ランドローバー「レンジローバーイヴォーク」試乗 電動化への背中を押す洗練されたPHEVモデル

by まるも亜希子, Photo:安田 剛

レンジローバー イヴォーク

電動化を進めるためにPHEVモデルの価格を下げたレンジローバー イヴォーク

2039年までに排出ガス量実質ゼロの達成を目標に掲げるJLR(ジャガー・ランドローバー)。でもそこにはただ環境に配慮した製品を届けるというだけでなく、社員はもちろんサプライヤーから製造部門、運送部門などJLRに関わるすべてにおいて「モダンラグジュアリーなメーカー」を目指す思いがあるという。次世代のラグジュアリーとはサステナブルであることも含まれる、という解釈をしているところが興味深い。

そのため、往年のラグジュアリーカーのアイコン的存在であったジャガーは、いち早くBEV(バッテリ電気自動車)へのスイッチを表明し、すべての純ガソリンモデルの生産終了も近い。ランドローバーは砂漠のロールスロイスとの異名をとる、タフ&ワイルドかつ上質な4×4性能との兼ね合いも探りつつ、現在は電動化への入門としてPHEV(プラグインハイブリッド)モデルの拡充を進めている。

2018年にレンジローバーおよびレンジローバー SPORTにPHEVが日本導入されたのを皮切りに、イヴォーク、ディスカバリー SPORT、ヴェラールにも設定。この先、2030年までには各モデルでBEVを用意する予定で、英国ホイットリーにはすでに、エレクトリック・ドライブユニットを開発するための「Future Energy Lab」が新設され、ヘイルウッドやソリハル、ニトラといった工場でのBEV生産準備も進んでいる状況だ。

そんな中での試乗会ということで、会場は千葉・木更津の広大な敷地でさまざまな視点から持続可能な暮らしを学び、実践し、気付きや歓びを感じることのできる施設「クルックフィールズ」が選ばれた。徒歩で1時間ほどかけて場内を散策してみたが、自然を壊すことなく設置されたメガソーラーによって電気をまかない、動物がいて畑には野菜が育ち、遊び場や水辺がある。豊かな未来を創造するために必要なイマジネーションや、クリエイティビティを育む一流のアート作品が点在し、地中に潜っていくような素敵な図書館に心ときめく、ユートピアに身を置いているようだった。

緑豊かな「クルックフィールズ」を起点に、ランドローバーのプラグインハイブリッドモデル「レンジローバー イヴォーク P300e」にまるも亜希子が試乗

こういう体験をすると、それを守るためにどんなクルマに乗るべきなのだろうかとイメージしやすくなる。とくにPHEVは、多くの人が今すぐ取り入れやすい電動化モデルということで、JLRの中では比較的手頃なサイズと価格となるイヴォーク P300eに試乗することにした。イヴォーク初のPHEVは2022年モデルから登場し、2024年モデルで初めてのマイナーチェンジ。試乗車の2025年モデルはそれを継承しており、ラグジュアリー感がアップしたフロントマスクと、四輪がしっかり地面に踏ん張るような台形フォルムの勇ましさが絶妙にマッチ。サイドから見ると、クーペモデルのようなルーフラインで都会的なカッコよさがあり、足下にはドーンと20インチの大径タイヤが標準装備。ただし今回から、P300eでも19インチホイールがオプションで選択できるようになった。

2025年モデルの変更点でなによりも注目したいのは、価格である。2022年モデルのときは2.0リッターターボのガソリンモデルより90万円近く高い設定となる972万円からだったのに対し、2025年モデルは883万円からと同額に改定(しかも値下げ!)。電動化モデルの普及を加速させたいという、JLRの本気度が垣間見える決断だと感じた。

「レンジローバー イヴォーク」のPHEVモデル「AUTOBIOGRAPHY P300e」。電動化モデルの普及を加速させるため、ガソリンモデルと同価格帯とすべく、2024年モデルの1036万円から2025年モデルは964万円に価格が引き下げられた
ボディサイズは4380×1905×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2680mm。最小回転半径は5.5m。試乗車はパノラミックルーフを装着しているため、車両重量は2210kg
ホイールは標準装備の20インチ“スタイル1085”(グロスダークグレイダイヤモンドターンドコントラスト)を装着し、タイヤはピレリ「SCORPION ZERO ALL SEASON」(235/50R20 104W M+S)を組み合わせる。また、オプションで19インチ“スタイル5136”(グロスダークグレイダイヤモンドターンドコントラスト)を選択可能

パワートレーンは変わらず1.5リッター3気筒ガソリンエンジン+15kWhのリチウムイオンバッテリ、エレクトリック・リア・アクセルドライブを組み合わせたシステムとなっている。EV航続距離は約65.1km(WLTCモード)だが、これはJLRが行なった調査によって、イヴォークオーナーの約80%が1日の走行距離が50km未満だったことから、充電を繰り返せばウィークデーはほぼEVのみで走れる計算だ。同じ調査でもレンジローバーになると、1日の走行距離は75km未満に伸びるというから、やはりイヴォークは都市部での短距離使用が多いことがうかがえる。

最高出力147kW(200PS)/5500-6000rpm、最大トルク280Nm/2000-4500rpmを発生する直列3気筒1.5リッターエンジンに加え、最高出力80kW(109PS)/1万rpm、最大トルク260Nm/2500rpmを発生するモーターをリアに搭載する4WDモデル。トランスミッションに8速ATを組み合わせる
WLTCモードのEV航続距離は約65.1km。7kWの普通充電器を使用すると、約2.1時間で充電できる

