覚えてる? まさに昭和のシンデレラストーリー『花嫁衣裳は誰が着る』を振り返る

大映テレビ ドラマシリーズ『花嫁衣裳は誰が着る』DVD-BOX前編(エイベックス・ピクチャーズ)

1970〜80年代にかけて、劇的な世界観が話題となった「大映ドラマ」。今ではコンプライアンスの問題などもあってか、同じようなドラマが放送されることはほとんどない。

当時そんな大映ドラマでとくに活躍していたのが、イジメられる姿がせつないと視聴者の共感を得た堀ちえみさんだ。堀さんが主役を務めたドラマといえば『スチュワーデス物語』があるが、1986年に放送された『花嫁衣裳は誰が着る』も思い出深い。

今回はこの『花嫁衣裳は誰が着る』とはどのようなドラマだったか、あらためて振り返ってみよう。

■幼くして亡くなった両親…旅館働き、いじめ、昭和のシンデレラストーリー

1986年4月からフジテレビ系列にて放送されたドラマ『花嫁衣裳は誰が着る』。『王家の紋章』を連載中の細川智栄子さんが1968年から『週刊少女フレンド』(講談社)で連載した少女漫画『あこがれ』が原作になっている。

本作の大まかなあらすじはこうだ。堀さん演じる主人公の雪村千代は3歳のころに母親が亡くなり、佐渡でホテルを経営する伯父夫婦の家に引き取られた。しかしその家で伯母やその娘から執拗ないじめを受け、苦しい生活を強いられることとなる。

それでも千代は高校を卒業したらウエディングドレスのデザイナーになるという夢を持ち、つらい日々を健気に耐え、その後上京する。そして、念願だったデザイナー事務所に就職するのだが、そこでも波乱万丈の人生が待っている……というストーリーだ。

本作では旅館で働く千代の格好をバカにするクラスメイトや、あまりに意地の悪い親族が登場する。まさに昭和のシンデレラそのものだ。

思えば大映ドラマの多くは主人公が幼少期に苦労するところから始まり、必ずといっていいほど主人公にいじめや嫌がらせをする登場人物がいた。ストーリー序盤、悲惨な目に遭う主人公だが、物語の最後にはきっと幸せになってくれる……そう信じて視聴し続けた人が多かったのだろう。

■キャストは“これぞ大映ドラマ!”というそうそうたるメンバー

本作の魅力は、主役の堀さんをはじめとした豪華なキャスティングにもあるだろう。

まず千代の伯父を演じたのは名古屋章さん、そして千代をいじめ抜く伯母を演じたのは原知佐子さんだ。「おだまり!」といって千代の頬をビンタする原さんの演技は、今見ても迫力があって恐ろしい。

さらに伯父夫婦の娘で、母と同じく千代に意地悪をするみさ子を演じたのは、大映ドラマではもはやお馴染みの伊藤かずえさんだ。本作では意地悪なキャラを演じているものの、キラキラした瞳で笑顔が可愛い伊藤さんは、やはりこの時代のトップアイドルだと思う。

また、のちに千代に一途に想いを寄せることになる男性アイドル・上月光を演じたのは、やはり大映ドラマには欠かせない松村雄基さんだ。松村さんの凛々しい眉毛を見ると、大映ドラマの世界にあっという間に没入できるから不思議だ。

光はバイクの運転中に事故に遭い、崖から転落してしまう。そこを偶然通りかかったのが千代であり、海岸で気を失っている光を助けたことがきっかけで、光は千代に惹かれていくのであった。この展開はなんだか童話の『人魚姫』に似ており、まさに王子と姫の悲劇的な恋愛が始まることを予見しているように思える。

■アイドルから愛される、思いがけない才能があるなど、ありえない展開が面白い

『花嫁衣裳は誰が着る』は、大映ドラマならではのあり得ない展開が満載だ。まず松村さん演じる国民的トップスターの光は、ほかの芸能人などには目もくれず一般人である千代に想いを寄せ続ける。これはアイドル好きなら一度は憧れるようなシチュエーションだが、現実にはあまり見られない展開だろう。

また、ずっと旅館で働き続けてきた千代が上京し、偶然にもトップデザイナーと出会うのもすごい確率だ。しかも千代にはデザイナーとして類い稀なる才能があり、その才能を見抜いたトップデザイナーが目を見張るといった展開もなかなかありえなくて面白い。

また、会社のやり方に納得のいかないアイドルの光が、海に向かって石を投げ「ちきしょーっ!!」と叫ぶシーンなどもあり、昭和の時代に多かった激情型ドラマの“あるある”が満載なのだ。

ちなみにオープニングは「少女にただ1つ許されていたのは、夢を見ることであった……」という来宮良子さんの低く響くナレーションで始まる。この声を聞くと“大映ドラマが始まった!”というワクワク感に没頭できるから不思議だ。

ヒロインが幼いころに親を亡くし、その後、降りかかるいじめや試練に耐え抜き、夢を叶える展開というのは「大映ドラマ」の王道だ。

『花嫁衣裳は誰が着る』は千代を演じる堀さんを襲うあまりの不幸な出来事の数々に胸が痛くなるが、そのぶん、その後巻き起こる絵に描いたようなサクセスストーリーにスカッとできる。本作はDVDも発売されているので、気になる人はぜひチェックしてほしい。

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