「ものすごく支えてくれる」オーストリア戦士とラングニック監督の厚い信頼関係。ポーランド戦の勝ち越し弾を呼び込んだHTの言葉とは?【現地発コラム】

ポーランド戦で勝ち越しゴールを決めたオーストリア代表MFクリストフ・バウムガルトナーは一目散にベンチに向かってかけていった。吹き飛ばさんばかりの勢いで抱きついたのはラルフ・ラングニック監督。選手とチーム、そして指揮官の関係性を表すとても象徴的なシーンだった。

このゴールで完全に試合の主導権を握ったオーストリアは終盤マルセル・サビッツァーが鋭い突破でPKを奪取。マルコ・アルナウトビッチが落ち着いて決めて、最終スコア3-1で今大会初勝利を挙げた。

MVPに選ばれたバウムガルトナーは所属クラブのRBライプツィヒではレギュラーではない。スペイン代表MFダニ・オルモ、オランダ代表MFシャビ・シモンズに次ぐジョーカーとしての役割を担う。それでもラングニックはオーストリア代表で全幅の信頼を与えている。

「毎日ものすごく僕のことを支えてくれているんだ」

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バウムガルトナーはそう語る。この試合のハーフタイムにも、ラングニックが彼にだけ話しかける時間が合ったという。ハーフタイムは時間が限られている。気持ちを落ち着け、水分や栄養補給をする。治療が必要な選手もいる。いくつも修正点を話しても頭には入らない。極力要点をまとめて、後半へのゲームプランをチームへ伝えなければならない。そんな中、個人の選手に向けて時間を取ってくれたことを、バウムガルトナーはとても印象深く受け止めていた。

「前半は自分のイメージ通りのプレーができなかったんだ。でも監督が僕にすごくたくさんのパワーをくれた。僕ら選手のためにどれほど彼がしてくれているか。すごいことだよ」

負ければグループステージ敗退が確定するプレッシャーの中で、選手の頭は少なからずブロックがかかっていた。ナーバスさもあったという。試合開始から20分間はラングニックが「ほぼ完ぺきな出来。もっと点差をつけなければならない展開だった」と振り返るほど、ポーランドを完全に追い込んでいた。だが、そこから歯車が狂う。持ち味の精力的なプレスが機能しなくなり、逆に失点を喫してしまう。

ラングニックが動いた。機能していなかったボランチのフロリアン・グリリチュを下げ、そこにコンラード・ライマーを移す。そしてバウムガルトナーを右サイドから得意とするトップ下のポジションに。これで歯車がかみ合った。

66分、途中出場のアレクサンダー・プラスからグラウンダーのパスが送られる。鋭い動きでボールをもらいに行ったアルナウトビッチがDFをひきつけてそのままスルー。一瞬ぽっかりと空いたスペースにバウムガルトナーは巧みなコントロールでボールを運ぶと、2タッチで放たれたシュートは正確にゴール右へと飛んだ。

ラングニックはハーフタイムにバウムガルトナーにこう伝えたという。

「バウミィ、少なくとも普通のフォームの君が必要だ」
最高レベルのプレーをしようとしなくていい。普通にできることを普通にしてくれたらそれだけでチームにとって非常に価値があるんだ、と。このメッセージを受けて、バウムガルトナーは肩の力を抜くことができたのだろう。

これで直近の7試合中6試合でゴール。フランス戦ではビックチャンスがありながらノーゴールに終わったが、「いろいろ考えはしたけど、サッカーってそういうものだから。いつも100%にうまくいったりはしない」と気持ちを切り替えてこの試合に臨んでいたことが功を奏した。

3戦目では強豪オランダと対戦する。覚醒しつつあるエースは、チームを決勝トーナメント進出に導けるか。

取材・文●中野吉之伴

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