在宅医療は医療界のバーリトゥード…「なんでもあり」が特徴【老親・家族 在宅での看取り方】

在宅医療は病気を診るだけにとどまらず多面的に医療を施す(C)iStock

【老親・家族 在宅での看取り方】#99

昭和の後半まで、家族を自宅で看取ることが一般的でした。しかし医療の進歩や医療政策、社会構造の変化などにより、いまや入院先の病院、介護やレクリエーションが充実した施設での看取りが一般的になっています。

しかし2025年の超高齢化社会を前に、病院自体のキャパシティーが足りなくなったり、医療の担い手が減ったりすることから、各病院では新たな制度の導入などさまざまな動きが出始めています。

そんな中のひとつに診断群分類別包括評価方式(DPC)があります。

これまでは、それぞれの治療行為を積み上げて計算していましたが(出来高方式)、患者さんの病名や病状、必要な処置や検査などにより入院の内容を細かく分類し、それに合わせて医療費を計算するもので、日々の投薬や検査の量にかかわらず入院費の一部が定額になるというものです(囲み参照)。

DPCにより、同じ疾患でも治療にばらつきがなくなり、無駄な投薬や治療が軽減し、治療が終われば即退院となります。

そもそも入院は、ひたすら病気治療に専念し、死を避ける医療サービスを受けるところで、医療従事者が近くにいるなどよい点はたくさんありますし、患者さんの意思に寄り添い手厚く医療を施す病院も少なくありません。

一方、在宅医療は、自宅に伺うため病気を診るだけにとどまらず、生活面や心情さらには交友関係なども考慮し、多面的に医療を施す点が特徴といえます。

例えば、片付けが苦手な患者さんのお宅に伺ったときに、お弁当のゴミがあった場合、それとなく「今日のお弁当はなに食べたんですか?」(私)、「今日は○○(某弁当チェーン店)の銀鮭弁当だよ」(患者)。

このようなやりとりから患者さんの食生活を探ったり、また集合住宅の3階に住んでいたら、エレベーターがあるかないかなど、生活環境に合わせた歩行具の工夫も行います。

さらに「お金ないからあまり治療しないでほしい」と言う患者さんには、患者さんが現状で使える行政支援を提案するなど、直接医療に関わる知識だけでなく、生活の知恵や社会福祉、その方の大事に思っている信条など、すべてを考慮し生活を支えるのです。

そのため医療においてはスペシャリストであることはもちろんですが、診療内容に関して、総合的に幅広い知識や経験、技術を有しているオールラウンダーな人材であるゼネラリストが求められるわけです。

総合格闘技の原形ともいわれる「バーリトゥード」という、ポルトガル語で「なんでもあり」を意味するブラジル発祥の格闘技がありますが、病院が治療するだけの格闘技なら、在宅医療は医療や生活の知恵、福祉情報などあらゆる知恵を集結させるという意味で、まさに医療界のバーリトゥードともいえるかもしれません。

そのためそんな在宅医療の活用も、いまや入院以外の選択肢のひとつとして注目され始めているのです。ですが格闘技だからといって、決してここで病院医療VS在宅医療といった二項対立的考え方で比較し、どちらがよいのか悪いのかといっているわけではありません。ただ選択肢の中のひとつとして在宅医療を認識していただければと思うのです。

■DPC方式とは

これまでの計算方式は「出来高方式」。入院、薬、注射、検査、処置、レントゲン、手術、麻酔、リハビリ、内視鏡、病理検査、カテーテル検査、放射線治療と、それぞれの治療行為を一つ一つ積み上げて計算する。

一方、「DPC方式」は「入院医療費の合計+治療行為の積み上げ」で計算する。つまり、入院、薬、注射、検査、処置、レントゲンは「1日あたりの定額×入院日数」で、手術、麻酔、リハビリ、内視鏡、病理検査、カテーテル検査、放射線治療は従来通りの積み上げで計算。この2つを合算させる。

(下山祐人/あけぼの診療所院長)

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