中華料理店で連呼された「こいつはどうだ?」 驚愕の“データ準備”…面談で生まれた伝説

オリックスのファーム用具担当を務める山内嘉弘氏【写真:北野正樹】

オリックス・山内嘉弘氏が回想する1995年の日本シリーズ“秘話”

衝撃的な“呼び出し”を覚えている。オリックスのファーム用具担当を任されている山内嘉弘氏は、1987年ドラフト2位で阪急ブレーブスに入団。その後、1994年オフにトレードでヤクルトに移籍し、1995年は古巣との日本シリーズを迎えたのだった。

7年間在籍した阪急、オリックスとの“頂上決戦”。移籍1年目だった山内氏は燃えていた。「元々いたチームとの対決でしたからね。当時は交流戦もなかったので、楽しみな気持ちでした」。胸を躍らせていると、突然、電話が鳴った。声の主は松井優典ヘッドコーチ(当時)だった。

「え……? 何か問題でも起こしたかな? 日本シリーズ直前だしな……」

呼び出されたのは神宮球場近くの中華料理店だった。約束通りの時間に着席すると「おい、オリックスってどんなチームだ? 1人1人教えてくれ!」と“個人面談”が始まった。「古巣だったんでね。僕に全部、こいつはどうだ? こいつは? こいつは? って特徴を尋ねる時間でしたね。当時、野村(克也)監督のID野球だったんです。集められるデータを全部収集する感じでした」。

古巣相手とはいえ、当時はヤクルトの一員。松井コーチからの「どこが弱い? どんな感じだ?」の問いかけに全て真剣に解答した。“個人面談”から伝説も生まれたのだった。

「僕、1番最初に『イチローはどうなんだ?』って言われた時に『1球だけインコースに行ってください』って言ったんです。イチローは1球だけインコースに行ってもらって、あとは全球アウトハイの方が良いですよって」

「イチローがサードファウルフライを打った場面、見たことありますか?」

理由は明確にあった。「イチローの場合、アウトハイもカーンって打つんです。普通の左バッターだったら、泳ぎながらサードファウルフライになりますけどね。イチローはレフトまできっちり飛ばすんです。松井さんに『イチローがサードファウルフライを打った場面、見たことありますか?』と聞きました。僕は見たことがなかったんです」。外角“高め”要求の意図もある。

「イチローは低めでもしっかり強く叩いてくるんですよ。綺麗に決める低めを叩いたらボテボテになって内野安打になってしまう。でも、アウトハイだったらパチンって当てられるんでレフトフライかショートに強烈な打球。成功しましたよ。良い当たりのショートゴロだと、当時、ショートは池山(隆寛)か宮本(慎也)なので、確実にアウトにしてくれる計算でした」

思ったことを真っすぐに松井ヘッドに“伝達”したが、当時は何も考えずに決戦へ挑んでいた。「だって、僕あの時は移籍1年目ですよ? アウトハイ、イチロー弱いですよって言ったところで、普通は信じないじゃないですか。だってね……。アウトハイって1番(打球が)飛ぶところですよ?」。“真実”を知ったのは、最近だった。

「野村監督の特集をしている映像を見たんです。ぼーっと見ていると『ん……? なんか聞いたことあるぞ』となったんです。いや、本当に知らなかったんですよ。結構、抑えてるなっていう感じのイメージでしたけど。まさか、自分の言ったことだったなんて……」

1995年はヤクルトが日本一、1996年はオリックスが日本一に輝いた。山内氏は1997年に引退後、1998年からオリックスの球団職員になった。ファームの用具担当は2006年から任されている。「いろんな選手の下積み期間を見てきましたね」。酸いも甘いも、全てを知っている。(真柴健 / Ken Mashiba)

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