AWS・パサックVP、生成AI関連サービスをインフラ・ツール・アプリケーションの3層に分けて紹介

by 高橋 正和

AWS(Amazon Web Service)に関する国内最大のイベント「AWS Summit Japan 2024」が、6月20日~21日に幕張メッセで開催された。

日本での顧客事例を紹介

2日目の基調講演には、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 技術統括本部長の巨勢泰宏氏が登場し、日本での顧客事例を紹介した。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 技術統括本部長 巨勢泰宏氏

まず金融業界ではSBI証券の事例を巨勢氏は紹介した。1日2兆円規模の株式取引をAWSに移行し、俊敏性を向上した。例えばオンプレミスの半分以下の時間でキャパシティを倍増できるようになったという。

続いて自動車業界からは、自動運転の株式会社ティアフォーの事例だ。自動運転開発における、膨大なシナリオとパラメータからなるシミュレーション環境として、AWSのマネージドサービスを積極的に活用した。また、車載システムと互換性のあるGravitonを採用したのも特徴だ。

通信業界では、NTTドコモがドコモの5G基盤にAWSを選定した。衛星ネットワークのproject Kuiperについても戦略的提携し、検討している。

運輸業界では、全日本空輸(ANA)が、はやくからデータ分析基盤でAWSを利用し、航空事業と非航空事業の両方のデータをデータレイクに集約して分析している。これにより、燃料費の最適化や、保管検査業務の最適化に利用している。

金融業界:SBI証券の事例
自動車業界:株式会社ティアフォーの事例
通信業界:NTTドコモの事例
運輸業界:ANAの事例

また巨勢氏は、2023年に開始し17社が採択されたAWS LLMM開発支援プログラムについても紹介した。その中の1社であるリコーでは、LLMを3カ月で開発し、従来の開発手法と比べて45%のコスト低減と12%の開発期間短縮を実現した。

そのほか、さまざまな生成AIモデルを単一APIで利用できるプラットフォームであるAmazon Bedrockも取り上げ、利用企業の一覧を紹介した。

AWS LLMM開発支援プログラム
リコーの事例
Amazon Bedrockの利用企業

生成AI関連の3層のサービスを紹介。電通デジタルやJR東海も登場

2日目の基調講演の後半では、Amazon Web Services Inc.のリレーショナルデータベース エンジン担当 バイスプレジデントのラフール・パサック氏が登場した。

Amazon Web Services Inc. リレーショナルデータベース エンジン担当 バイスプレジデント ラフール・パサック氏

パサック氏は、1800年代の産業革命で交換可能な部品が使われるようになり、1947年にトランジスタが登場してデジタル革命が起こり、1983年にTCP/IPが使われるようになってインターネットの発展につながったことを紹介。そこからWebが登場し、さらにAWSなどのクラウドコンピューティングが登場したと語った。

AWSはテクノロジーで世の中を変えているとパサック氏は述べ、AWSの顧客の例として、Netflixはエンターテイメントを変え、モデルナはワクチンを短い時間で開発したと紹介した。

1800年代の産業革命
1947年のトランジスタによるデジタル革命
1983年のTCP/IP
Netflixはエンターテイメントを変えた
モデルナはワクチンを短い時間で開発した

そして2023年は生成AIの時代となり、現在の2024年ではライフサイエンスから金融、エネルギーなど、さまざまな問題に生成AIが関わっている。パサック氏は、旅行ガイド「Lonely Planet」が、Amazon BedrockでLLMのAnthropic Claudeと自社コンテンツを組み合わせて旅行レコメンデーションのAIを開発したことを紹介した。

2023年は生成AIの時代
2024年には生成AIがさまざまな分野に
旅行ガイド「Lonely Planet」による旅行レコメンデーションAI

インフラ:GPUインスタンスやAI専用チップ

続いてパサック氏は、AWSの生成AI関連サービスを、最近のAWSがよく用いるように、インフラ、ツール、アプリケーションの3つの層に分けて紹介した。

まずインフラの層。AWSではGPUベースのEC2インスタンスを利用でき、大規模ワークロードまで対応している。NVIDIAと共同でAIスーパーコンピュータを開発する「Project Ceiba」にも取り組んでいる。

またAI専用チップも開発AI学習用の「AWS Trainium」によって深層学習トレーニング時のエネルギー効率が最大25%向上し、AI推論用の「AWS Inferentia 2」によって深層学習推論時のエネルギー効率が最大50%向上したという。

生成AI関連サービスの3つの層
インフラの層
AWSのGPUインスタンス
AWSとNVIDIAが共同でAIスーパーコンピュータを開発する「Project Ceiba」
AI専用チップ
AI専用チップのエネルギー効率

ツール:Bedrockの安全への配慮を強調

ツールの層では、さまざまな生成AIモデルを共通のAPIで呼び出せるマネージドサービス「Amazon Bedrock」をパサック氏は取り上げた。万能なモデルは存在しないため、適材適所で使えるのがBedrockの特徴だという。

