調査対象の8割以上が追徴課税!実施時期や時効、よく聞かれる質問…「相続税の税務調査」を税理士が全解説

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相続税の税務調査。「相続税の税務調査って誰が対象なの?」「税務調査って何をどこまで調べるの?」など、疑問や不安がいろいろ。そこで相続税の税務調査の実態はもちろん、あまり知られていない税務調査が来やすい時期や時効なども解説していきます。

続税の税務調査の実態!10人に1人が85.7%の確率で追徴課税

国税庁の「平成30事務年度における相続税の調査等の状況」によると、平成28年に発生した相続を中心に12,463件の実地調査が行われたと発表されています。同年に発表された国税庁の別資料「平成30年分相続税の申告事績の概要」によれば、この年に相続税申告書の提出をしたのは116,341人(税額がある申告件数)でした。

つまり、相続税申告をすれば10.7%の確率、おおよそ10人に1人は相続税の税務調査が行われるということです。これは他の法人税や所得税等の税目に比べて高い割合となっており、多くのご家庭に相続税の税務調査が入っていると言えるでしょう。

相続税の税務調査で追徴課税になる確率は85.7%

先述の国税庁の資料によると、相続税の税務調査の結果「申告漏れ等の非違があった件数」は10,684件(全体の85.7%)と発表されています。言い換えれば、「相続税の税務調査対象者の85.7%が追徴課税された」ということです。実際にご自身で相続税申告をしてミスが発覚し、税務調査が入って合計180万円ものペナルティを課せられた体験談もあります。

相続税の税務調査が不安な方は「相続に強い税理士」に依頼を

相続税の税務調査について以下のような不安があれば、相続税に強い税理士に相談することをおすすめします。

【相続税申告前】税務調査に入られたくない

相続税の税務調査自体を回避するには、相続税の申告手続きの段階から税理士に依頼することが大切です。公表はされていない統計ですが、相続税申告書の作成に税理士が関与していない申告については、大半が税務調査の対象となるようです(税務署談話)。

【相続税申告後】税務署から税務調査の連絡があった

仮に、自分で相続税申告をして税務署から税務調査の連絡があった場合や、相続税申告の依頼をした税理士が頼りない等の事情がある場合は、この時点で相続税に強い税理士に依頼も可能です。もし相続税申告に不備があったことが発覚した場合、自ら修正申告を行えば、課せられるペナルティを最小限に抑えられます。

相続税の税務調査の概要…時期や時効について

「相続税の税務調査」と聞くと、何だかとても悪いことをして調べられるイメージをされるかもしれません。ただ、実際はきちんと相続税申告をしていても税務調査が行われることもあるので、あまり怖がらずに冷静な対応を心がけましょう。

相続税の税務調査には「強制調査」と「任意調査」の2種類がありますが、大半の税務調査が後者の「任意調査」です。

◆強制調査

国税通則法(旧国税犯則取締法)に基づいて、悪質な脱税犯の家で家宅捜索をする厳しい調査(マルサのイメージ)。

◆任意調査

税務署から事前連絡があり、当日は質問に答える形式の調査。ただし不当な拒絶はできない。

相続税の税務調査は事前に税務署から連絡がある

相続税の税務調査の対象者に選定されると、事前に税務署から連絡があります。

●相続税申告を税理士に依頼していた場合…担当税理士に連絡

●相続税申告を自分でした場合…相続人に連絡

この連絡の時点で具体的な指摘や内容の通知は行われず、実地調査を行う日程を決めるにとどまります。税務調査の連絡が来ると不安な気持ちになる方が多いと思いますが、過度に心配しなくてもよいでしょう。

相続税の税務調査の時期は1~2年後の「秋」が多い

相続税の税務調査の時期は、相続税申告をした1~2年後の秋頃が多いです。税務署には日々たくさんの相続税申告書が提出され、それを順番に審査していくため、申告後すぐには税務調査ができないのです。

また税務署は7月に大きな人事異動があり、人事異動後の8~11月が調査先選定のピーク時期となります。8~11月に選定しスタートした税務調査を、翌年の6月までに終結させるように動いていくため「秋」が多いのです。

相続税の税務調査の時効は5~7年

相続税申告にも時効(除斥期間/じょせききかん)があり、ケースによっていつまでが対象期間なのかが異なります。

相続税の時効…相続税の法定申告期限から5年

故意の脱税行為や無申告の場合の時効…相続税の法定申告期限から7年

この相続税の法定申告期限とは「相続発生を知った翌日から10ヵ月以内」のことで、被相続人が亡くなった日ではないのでご注意ください。相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知らなかった場合などは考え方が異なります。

