【後編】磯村亮太×鹿山拓真〜成長を実感できるセカンドキャリアの魅力。それはスポーツと同じ〜

元アスリートに聞くファーストキャリアとセカンドキャリアのこと。磯村亮太と鹿山拓真は現在ともにマイナビに勤務し、アスリートの就職・転職を支援する『マイナビアスリートキャリア』のキャリアアドバイザーとして現役アスリートと向き合う2人に、現役時代からのセカンドキャリアに対する考え方、引退から就職までの流れやキャリアにおける展望について話を聞いた。

取材=細江克弥
撮影=野口岳彦

“外の世界”に対する意識と準備

――おふたりとも引退直後に一般的な就職活動をされたということですが、戸惑うこともあったのでは?

鹿山 僕の場合は知り合いの会社で面接をしてもらった程度なので、戸惑うことは特にありませんでした。ただ、やっぱり“元Jリーガー”として見られることについては、僕自身がネガティブに意識してしまうところはあったと思います。

磯村 その気持ちはよくわかる。ただ、僕の場合は就職活動を恥ずかしながら“ナメて”いて、どんな面接でもある程度は自分のことをちゃんと話せるだろうと思っていたし、就職活動そのものに対してかなり楽観視していたんです。でも、実際にやってみるとそれがまったく通用しなくて、初めての面接なんて本当にひどい出来で(笑)。だから、反省して自分なりに勉強しました。いろいろな人の意見を聞いたり、動画サイトをチェックして基本的な所作について学んだり。そうやって自分の意志で動き始めると、覚悟が決まってくるんですよね。自分がやりたいことも見えてくる。だから、面接をたくさん受けたことはすごく良かったと思っているんです。

鹿山 そういう意味では、僕は大学生時代に就職活動を一度経験しているので。リクルートスーツを着て合同説明会のようなセミナーにも行っていたので……。

――なるほど。

磯村 その経験は大きいですよね。僕は完全にパニックだったので。ただ、自分の経験を通じて、就職活動を一通りちゃんとやってみるこの大切さは本当に痛感しました。サッカー選手なら「自分はサッカーしかやってこなかったから」と言って外の世界に出ようとしない人が多いんですけれど、やっぱり“知らないこと”に対する恐怖心が強いんだと思うんです。でも、自分の意志で行動して、外に踏み出して、就職活動をしてみると、面接の受け答えの中で自分の意志がはっきりと見えてくる。それによって“やってみたいこと”に気づくケースがかなりある気がするので。

鹿山 そうですよね。僕も現役時代は“外の世界”に対するイメージをまったく持てていなかったし、意識も低かったと思うんです。引退して思うのは、やっぱり、プロスポーツの世界にいると、そういうことを知る機会があまりにも少ないなと。だからこそ、“外”に出たことでそういう状況を理解している僕らのような人間が、アスリートのキャリアにおけるひとつのロールモデルにならなければいけないと思っていて。そういう発信は、これからの時代とても大切だと思っています。

[写真]=野口岳彦

――ちなみに“外の世界”への適応という意味で、おふたりが苦労したことは?

磯村 やっぱり、パソコンのスキル……ですかね(笑)。実際には引退してからちゃんと使うようになったので、最初は周りがびっくりするくらいの知識とスキルしかなくて。それから、労働時間への対応ですよね。“8時間労働”そのものが未知の世界でしたし、それに対するドキドキ感も当初はありました。ただ、僕らの職場でめぐまれていると感じるのは、アスリート出身の同僚が多いことなんです。だから、わからないことがあれば気兼ねなく聞けるし、恥ずかしがる必要がない。

――なるほど。だからこそ、アスリートのセカンドキャリアにおける最初の環境選びって、すごく難しいですよね。おふたりの現在のお仕事は、まさにその部分にアプローチされていると思うんですけれど。

磯村 自分がどれだけやれるかというのは、“やってみないとわからない”が正解だと思うんです。だから、キャリアを選ぶにあたってはサポートする存在が必要で、アスリート出身なら大きな力になれるんじゃないかと。実際に仕事をしていて、その部分における自分を価値を少しずつ実感できている気がします。

[写真]=野口岳彦

自分の意志で動けば、道はひらける。

――『マイナビアスリートキャリア』を通してすでに多くのアスリートと向き合い、セカンドキャリアについての相談を重ねてきたと思います。おふたりが思う「必要な資質」とは?

鹿山 これはサッカーにも共通することだと思うんですけれど、やっぱり“好奇心”はとても大切だと思います。わからないことに対して「知りたい」と思う人は自分で動けるし、行動が早いですよね。引退後にどういう行動を取るかにも表れる部分だと思いますし、そういう人はすごくスムーズにセカンドキャリアに流れていく気がします。自分もそういうところがあるんですけど、そういう性格に自分自身が救われたと思うところがあって。

磯村 そこはすごく大事だよね。そのスムーズな流れを作るためにも、本人だけじゃなく、サッカー界全体の見られ方を変える必要があると思っていて。例えば、偏差値の高い有名大学のサッカー部出身者なら、在学中の就職活動でかなり高い評価を得ることができる。でも、その人材がもしもプロの道を選択した場合、3年後の人材的な評価は一気に下がってしまうという現実があって。

――なるほど。そのとおりかもしれません。

磯村 でも、その人は努力によってプロになるという結果を勝ち取っているわけで、そこで3年間、全力で勝負していろいろなものを得ているはずなんですよね。それなのに、社会的な評価を受けづらい。それってどいうことかいうと、やはり一般社会で活躍している“元Jリーガー”が少ないからだと思うんです。だからこそ、僕らはこの仕事を通じて一般社会で活躍する“元アスリート”をより多く生み出さなきゃならない。その部分の見られ方が変わると、アスリートのセカンドキャリアに対する考え方が劇的に変わると思っているんです。

[写真]=野口岳彦

――そういった背景を踏まえて、現役の選手たちに伝えたいことはありますか?