もう1つAIに重要なものとして、良質なデータをパサック氏は強調した。そして、あらゆるユースケースに対応できるAWSのデータ基盤サービスのラインアップを紹介した。また、Adobeの画像生成AI「Firefly」のデータ基盤にAWSが使われており、「急速な成長にAWSがなければ対応できなかった」という同社のコメントを紹介した。

そのほか、責任あるAIのために、Bedrockにガードレールを構築したことも氏は説明。さらに、Bedrockではセキュリティとプライバシーを重視しており、顧客のデータを基盤トレーニングに使わないことや、GDPRなどのコンプライアンス規制に対応していることなどを強調した。

ツールの層
Amazon Bedrock
AWSのデータサービス
Adobe FireflyはAWSを利用
責任あるAI
Bedrockのセキュリティやプラバシーの保護

アプリケーション:Amazon Q Developによるコード開発を紹介

アプリケーションの層では、AIアシスタントの「Amazon Q」をパサック氏は紹介した。その中でも、開発者向けの「Amazon Q Developer」を氏は取り上げた。Amazon Q Developerでは、計画から、設計、実装、テスト、デプロイ、メンテナンスという開発ライフサイクル全体を支援するという。

例として、製薬会社を想定し、Bedrockを使って論文ポータルを開発するケースが説明された。チャット形式でBedrock APIの使い方を尋ねて回答されたコードをIDEに反映したり、コード中に書いたコメントから相当するコードを補完したり、新しいロジックを追加するために既存のコードを説明してもらったりできる。

さらに、AWS Lambdaでエラーが発生したときに、そのエラーメッセージからAmazon Q Developerでトラブルシューティングするところも見せた。

そのほか、Amazon S3に論文データが保存されていることを利用して、RAG(検索と生成AIを組み合わせる手法)をBedrockの機能とAmazon Q Developerで作るところも紹介した。

Amazon Q Developerの事例としては、BT Globalがすでにこれまで10万行以上のコードを生成したと紹介された。そのぶんの時間で開発者はほかの作業ができるという。

また、2025年までに2900万人に無料トレーニングを行っていると紹介した。

アプリケーションの層
Amazon Q
Amazon Q Developer
開発するアプリの構成
Amazon Q Developerにチャット形式で質問
チャットの回答したコードをIDEに反映
コメントからコードを補完
AWS LambdaのエラーをAmazon Q Developerでトラブルシューティング
BT GlobalのAmazon Q Developerの事例
無料トレーニングを実施

最後にパサック氏は、AWSの技術コミュニティで貢献した人を表彰する「AWSヒーロー」の日本人受賞者を紹介した。

そして、最初に紹介したようにいろいろな革命で世界が一変してきたことを元に、「今こそビルダーになる絶好の機会」だと語った。

「AWSヒーロー」の日本人受賞者
「今こそビルダーになる絶好の機会」

電通デジタル:次世代マーケティングを支援するAIサービス「∞AI」

パサック氏の基調講演では、2件のゲストが登場した。そのうちJR東海については、別途記事にしたので、そちらを参照してほしい。

2件目としては、株式会社電通デジタル 執行役員 データ&AI部門長の山本覚氏が登場。同社が展開する、次世代マーケティングを支援するAIサービス「∞AI」を紹介した。

1つ目は「∞AI Ads」。デジタル広告の、訴求軸発見から、クリエイティブ生成、効果予測、改善サジェストまで、それぞれをAIが支援する。例えば効果予測も、クリックレートなどではなく、100人のAIペルソナが評価するという。これに、Amazon Bedrockが使われているとのことだった。

2つ目は「∞AI Chat」。企業独自の情報を元にチャットAIを作成するツールだ。これもAmazon BedrockとClaude 3を使っているという。

3つ目は「∞AI Chat for Sales」で、6月13日にリリースされた営業DXサービスだ。チャット履歴から生活者データを統合してペルソナを生成し、相手のペルソナに合わせたトークスクリプトなどのユーザーカルテを作成するという。

そのほか、電通デジタルとAWSによる取り組み「Commerce AI Lab」も山本氏は紹介した。ユーザーの意見を元にレビューをAIが書くといったことをするという。

最後に山本氏は、対話型AIによってよりリッチなデータが蓄積され、さらにそのデータをいろいろに使う可能性を指摘して、「これがマーケティングなんじゃないかと思う」と語った。

株式会社電通デジタル 執行役員 データ&AI部門長 山本覚氏
「∞AI Ads」
∞AI AdsでのAIペルソナによる評価
「∞AI Chat」
「∞AI Chat for Sales」
∞AI Chat for Salesで作成したユーザーカルテ
電通デジタルとAWSによる「Commerce AI Lab」

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