相続税の税務調査の対象者はこうして選定されている

「相続税申告をして税務調査が入るのは10人に1人の確率」と冒頭で説明しましたが、税務署は対象者をランダムに選定しているわけではありません。相続税の税務調査の対象者に選定されやすいのは、以下の2つのパターンです。

【税務調査の対象者に選定されやすいパターン】

①相続税申告書の計算や評価方法に誤りがある

②相続税の申告書に計上されていない、漏れている財産がある

「相続税の税務調査の対象は富裕層だけでしょう?」と思われる方が多いかと思います。実際は不正申告を抑制するための牽制の意味合いを含め、一般層への税務調査もしっかり行われています。

①相続税申告書の計算や評価方法に誤りがある

税務調査の対象者に選定されやすいパターンの1つ目は、相続税申告書に記載されている財産に漏れはないけれど、相続税の計算や相続財産の評価方法に誤りがあるケースです。

たとえば…

相続税申告の経験が浅い税理士が担当した場合

税理士に依頼せずに自分で作成した場合

ちなみに、財務省が発表した「平成30事務年度国税庁実績評価書」によると、平成30年度の相続税申告件数のうち、税理士が関与しない相続税申告は15%となっています。相続税申告書は第1表から第15表まであり複雑ですので、相続税に慣れている税理士以外が最後まで作成するとミスが起きやすいという要因があります。

②相続税の申告書に計上されていない、漏れている財産がある

税務調査の対象者に選定されやすいパターンの2つ目は、相続税申告において財産として計上すべき財産(預貯金・動産・不動産・株式等)が、漏れている(可能性が高い)ケースです。

よく相続人の方から「税務署はなぜ申告漏れの財産の有無や可能性が分かるのですか?」という質問を受けますが、税務署は被相続人の過去の所得税の確定申告書や、給与の源泉徴収票等のデータを収集しています。被相続人の過去の収入から、明らかに相続税が発生することが見込まれるケースでは、すでに税務署から目をつけられている可能性が高いです。

また、財産を意図的に隠そうとしても見つかってしまう可能性が高いため、当初の申告がしっかりと財産漏れがないことを確認して申告書を提出することが重要です。

相続税の税務調査は事前調査あり!預金や動産にご注意を

税務署は税務調査の前にある程度事前調査をしていますが、「どのように財産情報を入手しているのか?」は分からないでしょう。国税庁「平成30事務年度における相続税の調査等の状況」によると、申告漏れが多い財産は「現金・預貯金」と「その他(骨董品や動産)」です。

預金通帳は金融機関に過去10年分を照会

預金通帳は、被相続人の住所地にある最寄りの各金融機関に、税務署から照会をかけることで判明します。預金通帳の残高だけではなく、金融機関がデータを保存している過去10年分ほどの預金やお金の動きを確認しています。

【重点的に確認されるお金の動き】

・頻繁な預貯金の出入りの有無

・不明な出金の有無

・生前贈与財産の有無

・海外送金の有無

たとえば、相続開始の2年前に親から500万円をもらったけれど、贈与税を申告していなかった場合等はすぐに分かってしまいます。さらには故人の金融資産データのみならず、相続人の資産状況まで調べることもあります。これは多額の生前贈与や、相続人の職業等からして不相応に高額な金融資産があるような場合、税務調査で質問を行うためです。また、被相続人名義の預金通帳だけではなく、他人名義の預金通帳も調べられることもあります。

不動産情報は法務局や市区町村から入手

市区町村役場に死亡届を提出すると、その内容は税務署に通知されることになっています。その通知と同じタイミングで、固定資産税の情報も送付されているといわれています。一定額以上の固定資産、つまり「土地や建物があれば相続税がかかりそうだ」ということを税務署は把握しているのです。また実際に遺産分割が終わった後に不動産の名義を変更(相続登記)することで、法務局からの登録免許税等の情報を入手し、不動産の相続の発生を知ることもできます。

生命保険は保険会社の支払報告書で調査

生命保険については、生命保険会社から税務署に支払報告書が出ますのですぐに分かります。故人名義で支払いがあった生命保険金は、漏れることは少ないと思います。ただし故人が契約して「相続人が被保険者」になっている生命保険がある場合は、注意が必要です。

非上場企業オーナーの方は法人税申告書も見られます

非上場企業オーナーの方は自社株式も相続税対象となるため、自社株式の相続税評価を行い相続税の申告を行います。ただ、過年度の法人税申告書データが税務署にはあるため、企業オーナーの方は会社の資産内容についても全て税務署が把握しています。役員報酬の金額と金融資産額を比較して少なすぎないか等、法人税申告書の情報と連動した調査を行うことができます。

