坂本冬美がサザンの名曲をカバー『Oh! クラウディア』に込めた特別な想い「そんなことは初めてでびっくりしました」家族の絆つないだ奇跡

坂本冬美 撮影/有坂政晴

圧倒的な歌唱力で、聴く人を物語の世界に引き込む、演歌歌手の坂本冬美。19歳で歌の世界に入り、デビュー曲『あばれ太鼓』が大ヒット。翌年には『祝い酒』でNHK紅白歌合戦に初出場し、通算35回目となった2023年は、JO1×BE:FIRSTを従えて『夜桜お七』を熱唱し話題になった。ジャンルを超えて活躍する坂本は、今年6月26日にカバーアルバム『想いびと』をリリース。数多くの心に染みる歌を世に送り出してきた坂本冬美のTHE CHANGEとは──。【第1回/全4回】

坂本冬美はオリジナル曲だけでなく、カバー曲も積極的に歌ってきた。これまでにリリースしたカバーアルバムは、セルフカバーも含めて14枚。しかし、今回の『想いびと』は少しテイストが違っているという。

「ひとことで言うと、意外性だと思います。なにしろ1曲目から『ひまわりの約束』ですから! いったいどなたが秦基博さんの名曲で、映画『ドラえもん』の主題歌としてちびっ子からおじいちゃんおばあちゃんまでご存じの曲を、坂本冬美が歌うと思われます(笑)?」

確かに、収録されている楽曲は、安全地帯の『恋の予感』、GACKTの『サクラ、散ル…』、石崎ひゅーいの『花瓶の花』と意外性に満ちている。気になるのは、『月』に『Oh! クラウディア』と、桑田佳祐の作品が2曲入っていること。

「プロデューサーから最初に提案されたのが『月』だったんです。‘20年に桑田さんに作詞作曲していただいた『ブッダのように私は死んだ』をリリースしていて、同じ世界観を感じる『月』を坂本冬美の声で歌ったらどうなるのだろうと言われて、私自身も興味を持ちました」

弟が大好きだったサザンオールスターズの曲をカバー

『ブッダのように私は死んだ』は、学生時代からサザンオールスターズのファンだった坂本が桑田佳祐に自ら手紙を書き、熱烈オファーして実現した曲。彼女にとって、宝物のような1曲だという。

「この曲をリリースしたとき、弟から電話がかかってきて“桑田さんから曲を作ってもらったなんて、すごいな!”って興奮した声で言うんです。そんなことは初めてで、びっくりしました。理由を聞いて、さらにびっくり。私が家でずっと聴いていたサザンオールスターズのアルバムを、彼も自分の部屋で聴いていて、大好きになったんですって。ですから……昨年の夏に弟が亡くなったときには、そのアルバムの曲を流して送りました」

そのアルバム、サザンオールスターズ5作目『NUDO MAN』のB面2曲目が、『Oh! クラウディア』だ。弟さんは生前、カラオケに行くと必ずこの曲を歌っていたという。

「プロデューサーがセレクトしてくれた候補曲の中に入っていて、大好きな曲だし歌いたい気持ちはあるけれど、この曲を聴くと弟とのお別れのシーンがよみがえってしまうんですね。あるときスタッフに、“だから、この曲を歌うのはつらいのよね”と打ち明けたとき、部屋に置いてあったバランスボールがフッと動いたんですよ。ああ、これは弟が歌ってくれって言ってるのかな、と」

坂本冬美の青春時代と、弟への想いがこもった『Oh! クラウディア』は、感情を抑えた中に切なさがにじみ、サザンオールスターズとはまた違う魅力がある。

「カバーは、すでにみなさんの耳にご本人の声と個性がしっかりとあるので、難しい部分はあります。特に今回のアルバムは、原曲からあまり変えないアレンジにしたので、耳になじんだイントロのあと、坂本冬美の声で歌い出すという意外性を楽しんでいただけたら嬉しいですね」

坂本冬美 撮影/有坂政晴

坂本冬美(さかもと・ふゆみ)
1967年3月30日生まれ、和歌山県出身。‘86年、NHK『勝ち抜き歌謡天国』和歌山大会で名人となり、同番組で歌唱指導をしていた猪俣公章氏のすすめで上京。内弟子を経て’87年に『あばれ太鼓』でデビュー。‘88年、『祝い酒』でNHK紅白歌合戦に初出場。その後、RCサクセションのアルバムに参加し、’91年には、忌野清志郎、細野晴臣とロックユニットHISを結成して活動の場を大きく広げる。‘09年に発表した『また君に恋してる』は第52回日本レコード大賞で特別賞を受賞するなど、記録的なヒットとなった。今年2024年は2月21日にシングル『ほろ酔い満月』を、6月26日に最新カバーアルバム『想いびと』をリリース。

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