両国の法律に準じて介入する』ということです。国連憲章第51条とは『誰かが誰かを攻撃した場合』で、また“両国の法律に準じて”ということは『すぐに介入する』という意味ではなく、解釈の余地をたくさん残しています。“本当にあなたたちが攻撃せずに攻撃されたのかどうか”など、そういう解釈がこれからつくので、1961年の条約とは全然違うと思います」

Q.プーチン大統領としては余白の部分は残していて、仮に“北朝鮮に有事があった場合でも、すぐにロシアが兵力を送ったりはしない”ということですか?

(李教授)

「そういうことは難しいと思いますが、ロシアには一応“機会”があります。また、今回両者が近付いたというのは、両者ともアメリカに制裁を受けていますので、日米韓が結束している中で、北朝鮮とロシアが、できれば中国もですが、結束して対峙していくという、『共同でアメリカに対抗しよう』という対外的なメッセージが一番強いと思います」

Q.ただ、東アジアの緊張感は相当高まりますよね?

(李教授)

「“軍事的な技術交流を排除しない”ということですから、少しでも技術を提供すれば北朝鮮が少し強くなるので、東アジアの安保にとっては脅威です」

一方、中国の思惑について、李教授は「苦々しく見ているのでは」との見解を示しています。

Q.中国は、ロシアがウクライナに侵攻していることに対しては、「話し合いで」というスタンスですよね?

(李教授)

「中国からすると、“世界から不良国家のレッテルを貼られている国”と一緒になるのは避けたいので、距離を置いています」

そんな中、娘・ジュエ氏の“外交デビュー”は実現しませんでした。その理由について、李教授は「ジュエ氏は後継者候補の一人ではあるが、まだ決まったわけではない。プーチン大統領も娘を連れて来ていない。ジュエ氏を出すと、政治的意味があると解釈される。まだ、そこまでの人物ではないのでは」との見解を示しています。

Q.ここでプーチン大統領に会わせると、決定的に“ジュエ氏=後継者”という意味合いになってくるわけですね?

(李教授)

「プーチン大統領が家族を連れてきていないのにジュエ氏を出すと、家族としてではなく、違う意味で出したということになりますので、政治的な解釈がされます。だから、あえて出さなかったのだと思います」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年6月20日放送)

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