大手勤務の定年前サラリーマン「副業したい、でも会社が許してくれない」…実は企業側も〈本業以外の活動を重要視〉も、社員に許可を出さない矛盾【キャリアコンサルタントが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

役職定年や定年後など、仕事におけるターニングポイントをきっかけに気持ちを切り替え、今後のキャリアを迷いなく進める人は少ないでしょう。会社員時代に管理職等の役職につき、活躍をしていたミドルシニアであるほど、悩みを抱えているかもしれません。自分らしいキャリアづくりには、早いうちから現在の勤め先以外での活動の場を得ておくことも重要で……。本稿では、日本総合研究所創発戦略センタースペシャリストの小島明子氏が、ミドルシニアが一歩踏み出すために必要なことについて解説します。

ミドルシニアの副業・兼業の意欲は高い

ミドルシニア男性の意欲に対しては、年齢を経るごとに低くなるというイメージを持たれている方もいますが、日本総合研究所の調査によれば、副業・兼業に対して賛成しているミドルシニア男性は、約8割に上り、多くの男性が賛成していることが明らかになっています。

副業に賛成する理由としては、「収入確保の手段の多様化につながる」(48.1%)が最も多く、「いままで培ってきた専門性を活かせる」(46.2%)、「新たな人間関係の構築につながる」(28.3%)と続きます。自由記述のなかでは、「年功序列が崩れて給料が下がるのは仕方がないが、生活を維持するために副業を認めてほしい」、「複数の仕事をこなして、それぞれ充実した意味のある人生にしたい」といった意見もあります。収入の確保は前提としつつ、自分らしいキャリアを模索したいという期待があることがわかります。

一方で、筆者が多くの人事の関係者の方々から聞く声は、ミドルシニアの方々向けに、自分のスキルや経験の棚卸につながるキャリア研修を提供しても、副業・兼業等をはじめ、一歩踏み出す行動変容にまでつながらないということです。責任のあるポジションについていれば、周囲の人に任せづらく、活動時間がなかったり、年齢的にも新しい境地にチャレンジする勇気が持ちづらかったりなどといった事情もあるのだと想像します。

前述した調査によれば、勤め先が行う副業プログラムへ参加を希望する男性は約4割であることが明らかになっています。一見、副業・兼業のような活動は、会社と離れたところでの活動だからこそ価値があるという部分もありますが、終身雇用を前提とした時代で長く働いてきたミドルシニア男性にとっては、勤め先が主体的にそのような場を提供していくということも必要なのだと考えます。

ミドルシニアを対象に「越境学習」の機会を

最近では、「越境学習」という言葉も聞くようになりました。越境学習には、副業・兼業の場の提供はもちろんのこと、他社での一時的な業務経験、プロボノ、ビジネススクールへの派遣、ボランティア活動、資格取得支援などまで幅広く含まれます。ホーム(所属組織)からアウェイ(越境先)へ、その後、ホーム(所属組織)へと移動するプロセスを経ることで、新たな気づきや物事の進め方を学び、戻ってきたあと、所属組織のなかで、所属組織におけるイノベーションの着想と実現や、所属組織におけるメンバーのマネジメント等の実行が期待されています 。

『日本の人事部 人事白書 2022』によれば、「越境学習」の取り組みの重要性について、8割近い企業が重要(「重要だ」(37.9%)と「やや重要だ」(40.2%))だと考えていることが示されています。

ただし、実際に行っている「越境学習」の取り組みを聞いたところ、「取り組みを行っていない」(52.7%)が最も多くなっています。「越境学習」の取り組みを行っていない企業の理由としては、「本業がおろそかになる」(36.7%)が最も多く、「上層部が認めてくれない」(24.7%)、「従業員が希望しない」(20.2%)、「予算がない」(18.7%)、「すぐに成果が出ない」(17.6%)と続いています。本業と兼ね合いで社外での活動の場を提供することには、企業が積極的ではない現状が窺えます。

しかし、ミドルシニアについては、役職定年及び定年後再雇用のモチベーション維持や、社外でさまざまな人たちと活動することによる本業への還元、本人のセカンドキャリア支援等、個人と企業双方にとって、メリットは多いといえます。若者への投資はもちろん重要ですが、ミドルシニアが大事にされない会社は、若者から見れば、勤め先での将来のキャリアに不安を感じさせることにもつながります。超高齢社会の日本社会だからこそ、ミドルシニアのキャリア形成支援策の拡充として、越境学習の機会の提供が必要なのではないでしょうか。

日常でも実は無意識に新しいことにチャレンジしている

本稿では、ミドルシニアが一歩踏み出すために必要なことをテーマに取り上げました。しかし、企業側の施策が拡充しても、変化を恐れて踏み出せない方は一定割合出てくると感じます。いまの生活のままでいいと心の底から思っていれば、無理に行動をする必要はないのかもしれません。

しかし、少しでも心のどこかで、新しい体験をしてみたい、という気持ちがあるのであれば、仕事以外のことも含めて、自分が取り組んだ新しいことを思い出してみてはいかがでしょうか。いつもとは違うジャンルの読書や映画鑑賞をしてみた、会社からの帰りに知らないお店に寄ってみたなど、実は無意識に新しいことにチャレンジしている自分に気づく方は多いと思います。そのような気づきが得られるだけでも、社外へと一歩踏み出すためのハードルは下がるのではないでしょうか。

参考
※1:「越境学習入門」(石山 恒貴、伊達 洋駆 著)株式会社日本能率協会マネジメントセンター
※2:一般社団法人社会実装推進センター ホームページ

小島 明子
日本総合研究所創発戦略センター
スペシャリスト

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