年金80万円、実家に寄生して豪遊する「48年間無職の66歳次男」…金融資産1億円の亡父が残した「強烈な代償」【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

被相続人の財産に関する最終の意思表示である「遺言書」。遺言書の内容によっては、相続人が思わぬ事態へ陥ることも……。本記事では太田和正さん(仮名)の事例とともに、生命保険を活用した遺産分割について、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。

父の遺産を頼りに死ぬまで豪遊するはずが…

太田和正さん(仮名/66歳)は父である和夫さん(仮名)と暮らしていました。裕福だった家庭で甘やかされて育ったせいか、高校卒業後から一度も働かず、父和夫さんの収入に頼りきって生きてきました。そんな様子を心配した母は、生前、和正さんの代わりに年金を支払ってあげていました。年齢を重ねてもそんな生き方が変わることはなく、60歳を過ぎても和夫さんの年金と資産をアテにして生活していました。

自営業をしていた和夫さんは現役のころに貯めた金融資産は1億円以上になり、和正さんは父の遺産もいずれ自分のものになると考えていました。しかし、92歳の父の死によりそんな和正さんの生き方も終わりを迎えることになったのでした。

衝撃の遺言書

父の葬儀を終え、遺言書の中身がわかると、和正さんは仰天します。金融資産のすべてを孫である早紀さん(仮名)に相続させるという内容だったのです。和夫さんの長男である和弘さん(仮名)が事業を継ぎ、法人を設立し和弘さんの一人娘の早紀さんにすでに代替わりしていて、その早紀さんに遺産のすべてを譲るというものでした。

和正さんにとっては予想もしていなかったことでした。亡くなった和夫さんが保有していた資産の概要は、以下のとおりです。

・預金2,000万円
・一時払い終身保険(和弘さん、早紀さんがそれぞれ3,000万円ずつ受取り)
・株式2,000万円
・不動産4,000万円
・自宅建物、土地3,000万円

総額1億7,000万円

このうち、和正さんに遺されたものは自宅建物、土地の3,000万円分だけだったのです。こうして、不動産を受け取ったものの、和正さんは年間で約80万円の年金を頼りに生きていくことになりました。とてもではないが暮らしていけないため、兄に泣きついて紹介してもらった時給1,000円程度のアルバイトという人生初の仕事をしながら生活していかざるを得ない状況になってしまったのでした。

最期に心を鬼にした父

実は、和夫さんは自分の資産を和正さんに渡さず、自分の事業を継いでくれている孫に渡るように遺産分割の対策を考えていました。何度諭しても働こうという意思が一切芽生えず、自立する気がまったくない次男。そして、なんだかんだといって結局そんな次男を許し続けてしまっていた自分に、うんざりしていたのです。和正さんの怠惰な生活態度はもう治ることはないと考え、最期に心を鬼にする決意をします。

今回の場合、もしも和夫さんが相続対策をせずに死を迎えていたら、上記の遺産総額は半分ずつ兄の和弘さんと和正さんで8,500万円ずつ受け取ることができることになります。

しかし、和夫さんは遺言を遺すことで自分の事業を継いだ孫の早紀さんにお金を残したいと考え、遺言を遺しそれを示すこと、また生命保険を活用してそれを実現しました。生命保険は受取人固有の財産とみなされ、原則として遺産分割の対象から除かれて受取人にお金を残すことができます。

そのため、生命保険を活用することで遺産分割の対象となる相続財産を減らすことが可能なので、今回の場合は相続財産1億7,000万円から6,000万円が圧縮されて1億1,000万に圧縮され、法定相続分を5,500万円に引き下げることになります。こうして、和正さんの法定相続分を引き下げていました。

遺言を残しても遺留分請求されないためには

しかし、遺言を残した場合であっても、遺留分という配偶者や子供など法定相続人に対して本来の相続財産の2分の1を遺産を受け取った人に請求することが可能な権利があります。

遺言を遺しただけでは、なにもしないと8,500万円の2分の1の4,250万円を和正さんが相続できる権利があるということになりますが、生命保険で6,000万円分を相続財産から除外することで相続財産は1億1,000万円に圧縮され、法定相続分の5,500円に引下げしたことにより遺留分を2,250万円に圧縮、自宅建物、土地だけ相続させれば足りるようにしました。

和正さんは結局遺された土地、建物を処分して現金に換え、自宅建物と土地を売却した資産を取り崩し、少ない年金とアルバイトで稼いだ収入の足しにしながら生きていくことに……。

フリーター、無職者の老後

今回は親の財産をアテにして余裕の老後のはずだった次男坊の末路を紹介してきました。

裕福な環境で甘やかされて育つと、和正さんのように自立した大人になれずに年を重ねてしまう場合も少なくはありません。そのため、余裕のある裕福な家庭でも、幼少のころからお金の使い方や管理を教育すること、稼ぐことを教えることは自立した大人になるために重要なことです。

できれば和夫さんも、和正さんに対してもっと早くに突き放して自立させるようにすべきだったといえましょう。

また、労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果によると、15歳~64歳のうち働く意思のない人の割合は2%にもなるといわれており、和正さんのように親の遺産をアテにしないと生きていけないような場合も想定されます。

フリーター、無職者の場合、国民年金の第一号被保険者として国民年金に加入することになります。和正さんの場合、自立のタイミングを失ったという意味では不幸ですが、幸い、母親が代わりに支払ってくれていたおかげで年金が完全に未納という状態ではありませんでしたが、65歳以降の公的年金の額も会社員と比較すると少なく、老後も経済的不安を抱えることになります。今後こういった層に対しいかに自立を促していくか、課題になりそうです。

小川 洋平

FP相談ねっと

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