「長瀬産業」超音波モーターを手がけるスタートアップに出資、異業種分野で新規事業を開拓

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化学品専門商社最大手の長瀬産業<8012>が、既存事業とは異なる分野での事業創出に乗り出した。

同社はロボットやMRI(磁気共鳴画像法)などで用いられる超音波モーターを開発、製造するスタートアップのPiezo Sonic(東京都世田谷区)に出資した。

自社だけでは情報収集やイノベーション(革新的な価値を創造する取り組み)の創出が難しいと判断、外部の最先端技術やビジネスモデルを導入することで、次世代事業の開発に取り組むことにした。

2023年11月にCVC(企業が自己資金でファンドを組成し、スタートアップなどに出資する取り組み)を立ち上げ、この取り組みの一環として今回の出資を決めており、今後、スタートアップへの資本参加が増えそうだ。

宇宙用真空超音波モーターの開発も推進

Piezo Sonicが手がけている超音波モーターは、電圧を加えると変形する圧電セラミックを用いるもので、変形量を制御することで回転運動を生み出す。超音波領域の振動を駆動源としているため、この名がついた。

コイルや磁石を使用する通常のモーターは、MRIなどの強い磁力が発生する場所では使えないほか、電源を切ると軸が自由に回転してしまいロボットなどの姿勢を保持できないなどの問題がある。

超音波モーターではこうした点を改善できるため、ロボットの位置決めやMRIなどの医療機器のほか、小型の搬送装置や監視カメラなどの静音稼働装置などで使用される。

Piezo Sonicは長瀬産業の出資を受け、Piezo Sonicが得意とする超音波モーターや自律搬送ロボットの製造力を増強するほか、宇宙用真空超音波モーターなどの開発を推進する。

研究開発の加速などに800億円を投入

長瀬産業は2026年3月期を最終年とする5カ年の中期経営計画「ACE 2.0」で、「基盤」「注力」「育成」「改善」の四つのテーマに沿って取り組みを進めている。

この中で既存事業を強化する「注力」と、外部との連携などで次世代事業開発を進める「育成」の分野で、2023年以降に約800億円を投じる計画で、今回は「育成」分野の提携との位置付けで、Piezo Sonicへの出資を決めた。

また、既存事業とは異なる視点で次世代事業を創出することを目的に、CVC活用に取り組んでおり、Piezo Sonicが手がける超音波モーターという、これまでにない分野の情報やノウハウを取り入れることで、新規事業の創出に取り組む。

長瀬産業では「育成」分野の取り組みとして、しわ、しみの改善、快適な睡眠、紙おむつごみの削減、干ばつ地の緑化などを事例として挙げている。

超音波モーターがこうした分野の研究とどのように関わるのか。また新たな分野の事業開拓につながるのか。Piezo Sonicに次ぐスタートアップへの出資を含め、今後の展開が注目される。

文:M&A Online記者 松本亮一

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松本亮一

日刊工業新聞社入社後、大阪支社編集局で証券、機械、科学技術、流通、神戸支局、京都支局などの記者を経て、大阪支社編集局産業部長、本社編集局中小企業部長、神戸支局長、執行役員西部支社長、執行役員本社業務局長、日刊工業関西広告社社長を歴任。2017年ストライクに入社、M&A Online 編集委員に。2023年からM&A Online 記者。大分大学経済学部卒。

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