ドアを開けると、外観の勇ましさからは想像もつかないエレガントで洗練されたインテリアに出迎えられる。2024年モデルから物理スイッチを最小限とし、エアコンなどさまざまな操作をインフォテインメントシステム「Pivi Pro」に統合したため、エレガントさの中にもスマートな先進性が感じられる空間だ。道なき道に怖じ気づく必要のないことは、75年にわたって進化してきた4×4システムだけでなく、クラス最高レベルの空気清浄テクノロジーを搭載し、PM2.5やCO2を監視して車内に侵入させないことからも伝わってくる。車内の空気レベルは常にGoodから危険レベルまで色分けされ、ひと目で確認できる。試乗時はのどかな風景がほとんどだったためおおむねGoodだったのだが、一度だけ大型トラックの真後ろについた際にはレベルがダウン。こうしたところで、環境問題は常に私たちのすぐ隣にあるのだということを実感するのはとても重要だ。

シートはたっぷりとしたサイズながら、サイドのフィット感がほどよく、レザーの感触が上質でホッとできる座り心地。ステアリングの握り心地もしっとりとしており、スタートボタンを押すと静かにシステムが作動する。イヴォークP300eはパワートレーンの制御モードに「ハイブリッド」「EV」「SAVE」があり、インフォテインメントのディスプレイからドライバーが任意に選択できる。

スイッチ類をインフォテインメントシステム「Pivi Pro」に統合し、クリーンで洗練されたデザインとしたインテリア。最新のレンジローバーファミリーと同様のステアリングホイールとギアシフトの採用や、MERIDIANサウンドシステムの搭載などにより、ラグジュアリーな空間を演出する
メーター部にさまざまな情報を表示できるインタラクティブドライバーディスプレイを標準装備
インフォテインメントシステムのPivi Proからは、ドライビングモードの切り替えや、「ハイブリッド」「EV」「Save」といったパワートレーンの制御の変更が可能
たっぷりと包み込むようなゆとりあるシート
ラゲッジ容量はVDA方式で472~1156Lを確保。リアシートは40:20:40分割可倒式

一般道も高速道路もゆとりあるドライビング

バッテリ残量が6割ほどのところでスタートし、最初は市街地なのでEVモードを選択。すると発進は力強い中にもやや重さを感じながらの加速となった。通常は車両重量が1.9tだが、パノラミックルーフを装備していると約2.1t。おまけに20インチの大径タイヤということもあり、蹴り出しは少し抵抗が大きめに感じるのかもしれない。ただ、これがまったく重さを感じさせずにスルスルっと加速したとすると、よく考えれば違和感につながる可能性もある。とくに過酷なオフロードではその読み間違いが命取りになることもあるため、あえておかしな軽快感は演出せず、自然な加速フィールにしているのではないか、とも思えた。

一般道ではドッシリとした重厚感の中に、ほどよくモーター走行らしい滑らかさと静かさが加わって、ストップ&ゴーも比較的コントロールしやすい。路面のガタガタをダイレクトに拾うところや、40km/h程度ではやや足さばきがドタバタとする場面もあったが、これは大径タイヤの影響が大きいのではないだろうか。おそらく乗り心地を重視するならば、オプションの19インチを履かせた方が落ち着くのではないかと感じる、素性のよさは光っている。

流れにのって走っている分には、バッテリの消費量も目に見えて減るほどではなく、これならエアコンなどを盛大につけたりしなければ、カタログにうたう航続距離近くまで走れそうな予感だ。今回はせっかくなので、一般道でハイブリッドにもしてみると、ブンとエンジンが始動する音が小さめに聞こえ、走りもイキイキとエモーショナルになってきた。ガソリンモデルほどのキビキビ感ではないが、カーブが続く道などではスポーティな一面も垣間見える。走行モードはエコやスポーツだけでなく、悪路用に草地や砂利、雪なども用意されているので、いろいろと試してみるとまた違った楽しさ、安心感が生まれるはずだ。

そして一区間のみだが高速道路にも入ってみた。すると本線への合流からクルージングに入るまでの優雅な走行フィールと、ガッシリと路面に吸い付いているかのような安定感に感心。追い越し加速も思いのままで、もっと大きなSUVに乗っているかのような悠々としたドライブが楽しめた。

最後はバッテリをためてお返しするため、SAVEモードに入れてみる。こうするとバッテリ残量を維持するだけでなく、積極的にエンジンで発電して増やしてくれるようになっている。深夜に帰宅するときなどは、あらかじめ手前でこのSAVEモードを使ってバッテリをためて、自宅近くになったらEVモードに切り替えれば、静かな走行が可能となるなど、賢く使えるのがいいところだ。SAVEモードにしても別段、エンジン音がうるさくなることはなく、ハイブリッドモードとそれほど変わらない感覚。ただ、燃費は悪化するのであくまで本当に必要なときに、ピンポイントで使いたいモードとなっている。

今回は充電をする機会がなかったが、充電口は左リアにあり、200Vの普通充電に対応。時間の目安は7kWで100%満充電までが約2.1時間ということだが、日本の家庭に多い3kWでは4~5時間というところだろう。通勤などで使う場合には、毎日充電するのも苦ではない程度でちょうどいい。遠出をする際にはハイブリッドでも走れるという安心感もあるが、最近は宿泊施設やレストランなどに普通充電器が設置されているところも増えているので、出かけた先の隙間時間で充電すれば、ほとんどEV走行で往復できる可能性もある。

これまで、イヴォークに魅力を感じていても燃費やプレミアム燃料使用という点がネックとなっていた人、価格が壁となっていた人も多いのではないだろうか。その2つを同時に撃破してくれた、2025年モデルのイヴォークPHEV。ネットゼロカーボンに向けて大きく前進しようとしているJLRの熱意が、悩めるユーザー予備軍をグッと後押しするに違いない。

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