映画の“さわり”=“冒頭“という意味ではない…?間違った意味のまま浸透してしまった日本語3選

(※写真はイメージです/PIXTA)

映画やドラマがおもしろいと、誰かに伝えたくなるものです。そのときに「さわりの部分だけ説明するとね…」と言って、冒頭がどんなストーリーなのか話すこともあるでしょう。しかし本来「さわり」は「冒頭」という意味ではないのです。このように、日本にはいつの間にか元と違う意味で浸透してしまった言葉があります。今回はそんな日本語の本来の意味について解説します。

「さわり」って、冒頭のことじゃないの!?

「話のさわり」

映画やドラマなどのあらすじを人に伝えるのは、とても難しいことです。聞いている人を飽きさせないようにうまく説明することは、ほとんどの人ができません。

さて、どうしても映画の内容や楽曲のよさを伝えたいときに、「ちょっとだけ、さわりの部分を教えようか」と言ったりすることがあります。みなさんは、どの部分を相手に伝えようとしますか。

なんと、映画の出だしの部分、歌の出だしのところだけを話したり、歌ったりする人がとても多いのです。

「さわり」は、「出だし」「始めの部分」のことではありません。「さわり」は、漢字では「触り」と書きます。つまり、もっとも人の心に「触れる」部分のことを言うのです。映画であれば「一番盛り上がるところ」、歌で言えば「サビ」と呼ばれる部分のことなのです。

平成19(2007)年度の「国語に関する世論調査」では、すでに55%の人が「さわり」を「話などの最初の部分のこと」と答えています。間違った使い方をしている人が、正しい使い方をしている人をすでに超えてしまっている状態なのです。

もしかしたら、いつのまにか、正しい使い方が忘れ去られてしまうのではないかと思われます。

マスメディアで多用され、悪いイメージがついてしまった

「ハッカー」

全世界で、電子マネーが使われるようになってきています。みなさんの中にも、決済はすべてカードやスマホで、現金は使わないという人が、徐々に増えてきているのではないでしょうか。わざわざお金をおろしに銀行に行かなくてもいいなんて、とても便利な世の中です。

ただ、恐いのは、自分のパソコンや会社の決済などが、覗かれたり、破壊されたり、不正行為が行なわれることです。私たちは自分がまったく気が付かないうちに、機密情報や個人情報が盗まれている危険性と隣り合わせになりました。

こういうことをする人を、日本では世間一般に「ハッカー」と呼びます。ですが、正式にはこの呼び方は間違いです。

「ハッカー」とは、英語で「コンピューターやインターネットなどについて造詣が深い人」という意味で、本来は、「不正アクセスをする人」のことではありません。

海外などで、「あなたはハッカーだね!」というと、「コンピューターの知識に長けた人」といういい意味で捉えられるのです。パソコンを使って不正をする人は、英語では「クラッカー」、あるいは「セキュリティー・ハッカー」と呼ばれます。

また、「ハッカー」本来の意味が転じて、「不正アクセスをする人」という使われ方が浸透してきた今日の海外では、意味を区別するために、本来の意味の「ハッカー」を「ホワイトハッカー」、犯罪者という意味の「ハッカー」を「ブラックハッカー」と呼ぶこともあります。

海外に行って、「クラッカー」のことを「ハッカー」と言っていると、不正アクセスする人のことを褒めているように誤解されるかもしれませんので、要注意です。

「雨模様です」、雨は降っている? 降る前?

「雨模様」

「今日は、朝から雨模様です」と、テレビのキャスターが伝える場面が映ります。夜半から降り出した大粒の雨で濡れる路面とそこを行き交う通勤通学の人たちをカメラは映し出していました。ここでは、「雨模様」という言葉は、すでに「雨が降っている状態」という意味で使われています。

しかし、本来「雨模様」とは、「雨がこれから降り出しそう」「雨になりそうな天気」を意味する言葉です。

「雨になってしまいそうな様子」のことを、古語では「あまもよい」「あめもよい」と表していました。この「もよい」とは、「催す」の意味で、「推移する」「そうなるらしい風情」「それらしい様子」という状態を指す言葉です。現代でも、「眠気を催す」などで使われたりしますが、眠いだけであって、まだ眠ってはいませんよね。

つまり、「あめもよいです」と言えば、まだ雨は降っておらず、これから降りそうな状態だということになるでしょう。「雨模様」は、「あめもよい」が変化してできた言葉です。だとすれば、「雨模様」も、「これから雨になりそうだ」ということになります。

これが、平成15(2003)年度の「国語に関する世論調査」では、「小雨が降ったりやんだりしているようす」と回答した人の割合が、「雨が降りそうなようす」と回答した人の割合を上回ったように、この頃から、テレビやラジオでも「雨模様」を「雨が降っていること」として誤用されるようになったのです。

「雨模様」に対して、「晴れ模様」という言葉もあります。こちらも「雨模様」と同じように、「晴れそうな空模様」「晴れそうな気配」という意味ですので、あわせて覚えておきましょう。

山口 謠司
大東文化大学文学部中国文学科教授

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