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ロシアによるウクライナ侵攻が終わっていないだけでなく、ガザ地区におけるイスラエルによるパレスチナへの侵攻まで始まってしまった緊迫の現況が世界を分断化しようとする中、今年も開催された世界3大国際映画祭の一つ、第77回カンヌ国際映画祭。世界各国から集まった珠玉の新作群から審査員長のグレタ・ガーウィグらが選出したコンペ部門の受賞結果は「女性」がテーマとなったように見受けられます。(文・まつかわゆま/デジタル編集・スクリーン編集部)
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主な受賞一覧
- パルム・ドール
『Anora』(米/ショーン・ベイカー監督) - グランプリ
『All We Imagine as Light』(仏・インド・オランダ・ルクセンブルク/パヤル・カパディア監督) - 審査員賞
『Emilia Pérez』(仏/ジャック・オディアール監督) - 監督賞
ミゲル・ゴメス(『Grand Tour』ポルトガル・伊・仏) - 男優賞
ジェシー・プレモンス(『憐れみの3章』米・英) - 女優賞
アドリアナ・パス、ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス(『Emilia Pérez』仏) - 特別賞
『The Seed of the Sacred Fig』(独・仏・イラン/モハマド・ラスロフ監督) - 脚本賞
コラリー・ファルジェ(『The Substance』英・米・仏) - カメラドール
『Armand』(ノルウェー・オランダ・独・スウェーデン/ハルフダン・ウルマン・トンデル監督) - ある視点部門最高賞
『Black Dog』(中国/クワン・フー監督)
したたかさが際立つパルム・ドール受賞作のヒロイン
毎度カンヌは意外なパルム・ドールを選んでくれる。コンペ作品を選ぶまでは映画祭の意図、パルムは審査員の意図。審査員はあくまでも作品本位で賞の選定をするというが、リストアップされた作品にその年ごとの傾向がすでに表れているのだから、どうしても賞はその年を象徴するものになる。
今年の審査員長はアメリカのグレタ・ガーウィグ監督。6年ぶりの女性審査委員長でアメリカ人女性監督としては初めての就任である。是枝裕和監督を含む全審査員団9人のうち女性は5人となる。女性会長となり2年目を迎える今年、やはりテーマは「女性」だった。
長編コンペ22本中女性監督は4人だったが、女性が主役の作品は14本、そのうち6本は女性同士が助け合う“シスターフッド”映画であり、受賞者は8作中2人が女性監督、男優賞と監督賞以外の賞は女性を描く作品だった。その女性像は主体的で強く、抑圧を跳ね返すべく戦っていた。
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中でもしたたかさが際立っていたのがパルム・ドールを獲得したショーン・ベイカー監督の『Anora』のヒロイン・アニーである。ロシア系のセックス・ワーカーのアニーは、勢いで結婚したロシア富豪の息子を捨て、愛なんかではなく自分の尊厳のため、平たく言えば“意地”のため戦う。金も名誉も関係ない。
アリ・アバシ監督がコンペ作『The Apprentice』で描いた、金と名誉のためならなんでもする若き日のドナルド・トランプとは正反対。すがすがしい。喝采を叫びたくなる。
下馬評が高くパルム視されていたジャック・オディアール監督の『Emilia Pérez』の女たちも、アンドレア・アーノルド監督の市民賞受賞作『Bird』の少女もいい戦いっぷりなのだが、『Anora』のラストの突き抜け方、印象に残る希望の強さでパルムをつかんだ。
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麻薬組織のボスが実はトランスジェンダーで性適合手術を受けて女性として生まれ変わり慈善家になるという『Emilia Pérez』は監督への審査員賞とトランスジェンダーの女優カルラ・ソフィア・ガスコンを始め4人の女優が女優賞を受賞。W受賞は基本NGなので、審査員が悩みに悩んで出した結果なのだろう。
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特別賞受賞のイランのラスロフ監督は亡命を覚悟してのカンヌ入り
