「焼け石に水だね」…年金上昇上回る物価高、病やけがは増えるが職はない 日々の暮らしにあえぐ高齢者が知事選に託す思い

前年の年金振込通知書を確認する男性。増額も物価上昇には追いつかない=鹿児島市(写真は一部加工しています)

〈「託す」2024かごしま知事選より〉

 物価上昇が続く。中でも大きな影響を受けているのが年金暮らしの高齢者だ。

 「焼け石に水だね」

 鹿児島市の無職男性(71)は、2年前から収入の全てを年金に頼る。14日の支給日に4、5月分の約15万円が振り込まれた。前年から4000円弱増えた計算だが、「これだけ値上げが続けば増えた実感はない」。

 高校卒業後、パートの仕事を転々としながら母親と暮らした。50代で母を見送った後、白内障で1カ月入院。収入がなくなり治療代が払えず、一時的に生活保護を受けた。その経験から60歳で年金を申請。「パートの給料と合わせて15万円あれば暮らせる」と見込んだ。

 ところが、65歳を過ぎて勤め先で膝を負傷する。70歳を前に緑内障も患い、時給のいい夜間の仕事は難しくなった。職を探したが、10件続けて不採用。年金だけの生活になった。

 総務省の2023年家計調査からは、65歳以上の無職世帯の厳しい実態が浮かぶ。夫婦世帯の平均収入は月約24万5000円、単身世帯は約12万7000円で、どちらも9割を年金が占める。収支は夫婦世帯で月約3万8000円の赤字、単身世帯も約3万1000円のマイナスだ。

 男性は、朝昼はパン、夜はごはんと炒め物か、卵入りのラーメンで済ます。水道・光熱費に通信費、借地に立つ自宅の地代と固定資産税などを引くと、使えるのは月3万~4万円。この数年、食材が10円、20円と小刻みに上がり続け、生活を圧迫する。

 選挙は国政から市政まで欠かさず足を運び、福祉充実を訴える候補に一票を投じてきた。だが現実は厳しくなる一方だ。治療を続けられず、膝や目は症状が悪化。冬に暖房でやけどした背中はかぶれてきた。

 年金は国の制度だが、身近な県政でできることはあると思う。昨年、出費がかさみ、支給2週間前に食べ物が底をついた。市内のフードバンクで缶詰や米、野菜の配布を受け、心底ほっとした。「農業県・鹿児島なら食料給付の仕組みも考えられないか」と話す。県のリーダーには「苦しい暮らしに寄り添ってくれる人」を望む。「世代に関係なく、困っている人を助けるのが政治家のはず」

 周囲の勧めで、近く生活保護を申請する。「体を治し、もうちょっと働けたら」。愛用のかばんに、求人雑誌をしのばせる。

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