「パリコレ」にアパレル業界人が行かなくなった理由

今日は「ファッション」について一緒に考えてみたい。ふだん大量のデータ、数値、情報に囲まれた時、時にそもそも論に立ち帰り、その本質をじっくり考え直すプロセスはとても大事だからだ。私の場合、いわゆるググるなど。ネットを使ってその本質を掴むのでなく、できる限り単純化し抽象度を上げて自分の頭の中で、色々な角度から見つめ直す手法をとる。その際、英語など他国言語の原典にもあたりながらさまざまな示唆を得ていく。しばし、私とともに思考の旅にお付き合いいただきたい。

ファッションとは何か?

まず、「ファッションとは何か」。

シンプルに考えると、日本語では「流行(りゅうこう)」や「はやり」を思いつく。私はこういうときに英英辞典、私の場合は愛読するConcise Oxford dictionally of Englishを使う。この辞書によれば、Fashionは、

Noun(名詞)
1.A popular or the latest style of clothing, hair, decoration, or behavior
最近人気のスタイルで、服、髪型、アクセサリーや振る舞い

2.The production and marketing of new styles of clothing and cosmetics洋服や化粧品における新しいスタイルの製品やマーケテイング

3.a manner of doing something何かをするときのやり方

Verbe (動詞)
4.Make into a particular formある特定の形に変えること

と、4つの意味があった。

ここから得られる示唆は、fashionは「やり方」という意味が広義では使われているようだ。もっと厳密に言えば、ある集団の中で、特定の期間に良いと思われるもの/やり方という意味のようだ。こう考えれば、上の4つは全て包含して意味することが可能になる。

例えば、日本の東京の若者の中で、SNSなどでバズりだし、皆が似たようなファッションの服を着たり、流行の言葉を使ったりするイメージだ。このように考えると、文化/Cultureという言葉を思い付く。では“culture”はどんな意味だろうか。Cultureには、

Noun (名詞)
1.The arts and other manifestations of human intellectual achievement regarded collectively芸術および人間の知的成果のその他の表現を総体的に捉えたもの

2.The ideas, customs, and social behavior of a particular people or society特定の人々または社会の考え方、習慣、社会的行動

3. Biology the cultivation of bacteria, tissue cells, etc. in an artificial medium containing nutrients生物学:栄養素を含む人工培地で細菌、組織細胞などを培養すること

4. the cultivation of plants
植物の栽培

と、4つの意味を提示している。このうち3と4はテクニカルターム(専門用語)なので無視する。すると、culture の意味はfashionの「ある集団の中で、特定の期間に良いと思われるもの/やり方という意味」と非常に近いのだが、その人々の生活などに影響を与えている期間がfashionと比べるとcultureのほうが長い、より恒常的であることが分かる

まとめると、人が集団であるグループを形成すると、それが国や街、会社などの単位で、その中に特定のやり方や振る舞いができあがり、それが恒常的であればculture (文化)になり、非常に単発で短命ならfashion(はやり)ということになる。

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パリコレに行くアパレル業界人がほぼいなくなった理由

webphotographeer/istock

アパレル産業のビジネス上のアキレス腱は過剰在庫だ。過剰在庫は企業の利益を減らすだけでなく、昨今のSDGsの影響もあって簡単に廃棄するわけにもいかず、倉庫に大量に売れ残りの在庫がたまり、莫大な保管料を支払っている。

この過剰在庫が生まれる原因は、「売れると思った商品が、自分達が想定しているより売れなかったから」である。非常に素早くある特定の集団の中に表れ、消えてゆくものが、“fashion”なのである。

つまりわれわれがすべきことは、この短期間の間にどのようなfashionが流行るのかを予想しながら、「タイミング、価格、商品、チャネル、数量」(マーチャンダイジングの5適)をすばやく揃えることなのである。

昨今、この短命なfashionがますます短命になり、また、ネットで拡散するSNSによるバズりによって、クラスターと呼ばれる同一購買特性を持つ母集団の数も増え、複雑になってきた。

さて、このfashionの出自だが、パリコレ、ミラノコレクション、ニューヨークコレクションなど名だたるファッションショーで来年の傾向が見えてくるという説が(現場を全く知らない人から言わせれば)もっとも説得力がある。また、メディアもこれらのコレクションを掲載し「来年の傾向は、、、」などといっている。実際、ここにヒントがあると、アパレル業界ではイタリア、フランス、ニューヨークに団体旅行に行っていた時代があった。

しかし、今、これらのコレクション・ショーを見に行く業界関係者はほとんどいない。なぜなら、「マーチャンダイジングの5適」を揃えたいのだが、コレクションは「来年の傾向」の抽象度が高く、クラスターの数が増えて複雑化したいま、「5つ」のどの部分に、コレクションのどの部分を参考にすればよいかがわからなくなったからである。

実際、コレクションにでてくる服はわれわれ庶民にはおいそれと手が届く価格やデザインではなく、いまや「リアル・クローズ」といって、普段外に着てゆける服のファッションショーまでできた。つまりそうではないコレクションは、普段は着れない=リアル(現実的)ではない服、だということなのである。

ファッションはハウリングである

ファッションとは何かを抽象化して考えたときに私が思い至ったのは「ハウリング」だ。

カラオケの時や学校の集会、屋外イベントの時など、マイクの電源を入れたときに、「ビーン」「キーン」という不快な音が広がる、あの「ハウリング」だ。

結局、ファッションとは、すぐに真似をする人が増え、これがネットのSNSなどを通して、いわゆるバズる。ファッションの流行は、マイクのハウリングと同様、相互に音が発振して、増幅されてできるのだと思う。そう考えると、そのスピードや短命さから、人間がファッションのハウリングを追いかけるには、音色を変える変数が多すぎて、再現することが、すくなくとも今の技術では、できないのだろう。

私のFashion分析はここまでだ。どうだろう。みなさんも誰かがこういったではなく、私のような英英辞典を手にし、言葉が持つ本質的な意味をいくつかのケースから読み取り、その本質を掴んでみては。きっと、今まで見えなかったものが見えてくるはずだ。

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
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