<ライブレポート>Creepy Nuts 初のグローバル配信、そして東京ドームへ――ひとつの到達点を刻んだ【ONE MAN TOUR 2024】代々木ファイナル

3月からスタートした、Creepy Nutsが全国11か所12公演(+追加となる横浜アリーナ公演)を巡るツアー【Creepy Nuts ONE MAN TOUR 2024】の千秋楽となる、東京・国立代々木競技場 第一体育館公演が、6月16日に行われた。「Bling-Bang-Bang-Born」の世界的なヒットや、アメリカでのパフォーマンスも決定しているCreepy Nuts。日本だけではなく、対“世界”へその存在を広げていく彼らにとって、グローバル配信も展開する今回のライブの会場が、世界的な建築家である丹下健三が手掛けた屈指の名建築である代々木第一体育館だったのは、ひとつの必然とも言えるだろう。

ステージ正面にはライブ用の映像演出が映し出される3面のスクリーン、ステージ両脇にはR-指定とDJ松永がアップで投影されるスクリーンがしつらえられており、その他の設備はDJブースのみというシンプルな構成は、これまでのCreepy Nutsのライブと変わらない。会場の明かりが落ちると、カウントダウンの時刻がスクリーンに映し出され、会場からは拍手が上がる。そしてカウントがゼロを刻み、鳴らされたベルが止むと、ハードなキックから生まれるビートによってスピーカーが低く唸りを上げ、それに併せたオーディエンスの手拍子の相乗効果で会場が震える中、ライブは「ビリケン」からスタート。「飛び跳ねろ代々木!」というR-指定の言葉に、観客はジャンプで呼応し、熱気が一気に高まる。そして、「ヘルレイザー」での「やっぱ生が一番やろ!?」という呼びかけからは、ライブという快楽への欲求と共に、この曲が「生」でのライブができなかった2020年の夏も想起させる。そのまま、DJ松永のタイトなスクラッチで観客のコールに応える「堕天」へと展開。「今日のライブを楽しむ“主演”は皆様でございます。そんな皆さんを盛り上げるのが我々、Creepy Nutsです」というアナウンスから始まった「助演男優賞」では、〈お・ま・た・せ!!〉というパートでR-指定が客席にマイクを向け、そのパートを観客が大合唱する様子は、まさに会場にいる全ての人間が“主役”になった瞬間だったと言えるだろう。

また、老若男女が集うCreepy Nutsのライブだが、この日に印象的だったのは、ティーンエイジャーと思しきリスナーの多さだった。当然、その中にはラッパーを目指す人間も少なくないだろうし、その意味では「バレる!」で描かれる、特に後半のリリックはCreepy Nutsとファンを「ラップゲーム」という側面でも繋ぐように感じ、リリース時よりも“未来志向”の意味合いを帯びたようにも感じた。

「同じ曲をやっても、ぜんぜん違うように聴こえるのがCreepy Nutsのライブ。それは、僕らはもちろん、お客さんのコンディションや感情、人が違うと変わるんです。だから俺と松永の音楽を聴いた時の正直な反応で、自由に楽しんでほしいし、自由に駆け抜けましょう。それこそが個性で、オリジナリティです」と、MCで観客に呼びかけるR-指定。そこからの「ぬえの鳴く夜は」への展開は、自分たちにとってヒップホップとはなにか、音楽とは、自分たちのオリジナリティとは、という問いかけと答えのひとつの形であっただろう。

その意味では、MCから「ぬえの鳴く夜は」、そして「パッと咲いて散って灰に」「スポットライト」「顔役」、DJ松永のターンテーブル・ルーティン、「Bling-Bang-Bang-Born」までのパートは、“Creepy Nutsのオリジナリティ論”を宣言するパートだった。これらの曲に通底するのは「自分たちが代替不可能な存在である」というテーマであり、それらの楽曲がつながることで、オーディエンスも含め「誰しもがオリジナルである」というメッセージが強化されていた。そして、そういったオリジナリティの先に「Bling-Bang-Bang-Born」が生み出されたという事実が、このパートでは示されたと言えるだろう。

続くMCでの、スイスでクレジットカードを紛失した話から、自らそのセキュリティコードまでを突如発表するというDJ松永の純度の高い奇行に、R-指定が「本人が被害をこうむるだけの(被害者がいない)はずなのに、こいつは法で裁かれてほしい。でも、忙しい時期はそんな精神状態に俺もなってた。その時の曲をやって思い出そう」と話題を強制着地させ、「Lazy Boy」へ。そのまま「風来」から「Bad Orangez」、「dawn」「ロスタイム」と、アルバム『Case』『アンサンブル・プレイ』のアルバム収録曲を中心に披露。それらの楽曲をパフォーマンスし終わると、松永は「俺がさっきみたいな奇行をしたのは、日用品を買ったり、税金を払うような普通の生活とバランスを取るためだった」と、不思議な自説でその楽曲群を総括し、R-指定も「ヒップホップはドキュメントで、自分の話をする文化で、マインドや体調、置かれてる環境に全て影響される音楽やしな」と共感する(が、よく考えたらそれがカード番号を世界に発表する理由にはならない気も……)。

続く「紙様」から「友人A」「阿婆擦れ」までは、いうなれば「日本語表現に特化したゾーン」だった。もちろん、Creepy Nutsの楽曲はどれもその側面が強いが、日本語だからこその韻や言語感、日本紙幣や独特のスクールカーストなどの“日本文化”に紐づいた発想、日本語だからこそ可能な「上手いこと言う」表現が、強くこの曲群には現れており、それをグローバル配信も行われるこの日に披露するのは、Creepy Nutsの日本語ラップやその蓄積に対する強い愛着を感じさせた。そういった日本語ラップと同時に、当然ながらUSや海外のヒップホップ、そして様々なカルチャーからも影響を受けてきた彼ら。そういった“坩堝”から生まれた自分たちのオリジナリティやアイデンティティを内省し、問いかける「Dr.フランケンシュタイン」に続き、そういった“コンプレックス”を止揚し、自らのものとして肯定する「かつて天才だった俺たちへ」と飛翔させる今回のセットリスト展開は本当に見事だ。

そして「のびしろ」から「よふかしのうた」とアッパーな楽曲で会場を盛り上げ、地鳴りのようなビートで更にその熱気を底上げする「二度寝」に続いて披露された、この日のラストソングとなる「土産話」。R-指定はこの曲のラストヴァースを「東京ドームは来年かな? まあお前らも2月は空けとけや!」と変え、その言葉に会場からはどよめきと拍手が起き、そのまま「グレートジャーニー」に乗せてステージを後にしたふたり。その楽曲が終わると、スクリーンには「Live at TOKYO DOME 2025.02.11」「now working on a new album」というメッセージが浮かび上がり、会場からは万雷の拍手と歓声が湧き上がった。

テーマとメッセージを丁寧に組み上げたセットリストを、これまでの経験と鍛錬を基にしたラップスキルとターンテーブルスキルでパフォーマンスし、これまでの彼らのヒストリーにおいても、ひとつの到達点だったといえるほどの充実度を誇ったこの日のライブを、1MC&1DJスタイルのヒップホップユニットとしては初の東京ドーム公演の発表というサプライズで締めくくったCreepy Nuts。それをドームではどのように塗り替え、どんな新たな景色を見せてくれるのか。期待してその日を待とう。

Text by 高木”JET”晋一郎
Photo by umihayato、サマーエンドブルーリオ
Photo Retouched by Hiroya Brian Nakano

◎公演情報
【Creepy Nuts ONE MAN TOUR 2024】
2024年6月16日(日) 東京・国立代々木競技場 第一体育館

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