BYDの最新バッテリEV「シール」初試乗 フラグシップセダンの仕上がりやいかに?

by 日下部保雄, Photo:高橋 学

BYDの最新BEV「シール」

駆動方式はRWDとAWD

日本に導入されるBYDのモデルとして3車種目、フラグシップとなるのは「SEAL(シール)」である。

シールは全長4800mm、全幅1875mmのDセグメントの車両だが、全高は1460mmに抑えられて欧州競合車に比べて低いのが特徴だ。BYDはBEV(バッテリ電気自動車)専用のプラットフォームでホイールベースは2920mmと長いが、ハンドルの切れ角度が大きいのか、後輪ステアを持たないでも実感する最小回転は小さい。

ボディスタイルはトランクを持つ3ボックスだが、ファストバッククーペの流れるようなデザインだ。特にリアスタイルは堂々として見える。前後のオーバーハングが切り詰められ、コンチネンタル「エココンタクト 6 Q」(235/45R19)が4隅に配されたレイアウトは踏ん張り感がある。空力と上質さの両面でドアノブがボディに埋め込まれ、解錠と共にせりあがってくるシステムを取る。

今回試乗したのは6月25日に発売となった新型「シール」。シールではRWDとAWDの2モデルを用意し、価格はRWDが528万円、AWDが605万円。なお、シール導入を記念し、1000台限定でRWDが495万円、AWDが572万円になるとのこと
撮影車(RWD)のボディサイズは4800×1875×1460mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2920mm。フロントでは海の波をイメージしたリップルイルミネーションを、リアでは空と海の広大さを表現する貫通式テールランプを特徴とする。AWDの前後重量配分は50:50とした
RWD、AWDともにタイヤサイズは235/45R19
空力と上質さの両面でドアノブがボディに埋め込まれる

インテリアもBEVならではのスッキリしたデザインで広々としている。さらに標準装備のパノラミックルーフが明るく清潔感のある印象を与える。シェードはレフ板のようなタイプがオプションで準備されるがパノラマルーフの熱カット率はかなり高く、真夏以外は必要なさそうだ。

メーターはセンターに15.6インチの巨大ディスプレイとドライバー正面の10.25インチディスプレイで構成され、BYDらしくセンターディスプレイは90度回転させることができる。各種操作系スイッチはセンターディスプレイから入っていくが、ショートカットモードもありオーナーにとっての利便性は高い。ダッシュボードはスエード生地、タップリしたシートはナッパレザーで座り心地、サポート性はかなり良い。

インテリアではナッパレザーを前後シートに用いるとともに、センターに15.6インチディスプレイ、ドライバー正面に10.25インチディスプレイをレイアウト。センターディスプレイはBYDのモデルらしく縦でも横でも使える

駆動方式はRWDとフロントにもモーターを持つAWDの2種類から選択できるが、搭載バッテリは82.56kWhのリン酸鉄リチウム電池で共通になる。すでに何度も紹介されているBYDの基幹技術ともいえるブレードバッテリは衝撃に強く、充電も安定して入るのが特徴だ。

その搭載方法がシールより変更になり、バッテリのトップカバーがボディフロアと一体化したことで軽量化と剛性アップが可能となった。BYDではCTB(Cell to Body)と呼んでいるが、側突でも変形量が従来工法に比べて45%減少し、正面衝突では50%減少しているという。さらにバッテリのケースと一体化させることでねじり剛性も大幅にアップしている。これらがもたらす効果は後述の試乗で確認する。

モーター出力は後輪が230kW(312PS)/360Nmで、これに加えてAWDでは前輪に160kW(217PS)/310Nmという特性の異なるモーターが搭載される。リアモーターは安定した性能で効率と静粛性が高い同期型。フロントモーターは出力がすぐに出せる誘導非同期型を採用する。

AWDのフロントモーターはスタート時と緊急時のアシストに徹しており、直結タイプの4WDとは働き方が異なる。モーターの利点を活かしてコンマ秒以下で前輪の駆動力を制御して安定性を高めるiTAC(インテリジェントトルクアダプテーションコントロール)のような運転支援に向けられる。

AWDは可変ショックアブソーバーを採用

さて、まずは4WDから乗り出す。BEVらしく静かな走り出しでタイヤノイズだけが少し室内に伝わる。これだけ太いタイヤではロードノイズも仕方のないところだ。しかしこれも他のモーターなどのメカニカルノイズなどが消されているために目立ち、静粛性の絶対値は非常に良い。

サスペンションはフロント:ダブルウィッシュボーン、リア:5リンクでキャンバー変化を抑えた設定だ。ストロークはそれほど大きくはないようだが、オンロードでは舐めるように走る、しかも路面の荒れたところでもサスペンションの追従性がよく、バネ上の動きはフラットで実に快適だ。後席では少しショックがあるもののフロントに比べたら、という程度だ。AWDには可変ショックアブソーバーを採用しており、電子制御ではなく位置依存タイプのようだが減衰力制御が見事に決まっている。

BYDの各モデルのハンドリングはいずれも軽快でメリハリがあるが、シールも例外ではなくフットワークの良さはDセグメントの中でもトップレベル。大きなバッテリを床下に持ち低重心でステアリングに対して正確に反応する。ボディ剛性の高さはロングホイールベースのシールであっても一体感がある動きで素晴らしい。スポーツカー顔負けのドライビングテイストはドライバーへのストレスを減らしてくれる。例えばタイトコーナーでもロールが少なく路面に張り付くように旋回し、ロングコーナーでの安定した姿勢も圧倒的だ。

EPSはDセグメントらしい滑らかな操舵フィールが得られるダブルピニオンタイプとなっており、早い操舵や切り返しでも操舵力が変わることはない。AWDの駆動輪では前輪が駆動するのは発進以外ではほとんどないが、万が一の場面で運転支援してくるのは安心感がある。

ちなみにシールのドライバビリティはガソリン車に近く、小さなアクセル開度では飛び出しを見せないのが好ましい。ただしジワリと動き出すのは最初だけでその後の加速は二乗的に速くなる。ちなみに0-100km/h加速はRWDが5.9秒、AWDが3.8秒というデータを見ると相当に速い。

ただしエコモードでは回生ブレーキを強くしていないためワンペダルドライブが好むドライバーにはもの足りないかもしれない。回生ブレーキの強さを変えられるものの、強い制動力は感じられなかった。ガソリン車から乗り換えても違和感はないはずだ。

一方、RWDはノーズが軽い分、ステアリング転舵初期の反応が軽やかだ。急加速が必要な場面ではトラクションコントロールが緻密に駆動力を制御してくれる。ただし乗り心地は差があった。ショックアブソーバーはAWDモデルとは異なった通常タイプで、荒れた路面ではショックが伝わりやすい。滑らかな路面では変わりがなく快適そのものなので、常的にはRWDでも満足できる乗り心地だ。

トランク容量は400L。斜めに入れればゴルフバッグが2個入るぐらいだろうか。実はフロントにも60Lの蓋つきのトランクがあり実用的に使える。

シールのフロントフード下には60Lのトランクが用意される

航続距離はWLTCで計測するとRWDが640km、AWDが575km。実用的な行動半径250kmとすればかなり遠方まで無充電で往復できる。シールの美点は充電が安定して入ることで、結果的に短時間で大量の電気を溜められる。

デリバリーはRWDから行なわれるが、1000台のファーストエディションでは500万円を切る価格設定が行なわれた。国の助成金を含めるとさらに手が届きやすく、Dセグメントとしては魅力的な価格になる。

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