“日本一うまかイサキ“を全国へ 漁師になるため小値賀島に帰郷した男たちの伝統のイサキ一本釣り漁に密着

水産県「長崎」で海と向き合う漁師に注目するシリーズ「海と生きる」。今回の舞台は北松浦郡小値賀町。6月に旬を迎え脂が乗ったブランドイサキを全国に届けようと故郷に戻り漁師になった男たちの漁に密着した。

脂乗り抜群の旬のイサキ

皮をあぶって食べる北松浦郡小値賀島のイサキの刺身。梅雨時に産卵を迎えるイサキは丸々と肥えていて脂乗りもよく格別においしいと評判だ。

6月は真子・白子もおいしく関東・関西ではキロ4000円に届くこともあるという。小値賀の近海で一本釣りしたイサキは「値賀咲(ちかさき)」というブランドで売り出している。

イサキは多くの地域では巻き網や定置網で大量に獲る。それに対し小値賀では一本釣りによる鮮度の良さを売りに「日本一うまかイサキ」と銘打ち価値を高めて25年前にブランド化、魚価の向上と漁師の収入の安定化を図ってきた。

宇久小値賀漁協・岩坪敏隆販売課長:もうほとんどが東京、大阪に行くので結構好評。小値賀の魚は鮮度が良くて美味しいと流れているみたい

島に戻り漁師の道へ

人口2137人の小値賀町。(2024年6月17日時点)町の北側にある橋でつながった斑島(まだらじま)には89世帯136人が暮らしている。

加戸公次さん(41)は島を出て長崎市内の水産会社で働いていたが6年前に戻って漁師を継いだ。

加戸公次さん:小さい頃からこの島に育って漁師の姿を見て来た

父親の吉一さんの元で2年間漁業を学び、4年前に独立した。斑島の漁師は約30人。この時期はイサキ漁に励んでいる。伊藤安和さんも2023年、島に帰ってきた。今は加戸さんの船で漁業研修を受けている。

伝統漁法「夜焚き」

午後6時に出港し、港から約40分の漁場は父親から受け継いだ秘伝のポイントだ。

夜に行うイサキ漁で欠かせないのが「水中灯」という灯りだ。深さ15メートル前後に沈めて点灯し、水中灯で小魚を集め、追って来るイサキを釣り上げる「夜焚き」という漁法だ。

魚群探知機で魚がいるポイントを探しながら、真っ暗になった夜8時過ぎ、一本釣りを始める。

疑似餌5本が付いた仕掛けを10メートル程落とし水中灯の近くにいるイサキを狙う。まき餌(オキアミ)は使わず疑似餌で釣るのは鮮度を維持するため。オキアミを食べさせると体内に残って鮮度が落ちやすいという。

しばらくしてこの日の1匹目、形のいい約800グラムのイサキが釣れた。加戸さんも「特大!」と満足気な表情を見せるが、研修生の伊藤さんはなかなか釣れない。

漁を始めて2時間、当たりがまったく無くなった。魚影は確認できるが、食いつかないのだ。

――釣れないのはどうして?

加戸公次さん:それが分かればいいけど。潮とか餌とかの関係だろう

伊藤安和さん:餌となるキビナゴもいないしカタクチイワシもいない

エサの小魚が集まらないとイサキは釣れない。潮の流れが良くないのか海の環境変化が影響しているのか分からない。

この日の釣果は…

ついに研修生の伊藤さんに待望の1匹目がかかり、安堵(あんど)の表情を見せる。

加戸さんにも当たりがありようやく釣れ始めたが、「朝まずめ」という午前4時半ごろの一番釣れる時間帯に差し掛かったが全く引きがない。そして夜が明けた午前5時、水中灯の効果がなくなるため漁は終了。

加戸公次さん:きょうはだめですね全然。他の所もだめみたいですね

――大体、何匹位ですか?

加戸公次さん:20~30匹で14~5キロ。これでは全然だめ

漁獲は年々減少しているという。

人より遅くまで頑張ること

港に戻り水揚げだ。一本釣りイサキは鮮度が売りのため、釣って来たばかりのイサキを漁師自身が活き締めと血抜きをして漁協に運ぶことが「値賀咲」を名乗る条件だ。

宇久小値賀漁協・岩坪敏隆販売課長:20年前位は1日大体1500箱上がっていたけれど今日の漁で大体150箱。漁師自体も減っているが魚自体も少ない

加戸公次さん:頑張った分だけ自分のものになる

――成功の秘訣?

加戸公次さん:人より遅く帰ること、人より遅くまで頑張ること

漁師になりたいと島に戻って来た加戸公次さんと伊藤安和さん。後継者不足が指摘される中、希望の星ともいえる二人だが獲れる魚が減ってきて不安がないわけではない。それでも家族の支えを受けて仕事に打ち込み小値賀の一本釣りブランド魚「値賀咲」を全国に届けている。

小値賀のブランドイサキ「値賀咲」は佐世保魚市から主に東京、大阪に出荷されているが、小値賀島に行けば漁協で購入も可能(持ち帰り)だ。「値賀咲」の棒ずしを開発しインターネットなどで販売も始まっている。

(テレビ長崎)

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