相続税の税務調査当日の流れ…何をどこまで調べるのか

相続税の税務調査における実地調査は、通常は事前に決めた日の朝10時から、被相続人か相続人の自宅で行われます。税務職員2名で来ることが多く、ほとんどの場合は1日で終了します。

【相続税の税務調査当日の流れ】

午前10時

正午 税務署のマニュアルに基づいた質問がメイン、聞きたいポイントを中心にヒアリングされます。

正午~午後1時

お昼休憩で、税務職員は午前の質問に対する答えを元に、午後にどういった話をするのかの打合せを行っています。税務職員は必ず外に出ますので、昼食を相続人側で準備する必要はありません。

午後1時~午後3時頃まで

午後は具体的な資料の確認(通帳等)や、金庫やタンス等の貴重品の保管場所の確認を行った後に、具体的な指摘事項の通知があります。

※通常午後3時~午後5時頃までには帰っていきます。

非協力的な態度を示すと税務署職員の心象が悪くなってしまうので、協力的な態度で接するのがポイントです。また、午前中に行った質問に対する回答について、書面にまとめたものへ相続人の一筆を求められることもあります。質問に回答した内容を書面にしたものですが、後で証拠の一部となります。立ち会ってもらっている税理士に、必ず書面の内容を確認してもらってからサインするようにしましょう。

税務調査は何をどこまで調べるの?

相続税の税務調査(実地調査)では、税務職員は具体的に何を見ているのでしょうか?事前調査との相違がないかの事実確認はもちろん、以下の内容を主に調べているので参考にしてください。

金庫やタンス

申告されていない預金通帳・タンス預金・権利証などがないかを確認

動産

申告されていない高価な骨董品や絵画が自宅にないか確認

金融機関の景品

申告されていない金融機関がないかを確認

預金通帳

事前調査と相違ないか確認

ゴルフ大会のトロフィー

ゴルフ会員権の有無を確認

税務調査当日、午後からは具体的な資料の確認等が行われますが、その中で次のような質問があります。

税務署「故人(被相続人)が通帳や現金、印鑑を保管していた場所を見せてください」

しかし中には寝室やタンス等、プライベートな空間にまで税務職員に入ってほしくないという事情が存在する場合もあるでしょう。そのような際には次のように対応すると、認められることがほとんどです。

「プライベートな物も保管していますので、必要なものがあればここに持ってきます」

ただし保管場所を見せなければ、税務職員によっては「何か隠しているのではないか」という心象を持つ場合もあるため、特段の事情がなければ協力すると良いでしょう。

相続税の税務調査当日までの事前準備

ここまで解説してきたように、相続税の税務調査の当日には様々な資料の開示を求められます。スムーズに完了させるためにも、以下の資料の事前準備をおすすめします。

【事前準備しておくと良い資料】

・相続税申告で使用した資料一式(原本)

・被相続人の通帳一式(原本)

・相続人の通帳一式(原本)

・相続人所有の土地の権利証

・不動産購入時の資料等の重要な資産に関する資料

・相続人の認印

こちらから積極的に上記資料を見せる必要はなく、税務調査当日に税務職員に言われてから出せば大丈夫です。

相続税の税務調査でよく聞かれる質問とその意図

前章で「税務調査の午前中は税務署からの質問を中心に進む」と解説しましたが、実際にどのような質問をされるのでしょうか? 税務調査当日によく聞かれる質問内容を、想定質問集としてまとめたので参考にしてください。

【被相続人の属性について】

・被相続人の出身地や職業、結婚の時期、趣味、月々の生活費など

・被相続人が亡くなったときの状況(入院の有無・時期や病院名など)

・被相続人の介護や入院にかかった費用

・被相続人の日記の有無

・被相続人の配偶者の財産状況

【相続人の属性について】

・相続人の出身大学や職業、住まいなどについて

・相続人の家族(子供、配偶者)の年齢や学校名、職業など

・相続人の家の購入金額や売却金額(過去に住んでいたものも含めて)

・相続人の投資状況(証券口座を持っているか、どれ位株式や投資信託へ投資しているか等々)

【被相続人と相続人の財産関連】

・被相続人がどのように相続財産を築いたか

・被相続人や相続人は貸金庫を持っているか

・被相続人や相続人が取引のある金融機関と支店名(過去に使っていたものを含めて)

・被相続人の死亡直前の財産管理は誰が行なっていたか(書類や通帳の管理)

