「氷ボリボリ」は病気のサインの可能性も 放っておくと怖い理由 医師が解説

氷の食べすぎは病気のサインのことも(写真はイメージ)【写真:Getty Images】

暑くなると氷入りの冷たい飲み物を飲みながら、氷を「ボリボリ」と食べる人を見かけることがあります。しかし、それだけにとどまらず、氷が無性に食べたくなる場合は要注意。思いもよらない病気のサインが隠れていることがあります。内科医の佐藤留美医師に伺いました。

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鉄欠乏性貧血の人が多くみられる

氷を食べるのがやめられない―その原因は暑さだけではなく、「氷食症」かもしれません。その定義ははっきりとしていませんが、2か月以上、毎日のように大量の氷を食べている場合は、氷食症を疑ったほうがいいでしょう。氷食症は本来、食べるべきではないものを食べる、「異食症」のひとつと考えられています。

氷食症の原因は、明確になっていませんが、鉄欠乏性貧血の患者に比較的高い確率でみられます。鉄欠乏性貧血とは、体内の鉄分が不足した状態で生じる貧血のことです。鉄分が不足すると、全身に酸素を運搬する赤血球中のヘモグロビンが十分に作られなくなり、その結果、全身の倦怠感や耳鳴り、めまい、頭痛などの症状が現れます。

偏った食事などによる鉄不足が原因だとつい考えがちですが、実は思わぬ病気が隠れていることがあるので注意が必要です。例えば、鉄を喪失する病気には次のようなものがあります。

・子宮筋腫や子宮がんなどの婦人科疾患
・胃潰瘍・十二指腸潰瘍
・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)
・胃がんや大腸がんなどの消化管出血を起こす疾患

ほかにも、造血機能が低下する病気など、原因はさまざま考えられます。氷の食べすぎに心当たりがある人は、病院で相談してみるといいでしょう。

思春期の女の子も要注意

また、「子どもが氷をかじりたがって困っている」という相談を耳にすることがあります。鉄欠乏性貧血は、妊娠や授乳期などにも起こるため、大人の女性がなりやすいイメージが強いですが、思春期の女の子にも多くみられます。

月経による出血のために貧血になり得ますし、ダイエットや偏った食事で、鉄分の摂取量が少なくなって貧血になる場合もあります。鉄は、神経発達に必要な栄養素です。また、脳の成長には多くの鉄分を要するため、鉄欠乏は子どもの発達や性格形成に影響を及ぼす可能性も示唆されています。

貧血の治療方法として、基本となるのは普段の食事です。鉄を多く含む食物を摂取するようにしましょう。また、鉄分だけを摂取するのではなく、血液の材料となるタンパク質や鉄分の吸収をよくするビタミンCを併せてとるなど、栄養のバランスがとれた食事をするように心がけることが大切です。

栄養をきちんと消化し効率良く吸収するためには、よく噛んで食べること。暴飲暴食を避け、規則正しい生活を送りましょう。

氷食症は精神的な問題から起こる場合も

氷食症は、鉄欠乏性貧血が原因でない場合もあります。それは、強い精神的ストレスや強迫観念により引き起こされる場合です。

ストレスを感じると、何度も同じ行動を繰り返さずにはいられないという強迫性障害により氷を食べ続けることがあります。また、氷食症に加えて、拒食・過食といった行動が同時にみられる場合もあります。

氷食症を放っておくと、大量の氷をガリガリと噛んで食べ続けることで、歯に負担がかかり、歯の表面が徐々にすり減ってしまいます。ほかにも、あごに負担がかかり、痛みを感じたり、口が開きにくくなったりする顎関節症を引き起こすおそれが。

いずれにしても大きな病気が隠れているサインの可能性があるので、もしも自分自身や周囲の人に氷食症の疑いがある場合は、できるだけ早めの受診を心がけましょう

佐藤 留美(さとう・るみ)
久留米大学医学部卒業後、同大学病院や市中病院にて臨床医として研鑽を積む。大学院では感染症学の研究に励み、医学博士号を取得。臨床面では内科・呼吸器・感染症・アレルギーなどの専門医及び指導医となり、同大学関連の急性期病院にてCOVID-19の診療など第一線で活躍中。花粉症や喘息などのアレルギー疾患の診療経験も豊富。その傍ら、現在は藤崎メディカルクリニックの副院長として地域医療にも取り組んでいる。

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