【社説】地方創生10年の報告書 中央目線で検証済ませるな

 2014年に当時の安倍晋三首相が看板政策として地方創生を打ち出して、10年になる。政府はこの間の総括を報告書にまとめた。毎年1兆円以上の膨大な公費をつぎ込んだ以上、検証するのは当然だが、中身がいただけない。

 報告書は人口が増えた地域があり、地方移住に関心が高まった点も挙げ「成果と言えるものが一定数ある」と自己評価した。しかし、肝心の東京一極集中の是正は進まず、人口減少に歯止めをかけられなかった。その要因や責任に触れておらず、手ぬるい。

 地方の視点を欠き、中央の目線で書いているからだ。失敗を素直に認め、足りなかったものをあぶり出し、課題の解決に生かす反省と具体の取り組みを示してもらいたい。

 地方創生のスタートは、民間研究機関による将来人口推計で896市区町村の消滅可能性が指摘され、高まった危機感が背景にある。加えて、なかなか効果が上がらない経済政策アベノミクスの補完機能としての期待があった。

 総合戦略に並べたメニューは企業の地方移転促進や出産・子育て支援など幅広い。だが国の意に沿う形で自治体に交付金を渡し、仕事を丸投げする中央集権的な手法では限界は明らかだ。中央省庁移転が尻すぼみに終わった点からも政府の本気度が疑われた。

 東京一極集中の是正では「20年に東京圏1都3県と地方の転出入均衡」という目標を掲げたものの、状況は10年前より悪化し、東京への転入超過が再び強まりつつある。

 新型コロナウイルス禍で一時縮小した際、地方への人の流れを定着させる効果的な手だてを打てなかったのは大いに反省する必要がある。

 報告書が成果の一つに挙げたのは、13年当時の将来人口推計より20年時点の実際の人口が上回った自治体が全国で4割を超えたことだ。多くは危機感をばねに移住者を呼び込んだ成果だろう。

 一方で「地域間での『人口の奪い合い』が指摘されている」と記した。まるで人ごとの物言いである。政府の少子化対策が不十分なまま、自治体同士による子育て世代の優遇競争を放置した結果ではないのか。

 その上で気になるのが政府の熱意の低下である。岸田文雄首相が新たな地方政策で打ち出したデジタル田園都市国家構想の効果は未知数だ。

 東京一極集中が、少子化や高齢化と同時進行している難しさを直視した上で、息長く多角的な取り組みが必要だ。

 23年の東京都の合計特殊出生率はついに1を割り込んだ。生活費の負担や未婚率の高さなどが背景にある。地方で、女性や若者が働きやすい環境をつくる努力が欠かせない。政府はもっと危機感を持ち、国の責任でやるべきことを明確にしてもらいたい。

 自治体でも検証作業が不可欠だ。政府は計画を提出させ、交付金を配分してきた。これには「ばらまき」の批判もある。交付金に依存して財政規律が緩んだり、そもそもの目的が曖昧になったりしたことはないか。無駄遣いの割を食うのは住民である。

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