【特集 メルセデス・ベンツが切り拓くハイブリッド新時代の今①E350e スポーツ エディションスター】PHEVサルーンの最適解は、人とクルマのつながり方にも革新をもたらした

電動化を推し進めつつも、内燃機関の進化を止めないことを明言しているメルセデス・ベンツ。その未来戦略の橋渡しとなる「ハイブリッド」たちは果たして、どんな魅力を実感させてくれるのでしょうか。まずは2024年1月に日本向けの発売が開始された新型EクラスのPHEVモデル「E350e スポーツ エディションスター」の試乗レポートからご紹介しましょう。(MotorMagazine2024年7月号より再構成)

プラグインハイブリッド「E 350 e スポーツ Edition Star」概説

E350 e は、2024年1月12日から日本市場での発売がスタートして新型Eクラス セダンのラインナップのひとつです。ガソリンのMHEV(894万円)、ディーゼルMHEV(921万円)に対して、PHEVモデルは988万円なり。いわゆる最上級グレードと言えるでしょう。

新型の2L 直列4気筒ターボエンジン「M254」を搭載。エンジン単体で 204PS(150kW)、320Nm を発生する。

2L直列4気筒ターボエンジンに組み合わされる電気モーターの最高出力は95kW(129ps)、システム出力は230kW(312ps)です。パワーもさることながら注目は、440Nmに達する電気モーターの最大トルク。リニアリティにより優れる電気モーターは、駆動制御の領域でフィーリングを一変させる可能性を秘めています。

実際、E350eは140km/hまで電気モーターメインで走ることが可能。先代のPHEVモデルに比べ、電気自動車により近い走行性能を実現しているといいます。ちなみにEV走行の航続距離は112kmまで拡大されました。

EV走行の際、モーター走行の限界点で「これ以上アクセルを踏むとエンジンも使用しなければならない」場合、アクセルペダルの抵抗を増してドライバーに知らせる。これによって、無駄なエネルギーの消費を抑えるドライビングをサポートする。

運動エネルギーを効率的に活用するための、回生ブレーキ性能も高められました。回生される電力は最高100kWに達します。回生ブレーキの強さと連動するエネルギー回収率は、ステアリング裏側にあるパドルスイッチによって3段階の切り替えが可能。ワンペダル感覚のドライバビリティを選ぶこともできます。

この回生ブレーキは、電気機械式のブレーキブースターと連携しており、走行状況やドライバーの制動操作に応じてそれぞれの制動力分担をシームレスに自動制御。回生効率の最大化、頻度、持続時間といったファクターが常に最適化されています。

PHEVながらCHAdeMO式の急速充電にも対応している。

E350 eは急速充電器(CHAdeMO)にも対応。車外へ電力を供給できる給電機能(V2H、V2L)を備えるなど、「電動化のメリット」を存分に堪能できる仕様となっています。

さて、そんな新型EクラスのPHEVモデルのハンドルを握った自動車評論家 島下泰久氏は、どんなアドバンテージを実感したのでしょうか。(ここまで文:Webモーターマガジン編集部)

島下泰久かく語りき「今もなおクルマはこうあるべき」

内燃エンジン時代から電動化への、そしてアナログからデジタルへの橋渡しだと謳って登場した新型メルセデス・ベンツEクラス。その旨味を最大限に味わえるモデルが、E350e スポーツ エディションスターだ。

伝統的な3ボックスを守り抜くEクラスセダン。そのなかにあって新型はエレガントさを増した印象。

そのパワートレーンはプラグインハイブリッド。25.4kWhという大容量のバッテリーを搭載することで、EV航続距離は112kmにも達する。つまり充電環境が身近にあれば普段はBEVと同じように使うことができ、それでいて長距離移動などの際にもインフラに使い勝手を左右されることがない。

電動化されたクルマに乗りたいけれど充電環境が・・・という私と同じような境遇の人にとって、これは現時点での理想解と言ってもいいだろう。

電気モーターだけでも最高出力は129ps、最大トルクは440Nmもあるだけに、走りにはとても余裕がある。しかも当然、静かで滑らか。至極快適だ。

そんな走りには卓越したシャシ性能の貢献も大きい。とくに、AIRMATICサスペンションとリアアクスルステアをセットにしたオプションのドライバーズパッケージ装着車のフットワークは、しなやかなストロークで入力をいなしながらも常に姿勢をフラットに保ち続ける、いかにもメルセデスらしい乗り心地と、小さな路地を曲がることすら喜びに変える心地良い旋回性能を両立していて唸らされるのである。

通常のEクラスと同じく物理ボタンを大幅に減らしたデジタルインテリアが特徴。助手席前に装備されている助手席用ディスプレイは全車でオプション設定となる。

外観デザインはロングノーズの典型的なFRスリーボックスセダンのそれで、ストレートな美しさを誇る。物議を醸したテールランプのスリーポインテッドスターも、実車を見れば案外馴染んでいて、すぐに違和感はなくなった。

これもオプションのデジタルインテリアパッケージを選択すると、MBUXスーパースクリーンが標準に。先進感としてはエクステリア以上であることは間違いない。しかも実際に使ってみれば、とくに音声認識の精度は見事というほかなく、まさに人とクルマとのつながり方が新たな時代に入りつつあることを実感させるのだ。

メルセデスの伝統的なセダンの「キャブバックワード」デザイン。短いフロントオーバーハングと長いボンネット、そして大きく後退させたグリーンハウスが均整の取れたフォルムを生む。ホイールベースが先代モデルより 20mm 拡大されたことで、キャビンのゆとりが拡大した。

橋渡しと言っても必ずしも過渡期という意味ではなく、今を突き詰めていった延長線上にこそ未来はある。新型Eクラスに乗ると、メルセデス・ベンツからそんなメッセージを受け取ったような気になる。長い間、乗用車のベンチマークとして敬われてきた存在は、今もなおクルマはこうあるべきというものを示し続けている。その象徴と呼べる存在が、まさにE350e スポーツ エディションスターだと思うのである。(文:島下泰久/写真:井上雅行)

【メルセデス・ベンツ E350e スポーツエディションスター 主要諸元】

●全長×全幅×全高:4960×1880×1485mm ●ホイールベース:2960mm●車両重量:2170kg ●パワートレーン:2L直4ターボ+モーター ●総排気量:1997cc ●エンジン最高出力:150kW(204ps)/6100pm ●エンジン最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2000-4000rpm●モーター最高出力:95kW(129ps)/2100-6800rpm ●モーター最大トルク:440Nm(44.8kgm)/0−2100rpm ●トランスミッション:9速AT ●駆動方式:FR ●WLTCモード燃費:12.7km/L ●一充電EV航続距離:112km ●タイヤサイズ:前245/40R20、後275/35R20 ●価格:988万円

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