おじさんよ、会話センスを磨け!/作家・中村うさぎ

日常のひとコマで「あの人はセンスあるよね」とか「俺ってセンスないんだよなぁ」なんて会話を一度は耳にしたことがあると思います。では、その「センス」とは一体なんなのでしょうか。改めて問われると、意外と説明できないものです。ただ一つ明確に言えることは、「センスがいい」というのはこの上ないほめ言葉だということ。せっかくなら「あなたってセンスあるよね」と言われたいですよね。

連載「男のセンス学」では、独自の審美眼と洞察力を持ち各分野で活躍するスペシャリストを毎月お迎えして、センスの正体について探っていきます。第1回は作家/エッセイストの中村うさぎさんが登場。買い物依存、ホストクラブ通い、繰り返す美容整形、デリヘル嬢体験など壮絶な生きざまを比類のない率直さでつづり、世間に衝撃を与えたうさぎさんの持論とは。

会話のセンスに欠ける男たち

男性に関して「センスないなぁ」とあきれるのは、主に会話のセンスである。ひたすら自分の話ばかりする男、教科書どおりの蘊蓄(うんちく)を並べるだけで「おっ」と思わせる面白い発言ができない男……これらは全て、知識や経験をひけらかすことにしか使えない男たちだ。

知識というのは、活用するものである。根底に豊富な知識があるから、それを元にユニークな発想ができるし、並外れた見識も持てる。そして、会話の相手が感心するのは、実はその部分なのだ。「なるほど!」とか「そういう考え方があったか!」と相手をうならせてこその知識なのに、ただただ自慢げに蘊蓄(うんちく)を披露するばかりのおじさんがいかに多いことか。どんなに博識でも、そんな会話はとてつもなく退屈で、苦痛ですらあるのだよ。

こういうおじさんに遭遇すると、「ああ、『俺ってすごいでしょ』ってアピールしたいんだなぁ」と、なんだか痛々しい気分になってくる。そう、典型的な「イタおじ」だ。お母さんにほめてほしい子供みたいな幼稚な自己顕示欲が透けて見えるから、聞いてるこっちはめちゃくちゃ苦しい。そういう「俺物語」はキャバクラでやってくださいね、と言いたくなる。キャバ嬢があなたの話に「すごーい」とか言ってくれるのは、お金をもらっているからだ。つまり、あなたの話は、有料じゃなきゃ聞いてられないレベルのものなんです。なのに勘違いして素人に無料で聞かせようとするからウザがられるのである。

こういったセンスは、何も生まれつきのものではない。自分が他人にどう見えているかを観測するメタ視点は、日頃の訓練によって養われる。「俺の話は一方通行ではないか?」「相手を退屈させていないか?」と、常に己に問いかけ、相手の反応に気を配ることで、イタおじは大いに改善されるはずだ。相手があなたの話に相づちを打つだけで自分から質問したり意見を述べたりしていなければ、これはもう危険なサインと考えていいだろう。会話に参加する気がないのだからね。そんな場合は早々に話を打ち切り、相手が興味を持ちそうな話題を模索する。自分のフィールドではなく、相手のフィールドで会話をするのだ。これって当たり前の社交術なんだが、そんな基本すらできてないからイタおじなのだ。

この世の全ての男たちがこの社交術を身につけてくれれば、女たちは大歓迎するだろう。「少年よ大志を抱け」と言ったのはクラークだが、私はこう言いたい。おじさんよ、会話センスを磨け!

中村うさぎ

作家・エッセイスト。 1958年、福岡県生まれ。同志社大学英文学科卒。繊維会社での営業、コピーライター、雑誌ライターを経て、1991年にライトノベル「ゴクドーくん漫遊記」で作家デビューし、ベストセラーとなる。その後、買い物依存、ホストクラブ通い、美容整形、風俗体験など自らの経験を赤裸々とつづったエッセイで注目を集める。『ショッピングの女王』、『私という病』、『あとは死ぬだけ』など著書多数。

Illustration : Masashi Ashikari

Edit : Yu Sakamoto

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