カンヌは社会情勢にコミットする映画祭であり、今年はロシア・アメリカ・インド・イランの選挙の年でもある。独裁的抑圧的な権力者に抗う映画作家たちの作品がコンペには並んだ。
グランプリのパヤル・カパディア監督は2021年のカンヌで、政権によって自治権を侵害される大学の問題に家父長制・カースト制で縛られる女性の問題を絡めて描く作品『何も知らない夜』でドキュメンタリー映画賞を受賞している。
今作『All WeImagine as Light』は直接政治的問題を描くわけではないがインド社会で3人の女性が思うようにならない自由と自立をもとめてさすらう姿を詩的に描いている。
イランでヒジャブ着用問題に対して起きた大学の反体制デモと一丁の拳銃をきっかけに崩壊していく家族を描くモハマド・ラスロフ監督の『The Seed of Sacred Fig』は特別賞を受賞。ラスロフ監督はこの作品で反政権的とみなされ、亡命を覚悟してのカンヌ入りであった。
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両作品にも個人の尊厳への抑圧が根底にある。社会や家族、それぞれのヒエラルキーの下部にいる者、貧しい者そして女性への圧力はより大きく、だからこそ作家たちは女性や貧しい者の視点から物語を紡ぐわけだ。
他の受賞作にもふれておこう。監督賞はポルトガルのミゲル・ゴメス監督『Grand Tour』。1917年結婚を逃れ東南アジアを旅する男と彼を追う婚約者の物語が湿気をはらんだモノクロの映像で描かれていく。男優賞はヨルゴス・ランティモス監督の『憐れみの3章』で三部作の異なるキャラクターを演じ分けたジェシー・プレモンスに。
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脚本賞はルッキズムへのグロテスクにして痛烈な批判を繰り広げた『The Substance』の監督・脚本コラリー・ファルジェが獲得。デミ・ムーアがセルフ・パロディかと思わせる若さと美にとらわれ破滅に向かう女優を演じている。禁断の治療薬を使うとデミの背中が割れて“分身”マーガレット・クアリーが現れ、デミの地位を脅かすというスリラーであった。
名誉パルムがジブリ、メリル、ルーカスに贈られる
今年、カンヌには新しくコンペティション・イマーシヴ部門が登場した。「没入型映像」のコンペティションで、ヴァーチャルリアリティなどの体験型映像を対象にした部門である。「映画」の定義を広げ、作り手も観客も若い世代を開発していこうという試みである。
一方で若い一般の観客を意識するうえでは確執のあるNetflix問題も整理せねばならない。それはコンペにNetflix制作作品『L'amour Ouf』を選ぶことで解決した。また、観客育ては子供からということで今年力を入れたのがアニメーションの上映で、小学生たちが先生に連れられて会場を訪れていた。
名誉パルム・ドールを授与されたスタジオジブリの作品も『ゲド戦記』『紅の豚』が砂浜で一般上映され、満員に。宮崎吾朗監督を迎えて行われた授与式も総立ちの拍手と歓声に包まれ大盛況であった。
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今年の名誉パルム・ドールは、他にもメリル・ストリープ、そしてジョージ・ルーカスに授与され、それぞれにトーク・ショーが開催された。ルーカスの授与式は閉会式とともに行われ、ルーカスの映画界へのデビューのきっかけを作った兄貴分にして親友のフランシス・フォード・コッポラからトロフィが贈られるという演出。そしてその場に残ったルーカスが今度は今年のパルム・ドール受賞者ショーン・ベイカーにトロフィを渡したのである。
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かくして。映画の歴史はカンヌ国際映画祭の舞台で受け継がれていったのである。
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Photo by Pascal Le Segretain/Getty Images, Andreas Rentz/Getty Images
セレブからスタッフまで、今年のカンヌもいろいろありました
