知ってる?52年前のラジオ名機 ソニー「スカイセンサー」を令和に使ってみた 当時は意外な使い方も

52年前のラジオ ソニー「スカイセンサー」シリーズの第1号機「ICF-5500」

昭和の洋楽ブーム全盛期であった1970年代に、少年たちの夢を詰め込んだ「ラジオ」がありました。50代以上の人の中には、52年前に登場したソニーのポータブルラジオ「スカイセンサー」を覚えている人も多いのでは。普段はラジオを陰で支えている技術スタッフが、令和に「スカイセンサー」を入手し、ラジオ番組のなかで解説しました。

【写真】名機「スカイセンサー ICF-5500」を上から見てみた

◆昭和の洋楽全盛時、少年たちの夢を詰め込んだラジオがあった

1970年代初頭の1972(昭和47)年6月21日、ソニーから「スカイセンサー」シリーズの第1号機として、FM/MW(中波)/SW(短波)に対応した3バンドレシーバー「ICF-5500」が発売されました。(※当時の定価は1万6800円)

もちろん今はソニーから発売はされていませんが、現代もネットオークションで人気機種として出回っており、入手することは可能。当時のオーディオ好き、音楽好きの少年たちがこぞって買い求めていた機種です。

スカイセンサーICF-5500の発売前、1969年12月にエフエム愛知(FM AICHI)、1970年4月にエフエム大阪(FM大阪)とエフエム東京(Tokyo FM)、6月にエフエム福岡(FM FUKUOKA)と、民放のFMラジオ局が相次いで開局。当時は音楽ファン、特に洋楽ファンが熱心にエアチェックをしていたり、BCL(Broadcasting Listening=短波などのラジオ放送を受信して楽しむこと)のブームが起こったりしていた時代背景があります。

スカイセンサーICF-5500は、BCLラジオというアプローチが表に出ていましたが、もちろん海外などの短波放送を受信することにおいては、それ以前の機器より受信感度が向上したものでした。

しかし当時の多くの少年たちにとっては、BCLよりも、そのラジオ機器自体の見た目のデザインに惹かれ、身近なFM放送やAM放送を聴きエアチェックするための一つのラジオ受信機器でした。さらに、多彩な機能が満載されていたことが、50年経った今でも名機と言われている由縁です。

では、その機能の一部をチェックしてみましょう。

まずは、外観から見てみます。マッドブラックを基調にグレーがポイントして配色され、肩からかけてちょうど良いくらいの縦型で、海外の戦場ドラマに登場してきそうな無線機を思わせるフォルム。つまみ類(スイッチ類)はON、OFFの切り替えスイッチが小気味良く静かにぱちんと音が鳴る小さな形状。機能的には「LIGHT」や「LOUDNESS」など、当時斬新だった音色調整がついていました。

またプロの音響ミキサーをイメージさせるスライドフェーダーは「VOLUME」を調整するもので、高音「TREBLE」と低音「BASS」の調整つまみが独立して配置されているのもプロ仕様をイメージさせるものです。

そして「TUNING & VU METER」はアナログメーター(針が振れる)もので、これもプロのミキサーを彷彿とさせます。「POP UP ANT」は、アンテナがポップアップボタンをワンプッシュするだけで飛び出してきます。

◆ 誰でも配信できる令和 実は50年前でも簡単にできた?

さて、ここからがこのラジオの真骨頂なのですが、PUSH TALK LOCKボタンが配置されている内蔵MICの存在です。

FM電波を使うトランスミッターが内蔵されており、実際の放送がない周波数やノイズの少ない周波数帯に合わせて、別のFMラジオ機器に音声を飛ばすことができました。電波は微弱で実際に実験してみると周囲10数メートル程度のものですが、それは立派なラジオから聴こえてくるパーソナルなラジオ放送と言えます。

今の時代、YouTubeなどで簡単に個人のネットラジオ番組を放送することができますが、50年も前の時代に非常に狭い範囲ですが電波を飛ばして放送ができたわけです。深夜ラジオ全盛時ですので、これは10代の少年たちにとって驚き以外の何ものでもありませんでした。

◆予想外の使い方? ギター少年はアンプ代わりに!

さらに「AUX IN」(オグジュアリーのインプット端子)、すなわち、外部音声入力端子が付いていたことも、驚くポイントです。今どきの小型の音響機材にはステレオミニの外部端子が付いていないものも多いのですが、AUX INはあると何かと便利な入力端子です。外付けマイクを接続できると当時の説明書には書いてありますが、その時代のエレキギター少年たちはこの端子にギターをつないでアンプ代わりに使っていたことも多かったよう。完全な入力ゲインオーバーの状態になり、ひどく音割れしていた状況ですが、子どもたちは流行していたエフェクターのファズ(Fuzz)のように使っていました。

このように昭和の真っただ中、1970年代に登場し、少年たちを魅了したスカイセンサーICF-5500。良き昭和のノスタルジーを感じさせる名機であることを、この機会に改めて思い知らされました。

※ラジオ関西『おしえて!サウンドエンジニア』2024年6月3日放送回より

(文=須藤達也 / 会社員のかたわら、ラジオの受信技術や電子工作を中心に雑誌やブログにてテクニカルライターを担当)

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