米ドル=円「1ドル160円」に再び接近…現実味を帯びる「3度目の介入」のタイミングは?【為替のプロが考察】

(※画像はイメージです/PIXTA)

日米金利差の「米ドル優位・円劣位」の縮小傾向を尻目に上昇し、一気に160円に迫る展開となった、先週の米ドル/円。米ドル高・円安を主導する投機筋の米ドル買い・円売りにも、「行き過ぎ」懸念が強まるなか、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は、日本の通貨当局による「3度目の介入」に注目していると言います。今週の相場の展開予測とあわせて、詳しく見ていきましょう。

6月25日~7月1日の「FX投資戦略」ポイント

〈ポイント〉
・先週の米ドル/円は、日米金利差の「米ドル優位・円劣位」の縮小傾向を尻目に上昇し、一気に160円に迫る展開となった。
・日本の通貨当局による「3度目の介入」に注目。一方、米ドル高・円安を主導する投機筋の米ドル買い・円売りにも「行き過ぎ」懸念が強くなっている可能性あり。
・介入があった場合は、一日で最大5円の円高が基本。今週の米ドル/円は、155~162円で上下に荒れる展開を予想。

先週の振り返り=円安、160円へ再接近

先週の米ドル/円はほぼ一本調子で上昇し、一気に年初来高値の160円に迫る展開となりました(図表1参照)。

[図表1]米ドル/円の日足チャート(2024年4月~) 出所:マネックストレーダーFX

特段の材料はなかったものの、前の週に日銀金融政策決定会合の後に記録した158.2円を上抜けたことで、上昇余地が拡大したと考えられます。これにより米ドル/円は、先週金曜日まで8営業日連続の陽線(米ドル高・円安)となっています。

材料的には、米5月小売売上高が予想より弱い結果となるなど、米金利の低下を促すものもあり、日米金利差の「米ドル優位・円劣位」は、10年債利回り差が3.3%を割れるといった具合に、むしろ縮小傾向となりましたが、それを尻目に米ドル高・円安が広がるところとなりました(図表2参照)。

[図表2]米ドル/円と日米10年債利回り差(2024年5月15日~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

これは、日米金利差の米ドル優位・円劣位の縮小にもかかわらず、米ドル買い・円売りが続いたためと考えられます。日米10年債利回り差の円劣位は、3.3%割れへ縮小したとはいえ、依然として3%を大きく上回っている大幅な日米金利差の円劣位は、円買いには厳しい一方で、円売りにとって圧倒的に有利であることには変わりないでしょう。それゆえ、短期売買を行う投機筋の米ドル買い・円売りが続いており、それが160円という年初来の米ドル高値への再接近を主導したと考えられます。

ところで、20日に米財務省が外国為替報告書を発表し、「監視リスト」に日本を追加しました。これにより、日本の円安阻止の為替介入がやりにくくなったとの見方も、投機筋の米ドル買い・円売りを後押しした可能性があります。

ただ報道によると、米財務省の担当者の説明では、「監視リスト」入りについては、1)対米黒字、2)大幅な経常黒字、3)継続的な為替介入といった3つの基準のうち2つ以上に該当したケースであり、日本は1)、2)で該当したとのことでした。そして日本の為替介入については、輸出を有利にするための自国通貨安誘導ではないこと、介入実績を公表するなど透明性があることなどから、今回は問題視しなかったとの説明でした。

以上を踏まえると、日本の「監視ポスト」入りによって、介入が難しくなったという受け止め方は、誤解である可能性もあります。

今週の注目点=「3度目の介入」はあるか!?

今週は、年初来の米ドル高値、160円更新を巡る攻防が最大の焦点。そこでまず注目されるのは、4月29日、5月1日に続く、日本の通貨当局による3度目の米ドル売り介入の有無になるでしょう。

上述の米財務省の外国為替報告書の説明のなかでは、「介入はまれであるべきで、事前の協議が適切」と、日本の通貨当局による2度の介入の後から、イエレン米財務長官が何度か繰り返した発言を再確認しました。こういったことから、日本に対して「介入に頼り過ぎ」といった懸念を米通貨当局が抱いている感じはあります。

その一方で、日本の介入は、輸出を有利にするための自国通貨安誘導ではないとしており、今回の自国通貨安、つまり円安阻止の介入自体を否定しているわけではなさそうです。以上のように見ると、米国の反対で円安阻止介入ができなくなったということではなく、160円の円安値更新で円安が加速するようなら、「3度目の介入」もありうるのではないでしょうか。

ところで、米ドル高・円安の主導役と見られる投機筋の米ドル買い・円売りも、かなり「行き過ぎ」懸念が強くなっている可能性があります。投機筋の代表格である、ヘッジファンドの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、6月11日現在で、売り越しが13万枚となっており、すでに2023年のピークと肩を並べる水準まで拡大していました(図表3参照)。

[図表3]CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

これまで見てきたように、その後一段と米ドル高・円安が広がったことから、投機筋の円売り越しも拡大している可能性が高いでしょう。そうであれば、さらなる米ドル買い・円売りの余力は限られ、介入など何かのきっかけで米ドル安・円高に反転した場合は、ポジション調整の米ドル売り・円買いが広がる可能性もあるのではないでしょうか。

そもそも、米ドル/円は先週金曜日にかけて8営業日連続の陽線となっており、今週中に陰線(米ドル安・円高)に転換する可能性は高いと考えられます。円の安値更新や介入などの動き次第では、上下に荒っぽい値動きになる可能性も注意する必要があるでしょう。とくに、介入があった場合は、経験的に一日で最大5円、米ドル安・円高に戻るのがこれまでの基本でした。

以上を踏まえると、今週の米ドル/円の予想レンジは、「3度目の介入」があった場合も考えたうえで、155~162円といった具合に広めのレンジで想定します。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

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