「国に突き放されたようで悲しい」家族の証しを切望 隔離や差別で共に暮らせず 位牌継承の男性、ハンセン病補償の対象外に

養父の位牌を見つめ、「国は父が生きていた証を認めてほしい」と話す男性=20日、沖縄本島内

 ハンセン病元患者の家族に対する補償法で、元患者のトートーメー(位牌(いはい))を継いだ親族の男性が対象外とされた。事実上の親子として長年過ごしてきただけに落胆は大きく、「国から家族ではないと突き放されたようで悲しい」と唇を震わせる。(社会部・下里潤)

 「まさか」-。2022年3月、国から支給は認められないとする決定を受け、男性は言葉を失った。10代で位牌を継承する決意をし、本当の親子として生活を送っていた。自身の子や孫たちも「おじいちゃん大好き」と懐き、世代を越えた絆があった。

 ただ、親族内では偏見差別を恐れ、外部に元患者の話をすることはタブー。元患者自身も「迷惑がかかる」と話し、名護市の沖縄愛楽園以外で家族と会おうとはしなかった。地元で一緒に暮らそうと提案しても、断固として 首を縦に振らなかった。

 国の誤った隔離政策さえなければ「普通の家族」として暮らせたと思う。一緒にレストランへ行ったり、旅行を楽しんだりしたかったが、出かけた記憶は人里離れた海岸で弁当を食べたくらい。「世間には私の存在を絶対、話してはいけない」。そう言い残し、元患者は約10年前にこの世を去った。

 国の責任を認定し、家族への賠償を命じた熊本地裁判決から5年。国は偏見差別の解消に取り組むとするが、「本当に実態を理解しているのか」と疑問を禁じ得ない。基地問題で「沖縄の負担軽減に取り組む」と繰り返す政府の言葉と同じに映るからだ。

 「補償金が欲しくて裁判を起こしている訳ではない。国は、せめて父が生きた証しを認めてほしい」。位牌を前に、男性は目を潤ませた。

沖縄独特の問題 救済すべきだ

 ハンセン病の問題に詳しい神谷誠人弁護士の話 ハンセン病家族補償法は一定の要件を設けることで偏見差別を受けた家族の補償範囲を決めている。しかし、実際の運用では想定外のグレーゾーンとも言うべき事案がどうしても出てくる。今回のようなトートーメー(位牌(いはい))継承により、事実上の親子関係が生じたケースは沖縄独特で珍しい。

 子は元患者との関係性が深く、周囲から偏見差別を受ける場合がほとんど。家族としての関係性が壊されることも多く、本来は裁判ではなく補償法の中で救済されるべき人たちだ。法改正を含め、新たな基準づくりが求められる。

 一方で、周囲からの偏見差別を恐れ、補償金の申請自体をためらう人も多い。実際には、申請する中で家族間で過去の複雑な思いを打ち明け、引き裂かれた関係が修復されるケースを何度も見てきた。補償金を受け取ることで気持ちが楽になることもある。悩んだ場合は弁護士など信頼できる人に相談してほしい。

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