カンヌを華やかにするのはやはり豪華なセレブたち。最旬のスターからハリウッドの大御所まで一堂に集まって、今年もいろいろと話題を提供してくれました。
遅ればせながら#MeToo
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アメリカで#MeToo運動が始まったとき、フランスの反応はいま一つだった。清教徒的なアメリカとカソリック的なフランスの文化の差だったのだろう。しかし、だからこそ嫌なものは嫌と言いにくくしてしまったとやっと反省、改めて性虐待について「もう黙らない」と声を上げようという17分の映画『Moi Aussi』が作られた。
監督は10代のころブノワ・ジャコ監督やジャック・ドワイヨン監督に性的虐待を受けていたと告発した女優ジュディット・ゴドレーシュ。ある視点部門の開会式で上映され、あいさつに立ったゴドレーシュは何回も涙をぬぐっていた。
パレスチナに連帯を! ケイトねぇさんかっこいいぞ
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昨年10月ハマスの襲撃に対して始まり激しさを増しているイスラエルのパレスチナ自治区ガザ攻撃。対してカンヌ映画祭は特別上映でガザのトランスジェンダー女性を追った『La Belle de Gaza』を上映。監督週間ではパレスチナ難民の青年を描く『To a Land Unknown』を上映した。
映画祭は公式にUNHCRの親善大使であるケイト・ブランシェットの記者会見をセット。ブランシェットはソワレのレッド・カーペットに黒と白の裏地に緑をあしらったドレスを着用。レッド・カーペットで裾を翻して見せるとパレスチナの旗カラーになるという粋なパフォーマンスを見せた。
カンヌ映画祭にて、スト決行中
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フリーの芸術家が一定収入を得られるように作られた失業保険のシステムなど国を挙げて芸術文化を支援してきたフランスだが、マクロン政権は労働法を変えようとしている。そもそも映画祭従事者はこの失業保険の範囲外とされているのも問題。
映画祭労働者組合はこれに対し、賃金の引き上げと芸術家失業保険への加入、及び労働法の改悪阻止を掲げてカンヌ映画祭期間中にストライキもやむなしとしていた。レッド・カーペット前でのシュプレヒコールやデモも行われたが、理解を示す映画人も多く、映画祭運営が止まるようなことは避けられた。
監督賞を受賞したミゲル・ゴメスは受賞者の会見に組合のマークを持参しかかげていた。組合に連帯を示したラジオフランスは2日間記者会見のデータをアップする作業をボイコット。けれど文句を言う人はいない。労働者は連帯するのだ。
ファッショニスタ対決!? エルVS.アニャ
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ここのところカンヌのファッショニスタ、レッドカーペット・プリンセスったらエル・ファニングで決まりね、と思っていたのだが強敵現る!と思いましたね。はっきり言ってファニー・フェイスだよねーと前々から思っていたアニャ・テイラー=ジョイがすごい。グラマラスな往年のハリウッド女優をほうふつとさせるゴージャスさで、プリンセスなエルちゃんを圧倒する勢い。いや、参ったわ。
来年はぜひ審査員になって毎日とっかえひっかえドレスアップしてレッド・カーペットに登場していただきたいものです。
お久しぶりです。 大御所様御一行
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今年のカンヌには大御所が集合。36年ぶりのメリル・ストリープ、コンペでは15年ぶりのフランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカス、ポール・シュレイダー、ケヴィン・コスナーにデミ・ムーア、デヴィッド・クローネンバーグと1970年代から1990年代のスターや監督が大集合の懐かし地獄(笑)。
すごいのは皆さん新作を持ってきて現役バリバリをみせつけているところ。と、いってもやりたい放題の世界を構築するやり方やその美的センスは変わってないのね~、懲りないのね~とも思うコッポラ御大。どうにかアメリカの配給が決まったようでホッとしました。
仕事熱心すぎる警備員?!
