「寿司職人が足りない」インバウンド需要と寿司人気の思わぬ誤算 3か月で寿司職人”養成所”まで開設外国人観光客にも人気が高い日本の「寿司」。

インバウンド需要が回復し寿司店も賑わっていますがその一方で寿司職人の人手不足が深刻化しています。そんな中、寿司職人を養成する学校の開設が相次いでいます。

門をたたくのは、元自衛官や企業の採用担当者など経歴は様々。寿司職人をめざす理由も十人十色です。

人気寿司店 来店客の多くが外国人観光客

福岡タワーの近くにある福岡市の寿司店「まさ庄」。

ランチの時間になるといつも満席となる人気店ですが、来店する人の多くが外国人観光客です。

この日はほとんどが韓国からの旅行客でした。

韓国人観光客
「おいしい、ライスおいしい。米がおいしいですね、魚も新鮮だしおいしいです」

韓国人観光客
「おいしいです。日本といえば寿司なのでわざわざ食べに来ました」

「まさ庄」 大将 功野正直さん(69)
「8割が外国人。韓国の人が多いかな。福岡タワーとかマリゾンとかが観光地として有名みたいで、そこに来られてうちの店に寄るという感じですね」

約7割の訪日客が滞在時に「寿司」を食べる

日本政府観光局(JNTO)によると、日本を訪れる外国人観光客は、今年3月にコロナ禍前を上回る過去最多の308万人にのぼりました。

農林中央金庫が訪日観光客に対して行ったアンケートでは、「滞在時に食べた日本の料理」という質問に、約7割の人が「寿司」と回答しています。

また、「最もおいしかった料理」についても一番多かった回答が「寿司」でした。

寿司職人が足りない

インバウンド客に人気の寿司店ですがその一方で職人不足が深刻化しています。

「まさ庄」 大将 功野正直さん(69)
「みんな人が足りない足りないって言ってますよね。握るのは簡単に覚えるけど、魚自体を覚えるのが難しい。そういうのは現場にいって慣れないと」

3か月で寿司職人の技術を学ぶ

そんな中、今年4月、人材教育や飲食事業を展開するCiXホールディングスが、福岡市に寿司職人の養成所を開設しました。

大阪、東京、淡路に続き4か所目です。

飲食人大学 福岡校 青木信二 校舎長
「外国からのインバウンドのお客様が増えていて、寿司職人が外国人のお客様の数に対して足りていないような状況なんです。不足している地域に寿司職人を輩出できればと開設しました」

「飯炊き3年握り8年」と言われる寿司職人。

この養成所はわずか3か月で寿司職人の技術を学べるというのが最大のセールスポイントです。

授業料は、96万8000円。魚の目利きや捌き方から経営に必要な知識まで身につけることができる実践的なカリキュラムを組んでいるといいます。

生徒の多くが飲食業は未経験

今期は9人が受講。年齢も経歴もばらばらですが、将来、海外で働くことを目指している人が多いのも特徴です。

入学した人
「いま50歳です。アパレル会社で内勤でやってました。採用とか。娘が海外の学校に行きたいと言った時に、今のままでは行かせてあげられないので家族で移住しようかなと」

入学した人
「前職は航空自衛隊です。」

Q日本でお寿司を?
「いや海外に行こうかなと思ってます」

Qなぜですか?
「かっこよくないですか。海外で職人してたら」

韓国から来日した若者も

そん中、大きな夢を抱いて韓国からやって来た人がいます。

ソン・ジウォンさん(32)
「将来韓国でお寿司屋さんを開いてみたいなと思って今頑張っています」

ジウォンさんは、寿司職人になりたいと今年4月、1人で韓国から来日しました。

ソン・ジウォンさん(32)
「もともと高校生の頃、日本に交換留学する機会があって、日本で食べた寿司がおいしかったんでそこから寿司が好きになって」

大学を卒業し2年間の兵役や留学などを経験したジウォンさんでしたが、日本で食べた寿司の味を忘れることはありませんでした。

ソン・ジウォンさん(32)
「寿司って海外から見たら高級なイメージもあるから、世界中で一番流行っているアジアの食べ物だと思って寿司職人なろうかなと思いました」

魚の捌き方などを基礎から学んできたジウォンさんですがー。

ソン・ジウォンさん(32)
「包丁も日本に来て初めて使いました。最初は包丁を研ぐこともできなかったので、歯が全然たたなくて身に綺麗に入らないとかそういうことが多かった。3か月間の実習で今ではきれいに魚を捌けるようになりました」

調理の技術や接客を学ぶ

この養成所では、調理の技術だけでなく、接客についても学びます。

講師
「産地はどこの産地のカンパチを使ったんですか」

ソン・ジウォンさん
「産地を見ていなかったのですみません」

講師
「お客さんからは魚についての情報は聞かれることが多いから産地や食材について調べておかないといけない」

ソン・ジウォンさん(32)
「新しい単語や魚の名前を覚えたらまた新しく覚えないといけないことがでてきて、それが一番大変。地名も慣れていない地名が多いので難しいです」

自ら考案したおまかせコース

6月、カリキュラムの集大成として、「提供実習」が行われました。

RKB 土橋奏太記者
「実際にお客さんをお呼びして生徒自ら考えた料理を振る舞います」

ソン・ジウォンさん(32)
「いらっしゃいませ、本日ご来店ありがとうございます。きょうの料理長のソンジウォンと申します」

今回、ジウォンさんが考案したコースを記者がいただきました。

ソン・ジウォンさん(32)
「のどぐろでございます」

記者
「のどぐろはどういうお魚なんですか」

ソン・ジウォンさん(32)
「のどぐろは1年中秋が産卵期でどちらかというと夏の今のほうが旬になります」

記者
「産地はどこ?」

ソン・ジウォンさん(32)
「長崎になります」

記者
「ではいただきます。んーネタも分厚くてシャリとのバランスも絶妙でおいしいです。3か月でこんなにできるんですね」

ソン・ジウォンさん(32)
「学校のおかげです」

「いつか故郷で店を開きたい」

いつかは韓国で日本人が来て食べてもおいしいと言ってくれる店を開きたいというジウォンさん。

卒業後も日本の寿司店で修業したいと考えています。

ソン・ジウォンさん(32)
「日本の提供の仕方は”お客さんは神様”みたいな。一生懸命に対応してくれるなと感じることも多いので、そういう文化的なところが好きでわざわざ日本に来る外国の方がいるぐらいで。だから日本のおもてなしの心とかを学んで提供できたら、日本の方が来ても褒められるのかなと思っています。やっぱり日本で食べた、美味しかった寿司の味を韓国でもちゃんと韓国人に伝えたいなと。同じ故郷の人に」

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