『オールド・フォックス 11歳の選択』バイ・ルンイン 監督は自由に演じさせてくれました【Actor’s Interview Vol.41】

侯孝賢、最後のプロデュース作品である『オールド・フォックス 11歳の選択』は、バブル経済に沸く1989年の台湾が舞台。新たな価値観に触れて戸惑いながらも成長していく少年の姿を丁寧に紡ぎ出していく。中でも、主人公の少年リャオジェを演じたバイ・ルンイン君の繊細な演技が絶品だ。台湾で天才子役と呼ばれているのも十分頷ける。

そのバイ君がこの度来日。丁寧で落ち着いた取材対応は品格すら漂っていたが、取材場所である東映ビデオの会議室に貼ってあった「仮面ライダー」のポスターを見つけて喜ぶ姿は、まだまだ14歳の少年そのもの。そんなバイ君に、『オールド・フォックス 11歳の選択』での撮影について話を伺った。

『オールド・フォックス 11歳の選択』あらすじ

台北郊外に父と二人で暮らすリャオジエ(バイ・ルンイン)。コツコツと倹約しながら、いつか、自分たちの家と店を手に入れることを夢見ている。ある日、リャオジエは“老獪なキツネ”と呼ばれる地主・シャと出会う。優しくて誠実な父とは真逆で、生き抜くためには他人なんか関係ないと言い放つシャ。バブルでどんどん不動産の価格が高騰し、父子の夢が遠のいていくのを目の当たりにして、リャオジエの心は揺らぎ始める。図らずも、人生の選択を迫られたリャオジエが選び取った道とは…!?

自由に演じさせてくれた監督


Q:最初に脚本を読んだ感想はいかがでしたか。

バイ:僕が演じたリャオジエという役は11歳の設定でした。僕自身もそうですが、そのくらいの年代の子は、周りの人の影響を受けやすいのだなと思いました。特にリャオジエは、いろんな人の影響を受けている子だなというのが、脚本を読んだ最初の印象でした。

また、今回の舞台となる1989年は、とても残酷な時代だったのだなと思いました。当時お金持ちだった人はもっとお金持ちになったし、貧乏な人は貧乏なまま。僕たちが演じた父子は狭い家で細々と生きているけれど、家主のシャさんは利己的で、他人が犠牲になっても構わない人。そんな真っ暗な世界の中でも、お父さんと過ごしていたリャオジエの生活が一筋の光のように感じました。

『オールド・フォックス 11歳の選択』©2023 BIT PRODUCTION CO., LTD. ALL RIGHT RESERVED

Q:脚本を読んでそこまで理解していたのですね。監督とはどのようなことを話されましたか。

バイ:監督は時代設定についてザッと話してくれただけでした。脚本にも、役について書かれているわけではなく、当時の子供たちは、どういう生活をしていて、どんな遊びをしていたのかという資料があっただけで、演技についての細かい指示などはありませんでした。監督はとてもオープンに接してくれて、僕の自由に演じさせてくれました。

Q:監督のインタビューを読むと、バイ君には子役としてではなく一人の俳優として接したようですが、撮影現場はいかがでしたか。

バイ:そうですね。現場で何か言われたこともほとんどありませんでした。子供をおだてるような子役向けの演出も全く無かったと思います。大体リハーサルをやってから本番に入るのですが、そこで何か言われることもありませんでした。

父とシャ社長、両方に共感した


Q:父タイライと家主であるシャ社長の、相反する考え方がリャオジエの中に入ってきて、子供ながらに葛藤する様子が見事でした。演じている時はどのようなことを考えていましたか。

バイ:リャオジェはお父さんと一緒に暮らしてきたので、当然お父さんの影響が大きい。お父さんは、カッターの刃を捨てるときに段ボールで巻いて捨てるような優しい人です。そんなお父さんの影響を自然と受けてきている。そこに突然、家主のシャさんというパワフルな人物との出会いがある。シャさんは、立派な車を何台も所有して、一目見てお金持ちで大物だとわかる人物。そういった人間に突然出会うと、潜在的な恐怖感や影響は出てくるだろうなと感じました。

Q:父タイライとシャ社長では考えていることが違いますが、それぞれの理由もある。彼らの考えに共感、理解するところはありましたか。

バイ:どちらの考えも理解できました。子供の時のシャさんは、自分とお母さんの住む場所を求めてまわりましたが、全く相手にされなかった。努力をしても報われない。お金が無い人には家が手に入らないという経験をしたからこそ、自己中心的になって、お金持ちに上り詰めることができた。

もちろん優しいお父さんに関しても理解できます。でもリャオジエは、他人を優先する父の優しさが理解できない。ある意味自分たちを犠牲にする優しさは、子供であるリャオジエには許せない部分があったのかなと思いますね。

『オールド・フォックス 11歳の選択』©2023 BIT PRODUCTION CO., LTD. ALL RIGHT RESERVED

Q:リャオジエの気持ちを客観的に捉えながらも、リャオジエ自身になっていたのですね。

バイ:最初はここまでは理解できていませんでした。演技をする過程で、どちらの考えも間違いじゃないと思うようになったんです。ただそれでも、お父さんのタイライは、あまりにも善人すぎるなと思いました(笑)。

夢は「仮面ライダー」出演!


Q:撮影前に携帯電話を使わない生活をしたりと、当時の生活に馴染むための役作りを徹底されたそうですね。

バイ:ほかの作品でも、役に没頭することはいつも考えています。ただ今回は、時代設定が昔の話だったので、その状況に合わせて役作りをしました。撮影場所が台北市の中心街から離れていたので、街の様子や生活のリズムも都会とは違っていて、そのことも役に入りやすかったですね。

『オールド・フォックス 11歳の選択』©2023 BIT PRODUCTION CO., LTD. ALL RIGHT RESERVED

Q:撮影中はリャオジエになりきっていたようですが、バイ・ルンインという自分との切り替えはどうでしたか。

バイ:僕はいつも、バイ・ルンインのままです。撮影で「スタート!」がかかって初めて役に入っていきます。感情的に重い芝居をするときには、そのシーンの前後のことを思い出してから演じますが、それ以外はほとんど自分自身のままです。役に入り込むと、なかなか元に戻れない方もいると聞きますが、僕はそういうことが全くありません。

Q:今後はどんな映画に出てみたいですか。

バイ:(取材場所の壁に貼ってある仮面ライダーのポスターを指さして)あれです(笑)! アクション映画をやりたいです!

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バイ・ルンイン

2009年7月3日生まれ。2016年、TVシリーズでデビュー。翌17年にSABU監督による日本・香港・台湾・ドイツ合作『Mr.Long/ミスター・ロン』でスクリーン・デビューする。その後、TVドラマ、映画と幅広く活躍。日本では『親愛なる君へ』(21/チェン・ヨウチエ監督)が公開された。Netflix配信ドラマ「悲しみより、もっと悲しい物語 The Series」(21)で、22年にゴールデンベル賞TV部門で助演男優賞を受賞した。

取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

撮影:青木一成

『オールド・フォックス 11歳の選択』

6月14日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開中

配給:東映ビデオ

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