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元デスティニーズ・チャイルドで歌手兼女優のケリー・ローランド。5月21日『Marcello Mio』のソワレ、レッド・カーペットに登場した際に警備員ともめたところを動画でキャッチされていた。階段下のレッド・カーペットでポーズをとり撮影された後、階段を上がっているところで振り返った際に女性警備員が肩に手を添えて早く上がるよう促したらしい。それにかっとなったケリーが指を突き付けて叱責したという。
ケリーが数日後amfARのカンヌ・ガラで言ったことによると、同じところに他のセレブもいたのに私だけが促された、つまり人種差別されたので怒った、とのこと。後日、ドミニカの女優や少女時代のユナも同じスタッフに促されていることから、そういうところも可能性はあるかもしれない…。
ただ私が思うにですね、『Machello…』はカトリーヌ・ドヌーヴはじめフランスの大物スター勢揃いの映画なんですよ。彼らが最後にやってきて撮影して階段上がってまた挨拶してで普段以上に時間がかかることはスタッフはわかってます。皆、カメラマンにサービスするしね。だからセレブ枠の人でもできるだけ早く進んでほしかった。階段上りかけてふりかえってまたポーズとかやめて~という気持ちだった。のかなと思うんですよね。しらんけど。
Photo by Victor Boyko/Getty Images, Mike Marsland/WireImage, DanieleVenturelli/WireImage, Marc Piasecki/FilmMagic, Lionel Hahn/Getty Images, Arnold Jerocki/Getty Images for L'Oreal Paris
今年のカンヌのベストドレッサーは誰?
映画祭の大きな見どころは、やはりセレブたちがズラリ集合するレッドカーペットやフォトコールなどで見せるファッションの数々。今年も世界中の注目を浴びながら、豪華なスターたちが一流デザイナーたちの気合の入ったドレスやジュエリー、個性的な着こなしを披露してくれました。
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『マッドマックス:フュリオサ』のヒロインを演じたアニャ・テイラー=ジョイが纏っていたディオールのベージュのオートクチュールドレスが神々しいと評判に。刺繍になんと1200時間かかっているとか!
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今年もカンヌのミューズ=エル・ファニングが来場。今回多くの女優が纏っていたネイキッドドレスの中でも、エルがチョイスしたグッチのホワイトドレスは彼女の柔らかな個性にぴったり。ジュエリーはカルティエ。
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今回の審査員長で連日異なるドレスを披露してくれたグレタ・ガーウィグ。クロージング・セレモニーにはセリーヌのワンショルダードレスでエレガントな装いで出席。ジュエリーはショパール。
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フランス映画『The Most Precious of Cargoes』のプレミアに来場したジョーイ・キング。タイトなシアー素材のネイキッドブルードレスはコン・チーのデザイン。エレガントでいてセクシーな魅力を醸している。
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『マッドマックス:フュリオサ』のプレミアでヘムズワースはトム・フォードをノータイでゴージャスに着こなし、さすがのパーフェクトボディ・オーラを発揮。ウォッチとカフリンクスはショパールで統一。
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コンペ部門出品作『憐れみの3章』でまたカンヌに戻って来たエマ・ストーンは、ルイ・ヴィトンのワインレッドの深いVネックが印象的なスパンコールドレスとジュエリーでドラマチックな演出を引き出した。
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コンペ部門出品作『Limonov- The Ballad』の上映会場にやってきたベン・ウィショーはスーツもシューズもボッデガ・ヴェネタでまとめつつ、堅苦しいシャツとタイはなしでフォーマルな場に出るのが彼らしい?
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『Emilia Pérez』で見事女優賞を共同受賞したゾーイ・サルダナとセレーナ・ゴメスが同作プレミア上映のレッドカーペットでツーショットを披露。2人ともサンローランのブラックドレスを基調に、セレーナはエレガントでシックなオフショルダーのドレスとブルガリのジュエリーの組み合わせ、ゾーイはオーバースカートとリボンでアクセントをつけたドレスでそれぞれの個性を感じさせた。
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