・相続開始直前で下ろした現金の具体的な使い道

・生前に贈与を受けたことがあるか

【相続税の申告関連】

・相続税を納税した金融機関はどこか

・相続人と税理士との関係

税務調査の質問の意図は「仮装・隠蔽の意思確認」

税務調査で税務職員が質問する意図は、相続人の仮装・隠蔽の意思を確認するためです。実地調査で午前中に質問をして午後から具体的な調査に入るのはこのためで、あえて分かっている質問をすることも多々あります。相続人に仮装・隠蔽の意図があったのかなかったのかで、ペナルティの追徴課税の税率が大きく変わります。

◆仮装・隠蔽の意図がなかった場合

過少申告加算税10%(一定の金額を超える部分は15%)

または

無申告加算税15%(一定の金額を超える部分は20%または30%)

◆仮装・隠蔽の意図があった場合

重加算税35%(無申告の場合は40%)

心配なことがある場合には、税務署から不利な指摘を受けないためにも税理士に相談にいくとよいでしょう。 税務調査が終了した後、指摘事項がなければ何もやることはありません。

相続税の税務調査で指摘あり!修正申告&ペナルティあり

相続税の税務調査で指摘事項があった場合、修正申告を行う必要があります。ただし修正申告は専門性が高いため、必ず相続税に強い税理士に依頼をしてください。そして税務調査で指摘事項があった場合、追徴課税のペナルティが課せられます。

◆追徴課税のペナルティ

延滞税+加算税(過少申告加算税・無申告加算税・重加算税のどれか)

延滞税

延滞税とは、相続税の納付期限までに相続税を納めなかった場合に課せられる税金で、いわゆる延滞利息のような税金です。修正申告の場合では、相続税の当初の納付期限から修正後の税額を納付するまでの日数に応じて年率で課税されます。延滞税の割合は、修正申告書を提出した日(納期限)から2か月を経過する日を境に2段階に分けられ、金利に応じて毎年変更されます。

加算税は3種類!ケースによって税率が異なる

相続税の税務調査で指摘をされると、加算税として「①過少申告加算税」「②無申告加算税」「③重加算税」のいずれかが課税されます。

①過少申告加算税(10%)

過少申告加算税とは、名称のとおり本来申告すべき相続税額よりも、当初の相続税が過少だったことに対するペナルティです。当初の申告では財産を隠したりする意図がなく、うっかり漏れていたケースや評価を間違えていたようなケースで課税されます。ただし新たに納める税金が、当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については15%となります。

②無申告加算税(15%)

無申告加算税とは、相続税の申告期限内に相続税申告書を提出していなかったことに対するペナルティです。 隠蔽の意図がなく、申告を失念していたようなケースで課されるペナルティです。ただし新たに納める税金が50万円を超えている場合、その超えている部分については20%となります。また、申告期限が令和6年1月1日以降で新たに納める税金が300万円を超えている場合、その超えている部分については30%となります。

③重加算税(35%)

重加算税とは、隠蔽行為により不当に相続税を逃れるような行為をした場合に課されるペナルティです。加算税の中でも最も重い罰則規定で、隠蔽のために無申告だった場合は税率が40%となります。

税務署の指摘に納得できない場合の対応

相続税の税務調査終了後に税務署から指摘を受けた場合、その指摘内容に納得できない場合には次のような対応方法があります。

STEP1:税務署長に対する再調査の請求

税務署の指摘について不服があるときに、処分を行った税務署長等に対して再調査の請求を行います。ただし、税務調査結果の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、手続きを行う必要があるので注意しましょう。この再調査に、法律上審理期間の定めはありませんが、通常は3か月程度で結果がでます。再調査の請求により納税者の主張が認められる割合は10%以下となっており、90%以上は納税者が負けてしまいます。それでもいくらかは納税者の主張が認められているので、納得できないことについては毅然とした態度で主張を行うとよいでしょう。この再調査の決定内容にも納得できない場合には、次のSTEP2になります。

STEP2:国税不服審判所への審査請求

税務署の再調査の結果についても納得できない場合には、国税不服審判所という国税庁の特別機関に審査を請求することができます。国税不服審判所は税務署や国税局からは独立した組織となっていますので、客観的な観点から税務署の処分内容を審査します。再調査に対する税務署長等の決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内に、国税不服審判所長に対して「審査請求」をしなければならないという期限があります。ただし国税不服審判所の審査請求の結果、納税者の主張が認められる割合は約10%で、納税者にとってはかなり厳しい戦いであることが分かります。通常は国税不服審判所への請求資料の作成段階から、相続税に詳しい弁護士や税理士が関与して主張していくケースが多いです。

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