鹿山 「想像以上に社会人は楽しい」ということです。“外の世界”という見方をして怖がる必要はまったくないし、すごく魅力的な世界であると。それはなぜかというと、やっぱり、自分自身の成長を感じられることが大きいと思います。自分はキャリアアドバイザーとしてまだ2年目ですけれど、1年目はクライアントに対して「自分が決めてあげよう」という思いが強かったんですけれど、2年目になってからはクライアント自身が何を希望していて、それを引き出すためにどういうアプローチをすればいいかという考え方ができるようになってきていて。そういう成長を自分自身が感じた時に「仕事が楽しい」と思えますし、それってサッカーと一緒だなと。

磯村 確かに。それから、現役時代からセカンドキャリアについてどれだけ準備するかという話についてはいろいろな意見があると思うんですけど、僕自身は、今の自分があるからこそ「現役時代はサッカーに集中して」と思うところがあって。

――というと?

磯村 僕自身の経験を踏まえて考えれば、30歳を過ぎて初めて社会に放り出されても、はっきりとした自分の意志さえあればなんとかなると思うんです。勉強すれば間に合うし、自分で動けば助けてくれる人もいるし、自然と道もひらける。本気でサッカーをやれる時間というのは限られているからこそ、まずはそこに向き合ってほしい。で、自分が現役時代に、何を、どうやって取り組んできたかを頭の中でちゃんと整理しておくことが大切だと思うんです。そうすれば、引退して次の道を歩きだそうとした時に、自分の意志を見つけやすいと思うので。

――おふたりの“これから”について聞かせてください。どんなキャリアプランを思い描いていますか?

鹿山 自分は今も大学院に通いながら仕事をしている状況で、大きく言えば「スポーツを愛する人を増やす」ことをテーマにしながらこれからのキャリアを作っていきたいと思っています。そうした活動の中で、スポーツを愛する人たちにより多くの選択肢を提供する。人材やキャリアにおいてもスポーツ界全体を良くするための研究を長く続けたいと思っているので、ゆくゆくは研究者として大学の教授になりたいという願望も持っています。

磯村 すごくはっきりしたビジョンだよね。自分はまだ揺れ動いている部分があって、何を目指したいのかがはっきりと定まっているわけじゃありません。ただ、ひとつは、『マイナビアスリートキャリア』のキャリアアドバイザーとして結果を残したい。もうひとつは、サッカー界に対して貢献したいという思い。セカンドキャリアをより良くする、サッカー界全体をもっと良くするために必要なことは、根本的には“経済”だと思っているんです。それを引き上げられる自分になれないかという道を模索している状況で。

――6月27日には斎藤佑樹さんとともにアスリートのキャリア支援についてのトークイベントに登壇されると聞きました。

鹿山 やっぱり、プロサッカー選手とは違うプロ野球選手として体感されてきたセカンドキャリア事情について聞いてみたいですね。

磯村 僕は年齢が近くて、同世代としては「スポーツ界の話題をいつも斎藤選手に持っていかれて……」という思いがあるので、そのあたりについても聞いてみたいと思います(笑)。

【磯村亮太プロフィール】
株式会社マイナビ アスリートキャリア事業部 キャリアアドバイザー。名古屋グランパスU-15、U-18を経て、2009年に名古屋グランパスのトップチームへ昇格。名古屋グランパス在籍期間には、J1リーグ制覇や、日本代表への選出も経験するなどトップレベルで活躍。その後、アルビレックス新潟、V・ファーレン長崎、栃木SCへと移籍。2022年シーズンをもって現役を引退。Jリーグ通算189試合8得点と結果を残す。2023年、株式会社マイナビ アスリートキャリア事業部に入社。現在はキャリアアドバイザーとして、競技と仕事を両立させる「デュアルキャリア」の支援や、引退後の働き先となる「セカンドキャリア」の支援、体育会学生の就職支援などに従事。

【鹿山拓真プロフィール】
株式会社マイナビ アスリートキャリア事業部 キャリアアドバイザー。小榊サッカースポーツ少年団、長崎南山中学校、長崎南山高校を経て、東海学園大学へ進学。大学3年次の2018年3月7日に、V・ファーレン長崎へ加入することで仮契約。同年3月29日に特別指定選手に承認され、V・ファーレン長崎に選手登録された。同年4月4日のルヴァンカップ・グループステージ第3節サガン鳥栖戦で、公式戦初出場・初得点を記録した。2021年7月24日、カターレ富山へ期限付き移籍。シーズン終了後に完全移籍。2022年11月28日、現役引退を発表。2023年、株式会社マイナビ アスリートキャリア事業部に入社。同年、大阪体育大学大学院に入学。元・Jリーガーであり、現在は「マイナビアスリートキャリアのキャリアアドバイザー」、「大阪体育大学大学院の学生」、「実業団チームのサッカー選手」という3つの顔を持つ。

© 株式会社シーソーゲーム