小室哲哉本執筆・NHK神原一光チーフプロデューサーが語る「音楽家・小室哲哉」の仕事論

 著書に込めた思いを語った神原一光氏(撮影・佐藤厚)

 20曲超のミリオンセラーを世に送り出した、希代の音楽プロデューサー・小室哲哉(65)。90年代の日本音楽シーンをけん引し、今年デビュー45周年を迎えたヒットメーカーに迫った一冊が「WOWとYeah 小室哲哉~起こせよ、ムーヴメント」(小学館)だ。22年放送のNHK「インタビュー ここから」を元に、10時間を超える追加取材を行った著者が見る「音楽家・小室哲哉」の仕事論とは。そしてどんな思いで生まれた作品なのか。同局チーフ・プロデューサーの神原一光氏(44)をたずねた。

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 青春時代のど真ん中に、小室サウンドがあった。神原氏が初めて小室哲哉の音楽に触れたのは1994年、当時「TMN終了」を告げる新聞の全面広告。「4001日間におよぶプロジェクトを終了させます」という言葉に強く引きつけられた。その興味は、小室が生み出した楽曲を通して憧れへと変わっていった。

 神原氏は小室にとっても母校である早実高へ進学。94年以降、プロデューサーとしてtrf(現TRF)、篠原涼子など大ヒットを創出する小室の最新楽曲と、TM NETWORKなど過去の楽曲を同時並行的に聞く日々を過ごした。

 「ハイティーンでやはり多感な時期。その時に聞いていた音楽は耳にこびりついているし、当時小室さんがどういうことを考えていたのか、雑誌などもすごく読みました。音楽と同時にプロデューサーとしての哲学みたいなものも自分の中に染み付いていった」と振り返る。

 学生時代はテニスに打ち込み、中高ではジュニアの日本代表、大学時代は団体戦で日本一も経験した神原氏。一方で「物事を企画して、世の中に新たな提案をしていく仕事に就きたい」と、憧れの小室と同じ“プロデューサー”を目指してNHKに入局した。

 「天才てれびくん」など多くの担当番組で実績を残し、ついに出会った小室の印象は「雰囲気はあるし、世界観を持っていらっしゃる」としながらも「実は情に厚いんじゃないか」ととらえた。「僕は一人のスタッフに過ぎないのに『神原君、早実だもんね』と言ってくださって。もちろん職人であり、天才というのはありますが、思った以上に真摯(しんし)で熱い人だな」と感じたという。

 著書ではヒットの裏で、常に求められるものが揺れ動く「大衆音楽」と向き合い、ムーヴメントを巻き起こしてきた小室の姿が描かれている。「いかに人を振り向かせるかを追い求めてきた方。あと小室さんってすごく粘るんです。『小室哲哉』と『粘る』という言葉がくっつくイメージはないですけど、やっぱ粘るんですよ」。

 音楽プロデューサー・小室哲哉に焦点を当てた作品は、平成における音楽産業史である一方、多くの職業に通ずる仕事論としての側面もある。神原氏は「まずは、カラオケで(小室サウンドを)歌っていた同世代に読んでほしい。(当時ミリオン曲を買った)100万人の中の1人に刺さってくれたらうれしいですね」と著書に込めた思いを語った。

 ◆神原一光(かんばら・いっこう)1980年2月19日生まれ、東京都出身。早実高、早大を経て2002年NHK入局。現在はメディア総局第1制作センター教育・次世代のチーフ・プロデューサー。ドキュメンタリーや「天才てれびくん」といった子ども・若者向け番組に加え「NHKスペシャル」、東京五輪・パラリンピックのプロジェクトなども担当した。

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