主人公を盛り立てる脇役たち。普段はなかなかスポットライトが当たらないものだが、何事にも例外は存在する。
最初は地味で情けないキャラが少しずつたくましく成長していき、いつしか誰よりも頼りになる重要人物になる。人が底辺から這い上がるドラマは、いつだって少年少女の胸を熱くしてきた。
今回紹介するのは、そんな成長ドラマで人気を博したサブキャラたちだ。ときに「もうひとりの主人公」と呼ばれるほどカッコ良くなった脇役を見ていこう。
■成長キャラの筆頭格! 『ダイの大冒険』ポップ
「成長したサブキャラ」の話題でまず名前が挙がるのが、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏)のポップだろう。
主人公・ダイの親友であるポップだが、初期はかなりみっともなかった。先代勇者アバンの弟子だからとよく調子に乗り、かと思えば強そうな敵が現れるとすぐ逃げようとする。本当に情けない男だった。
しかし、獣王クロコダインとの戦いでニセ勇者一行・まぞっほに叱られたことをきっかけに、ポップは本来の勇気を目覚めさせていく。「バラン編」では記憶喪失のダイを守るため“メガンテ”で命がけの特攻を仕掛け、バーンパレスでの決戦では敵であるハドラーをも救おうとするほどたくましくなった。
『週刊少年ジャンプ』史に残る成長株であろうポップだが、個人的には大魔王バーンの必殺技“カイザーフェニックス”を自力で解体したシーンが忘れられない。ひとりの人間の成長が、大魔王に届いた瞬間である。
■「灼熱の時間」に読者の心も燃え上がった『刃牙』愚地克己
次は、板垣恵介氏の『刃牙』シリーズ(秋田書店)から、愚地克己を紹介しよう。“空手界の最終兵器”とまで呼ばれる空手家であり、登場時は主人公・範馬刃牙のライバルとして注目株になった男だ。
しかし、烈海王やドリアンといった強敵に敗北を重ねる展開や本人の軽薄な性格が重なり、シリーズ2作目『バキ』時点ではパッとしないキャラに“降格”してしまった。
そんな彼が覚醒したのがシリーズ3作目『範馬刃牙』での「野人戦争編」だ。尊敬する烈海王の惨敗をきっかけに、克己は原人ピクルとの試合に挑むこととなる。
得意の“マッハ突き”を進化させる特訓のなかで自分を見つめ直した克己は、格闘家としてだけでなく人間としても殻を破る。作中で“お坊ちゃん”と揶揄された甘さは消え、周囲の人間への感謝を胸に戦う、すばらしい空手家に生まれ変わったのだ。
そしてピクルとの試合。進化させた“マッハ突き”でピクルを圧倒する克己をバックに、こんなナレーションが描かれている。
「空手家 愚地克巳 21才の夏………」「灼熱の時間(とき)──────」
それまで見くびっていた克巳のまさかの成長に、読者の心も熱くたぎったものだ。この試合は、間違いなく『刃牙』シリーズ屈指のベストバウトだろう。
■海賊の雑用が海軍の英雄に!『ONE PIECE』コビー
海洋冒険ロマン『ONE PIECE』(尾田栄一郎氏)には1000を超えるキャラクターが登場するが、そのなかで「最初は情けなかったのにカッコ良くなったキャラ」をひとり挙げるなら、やはり海軍本部大佐・コビーではないだろうか。
今でこそ「海軍の英雄」と讃えられるコビーだが、初登場時はアルビダ海賊団の一味、しかも無理やり働かされている雑用係だった。
弱虫な性格でアルビダに逆らうこともできない根性なしのコビーはみっともなく、ルフィが「おれ お前キライだなー」と笑い飛ばすほど。
それでも海兵になる夢を目指そうと決めたコビーは、ルフィや海軍本部中将ガープとの出会いをきっかけに、海軍本部の一員となる。
「エニエス・ロビー編」では短時間とはいえルフィと戦えるまでに成長し、見た目も雑用時代とは似ても似つかない引き締まった姿に。その変貌ぶりにルフィはもちろん、読者も驚いたものだ。
その後もコビーは躍進を続け、現在進行中の最終章では師匠ガープにヒケをとらない実力者にまで成長した。海賊の雑用として登場したコビーが、今や海軍でも指折りの猛者になるとは……一番予想していなかったのは、コビー本人に違いない。
サブキャラの成長劇は、情けない時期があるからこそ人を惹きつける。まるで現実の人間のように等身大の弱さを抱えたキャラだからこそ、カッコいい活躍を見せたときのカタルシスは大きくなる。人によっては「自分もがんばろう」と思うこともあるだろう。
主人公と肩を並べるほど立派になった彼らの姿に、我々読者は勇気づけられているのかもしれない。