『響け!ユーフォニアム3』第12話、原作ファンも納得の再構築に完敗&乾杯

毎週、「ほとんどの作品を観ている」アニメライター・はるのおとによる週刊連載「【アニメ】神回・オブ・ザ・ウィーク」。6月17日から6月23日に放送された分から注目の“神回”をピックアップ!(編集部)

夏から始まる新アニメの情報がたくさん発表されています。でも『オーイ!とんぼ』や『ヴァンパイア男子寮』『HIGHSPEED Etoile』『烏は主を選ばない』『死神坊ちゃんと黒メイド』『この素晴らしい世界に祝福を!3』『となりの妖怪さん』『無職転生 II ~異世界行ったら本気だす~』なんかのクライマックス、そして『転生したらスライムだった件 第3期』の新オープニングに心をかき乱されて、まったく頭に入ってこない……こんな心境に3カ月ごとに至れるから、アニメ視聴はやめられません。

というわけで、春アニメもいよいよ佳境に入った週のなかで特に心打たれた神回を紹介します(以下、『響け!ユーフォニアム』原作小説のネタバレも含みます)。

●花田十輝さんのクールとなった2024年春

『響け!ユーフォニアム3』第12話「さいごのソリスト」では、全国大会のメンバーを選ぶオーディション、そしてユーフォニアムでソロを吹くソリストを選ぶ再オーディションを経て、主人公の久美子ではなく真由がソリストに選ばれました。筆者は紙と電子で全巻揃えている程度には原作小説のファンですが、原作では再オーディションは行われず、滝先生によるオーディションで久美子がソリストに選ばれていまして。でも今回の重大な原作の再構築はものすごく納得感があり、昨今いろいろ言われる原作改変もやっぱり是々非々だよなあと改めて感じた次第です。

そもそも『響け!ユーフォニアム』は中学時代の“ダメ金”に満足していた久美子と「悔しくって死にそう」と泣いていた麗奈の対比から始まった物語なので、久美子が死にそうなほどの悔しさを抱けたのは(相当に残酷ではあれど)成長の話として正しいなと。そしてその影響で音楽に真摯な麗奈やかわいい後輩の奏、そして原作では底知れなかった真由もそれぞれに輝きを増しており、さらにこのアニメでも屈指の名シーンである第1期第8話の大吉山のシーンの反復/対比までされてはもう。出されてみれば「こういう結末もありだな」と思える素晴らしい脚色でした。本作は中盤からかなり原作から脚色されていてかなり「?」と思うこともあったのですが、それもこのためだったのかと。

それに再オーディションで1番と2番、それぞれに挙手をした奏や葉月、緑輝、秀一の思いや、いずれこの顛末を知るであろう優子や中世古先輩の反応を想像するだけでいくらでも感慨に浸れません? ああ、久美子とその周囲の3年を追ってきてよかった。

もちろん長期シリーズの最終章をハッピーエンディング気味に締めくくる原作小説と、今回のビターなアニメの間に優劣があるわけではありません。何なら、恒例気味な劇場版では原作準拠ルートにいってくれても全然結構なのですが。これほど大胆な再構築を受け入れた原作側も、最高のアニメーションを見せてくれた京都アニメーションも、(TVアニメ版では)関西大会前に行った演説以上の名演説で魂震わせてくれた久美子役の黒沢ともよさんにも感謝するばかり。しかし今回はこの脚色を考案した(のであろう)脚本の花田十輝さんがとにかくすごいなあと。このエピソード、そして『ガールズバンドクライ』や映画ですが『数分間のエールを』もあり、2024年春は彼の卓越した手腕が改めて見せつけられたクールになったと言えるのではないでしょうか。

●「侘び寂び」の侘び的なよさ『変人のサラダボウル』第12話

こちらはこちらですごかった。岐阜にいる変人たちの愉快な日常を描く本作。「人種のサラダボウル」であるニューヨークタイムの有名交差点で広告を出して迎えた最終回は、パチンコ『海物語』をカメラで直撮りした映像を妙に長尺で流したり、サイドストーリーで生まれたガールズバンド(メンバーは異世界から来たホームレス、カルト宗教の教祖、元キャバ嬢)の救世グラスホッパーが急に人気爆発してデカ箱を埋めてメジャーデビューしたり、小学生ヒロインの卒業式はギャグとライブ(タイトルは「なんかフワッとした歌詞の前向きなポップソング」)で済ませたり。しかもオチがそのバンドメンバーのカルト宗教の教祖がインサイダー取引で捕まるという益体もないもの。なんだそりゃ。

でもそれでいいんです。アニメの最終回だからと変にシリアス展開になるのもアリですが、日常ものなんだからこれくらいのちょっと特別な出来事があるくらいでもいい。「日本各地に存在するパッとしない地方都市のひとつ」岐阜での日々なんだから、こういう作風も、ローファイ気味な(だけどときにハッとさせられる)映像も、いい具合に力の抜けた2つの主題歌も全部マッチして、とてつもない愛しさが生まれる作品でした。

本編ラストに流れるオープニング主題歌の後半ではあの岐阜駅前にある黄金の織田信長像がずっと映されていて、「最終回だけに尾張(終わり)ってことか~」なんて納得していたら、調べてみると尾張国は愛知県西部のことでした。そんな勘違いからくる「タハハ……」感のある出来事も、この作品にふさわしかった。

(文=はるのおと)

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