「女子は今のタイムじゃメダルは厳しい。ゼロもあり得ると思う」レジェンド松田丈志氏が占う女子競泳【パリ五輪メダル有力競技 ココが見どころ】

鈴木聡美(C)共同通信社

【パリ五輪メダル有力競技 ココが見どころ】

競泳(女子)

東京五輪では大橋悠依(28)の金2個に沸いた競泳だが、男子は本多灯(22)の銀1個にとどまった。白血病から復活した池江璃花子(23)、競泳陣最年長ながら自己ベストを更新するベテランの鈴木聡美(33)など注目選手が多い今大会で競泳ニッポンの復権はあるか。五輪4大会に出場して計4個のメダルを獲得した松田丈志氏が占う。今回は【女子編】。

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女子は日本競泳史上最年長で平泳ぎ100メートルと200メートルの五輪切符を掴んだ鈴木の復活に驚きました。12年ロンドンで3つのメダルを取ったものの、16年リオではメダルなし。21年東京では代表入りを逃しました。にもかかわらず、昨年7月に平泳ぎ100メートルで14年ぶりに自己ベストを更新。信じられません。僕は32歳で自分の限界を感じてやめたので奇跡だなんて思って見ていますし、先日、(ロンドン五輪でメダル3個を獲得した)入江(陵介=34)とも「アレってもう変だよね? 途中、何やっていたの」なんて話していました。

奇跡の理由は3つ考えられます。1つ目は山梨学院大という水中も陸上も非常にタフな練習をするチームで、高校卒業後から今もそこに身を置いて学生たちと一緒にハードなトレーニングをしているので、フィジカルの基礎がしっかりと積まれているということ。2つ目は精神的な部分で、昨年、福岡の世界水泳に選ばれて、地元の人から大歓声をもらって泳げたことで、もう1回頑張ろうという気持ちに火をつけたんじゃないか。3つ目は、あの年齢で泳ぎを進化させてきたこと。今の水泳界の平泳ぎのトレンド「ピッチ泳法」を取り入れたのです。アダム・ピーティーという英国の選手(男子50、100メートル平泳ぎの世界記録保持者)が作り上げた、とにかくテンポで押す泳ぎ方で、これまでの大きくかいて伸ばすイメージとは対照的にテンポ良くどんどんかいていくやり方。それで彼は世界記録を取りました。鈴木は33歳でその世界のトレンドの泳ぎにアジャストしてきた。この3つが揃って自己ベストにつながりましたよね。

メダルを期待したいですが、世界も速い。今のタイムじゃメダルは厳しい。女子200メートル個人メドレーに出場する大橋も東京五輪では2冠でしたが、実はそのタイムもあまり速くはなく(200メートルは2分8秒52、400メートルは4分32秒08)、16年リオ五輪の金メダリスト(カティンカ・ホッスー)のタイム(200メートルは2分6秒58、400メートルは4分26秒36)の方が速い。2021年は1年延期もあり、ちょうど選手層の谷間のような形で迎え、正直言って記録のレベルは高くなかった。それは本人が一番理解していると思います。そして今、世界にはまた若手がどんどん出てきて記録のレベルが上がってきたので、トップとの力の差が出ている。女子はメダルゼロもあり得ると思います。(【池江編】につづく)

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