ロンドン生活、鮮明に描く エッセイスト・クラブ賞に園部哲さん

大村会長から賞状を受ける園部さん(左)

 第72回日本エッセイスト・クラブ賞の贈呈式が24日、都内で行われ、「異邦人のロンドン」(集英社インターナショナル刊)で受賞した福島県いわき市出身の翻訳家園部哲さん(68)=ロンドン在住=に賞状などが贈られた。

 同賞は優れた随想や評論、ノンフィクションなどに贈られるもので、園部さんの作品は106点の作品の中から最高賞に選ばれた。

 園部さんは磐城高から一橋大法学部に進学し、商社に就職。2000年からの2度目のロンドン赴任後に退職し、同地で翻訳業を行っている。受賞作「異邦人のロンドン」は、園部さんの友人のうち、外国からロンドンに来て暮らしている人々との交流の中で考えた、コロナ渦の暮らしや人種差別、第二次世界大戦、ウクライナ問題、東日本大震災と原発事故などについて書き下ろした19編をまとめた。

 多様な人々が暮らすロンドンならではの出来事が「異邦人」である自身や家族、友人らのエピソードとともに記されており、登場人物の顔が浮かぶような詳細な描写、他国から来た住民を地域社会に迎え入れて営まれている暮らしが示唆に富んでいることなどが高く評価された。

 大学時代に小説を書いていたという園部さんだが、本作執筆のきっかけは、コロナ禍に自宅にこもって翻訳の仕事をしていた際、「圧力鍋から出る湯気のように『自分の声を響かせたい』という思いが強くなった」ことという。東日本大震災についての章では、いわき市の家族と連絡がなかなか取れなかったこと、インターネットを通して被害状況を把握しようと昼夜逆転の生活を送ったこと、原発事故を心配する同郷の女性とロンドンで知り合ったことなどを書いた。

 受賞式では、園部さんが「過去の受賞作の優れた著者と同じ土俵に立つことができありがたい」と謝辞を述べた。同クラブ会長でノーベル賞受賞者の大村智氏が園部さんに賞状などを手渡した。

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