“スポンジバリアNG”のFIA新基準。スーパーフォーミュラ開催直前にSUGOで行われた大規模作業と今後の課題

 途中で赤旗終了という形で終わった全日本スーパーフォーミュラ選手権第3戦SUGO。レース後の記者会見でも野尻智紀(TEAM MUGEN)が言及していたとおり、今大会前にウレタン製のスポンジバリア(ここではウレタンバリアと呼称)が撤去され、タイヤバリアとガードレールでの対応となっていた。

 なぜこのようなことになったのか? スポーツランドSUGOに話を聞くと、新基準が導入された『FIAグレード2』が大きく絡んでいることが分かった。

 そもそもサーキットでレース競技を開催する際には、FIAからサーキットライセンスの発給を受ける必要があり、そのサーキットに適切と思われる車両タイプとグループに従って1〜6までのグレード分けがされている。

 国際モータースポーツ競技規則付則O項6.1によると、グレード1はパワーウエイトレシオが 1kg/hp未満のグループD(FIA国際フォーミュラ)とグループE(フリーフォーミュラ)の自動車。つまりF1がここに当てはまるため、鈴鹿サーキットや2007年・2008年に開催した経験のある富士スピードウェイは、グレード1を取得している。

 今回の話題となるグレード2は、パワーウエイトレシオが 1〜2kg/hpの間のグループDとグループEの自動車となっている。スーパーフォーミュラだけでなくスーパーフォーミュラ・ライツやFIA F4、FRJなどを開催する際も必要条件となるため、今回のSUGOだけでなく、モビリティリゾートもてぎ、オートポリス、岡山国際サーキットがグレード2を取得している。

 ちなみに3月に開催されたフォーミュラE東京E-PRIXのコースは、グレード3E(パワーウエイトレシオが2〜3kg/hpの間の電気自動車、あるいは現行のFIAフォーミュラE競技規則に定める電気自動車)となるため、あのコースでスーパーフォーミュラなど国内主要カテゴリーのレース競技は開催できないのだ。

■今年になって変更されたFIAのサーキット規定

 まずはウレタンバリア撤去の経緯についてSUGOに聞くと「我々のコースはグレード2を取得していますが、昨年の12月に申請を出すことになっていました」とのこと。そこで安全面の改善点でいくつか指摘が入ったという。

「我々は2輪のレースもやっているので、そこの対応もしつつ『指摘された箇所はこうしましたよ』というものを出していたのですが、そこからの回答がずっと止まっている状態でした」とSUGO側は改善内容を伝えて、その返答を待っている間に月日が流れていった。

 そして、6月3日にFIAがライセンスを取得しているサーキット一覧を更新。そのグレード2一覧からSUGOの名前が外されていたのだ。慌ててFIAに問い合わせたところ「ウレタンバリアが改善されていないから(グレード2承認を)出せない」と言われたという。

 SUGO側も回答が保留状態になっていた部分を説明。ひとまず6月8・9日にSROジャパンカップも控えていたが、同レースはグレード3基準で開催できる。「『グレード3であればウレタンバリアが多少あっても許可します』ということで(ジャパンカップは)開催できました。ただ、フォーミュラカーのレースを開催する時に必要なグレード2に関しては『(FIAが)求めているものをすべてクリアしないと(承認は)出せない』と言われました」とのことだ。

 ちなみに、改善点の確認・回答待ちになっている期間中に、規定の部分で変化があった。国際モータースポーツ競技規則付則O項が更新され、あらたに『12.14 安全ロードマップ』という項目が追加されたのだ。

 その安全バリアについては新設のグレード2サーキットもF1が開催されるグレード1と同じ『FIA3501-2017基準』を満たすエネルギー吸収バリア、もしくはタイヤバリアの設置が義務付けられることになった。つまり、SUGOに設置されていたウレタンバリアは基準に満たないというのが、FIA側の見解だった。

 規則の原文には、新規グレード1サーキット(2019年以降)と新規グレード2サーキット(2022年以降)となっているものの、その他全てのサーキットにも推奨と書かれている。

 この項目が今年から追加された背景についてはハッキリしたことは分からないが、昨年のスーパーフォーミュラ第8戦で起きた笹原右京の大クラッシュが基準引き上げのきっかけになっているのではないかと言われている。

 奇しくも、SROジャパンカップと併催されたフェラーリ・チャレンジ・ジャパンのレース2で前澤友作が馬の背コーナーで激しくクラッシュした。この時にウレタンバリアに乗り上げる形でマシンが横転した。これについても、FIAから『状況を詳細に報告せよ』とJAFを通じてSUGO側に連絡が来ていたようで、国内レースでは信頼のあるウレタンバリアではあるものの、マシンが乗り上ったり跳ね上がったりする事例があることでFIA側の見方がより厳しくなっていた可能性は高いようだ。

フェラーリ・チャレンジ・トロフェオ・ピレリ・ジャパン第3ラウンドSUGOのレース2で激しいクラッシュに見舞われた前澤友作とヒットされた川崎徳来の車両

 いずれにしても、グレード2承認を受けるためにはウレタンバリアは使えないこととなり、SUGOは追加のタイヤバリア確保のために、急きょ動き出すこととなった。「タイヤバリアも購入する算段はしていましが、買えなかったので、他のサーキットさんにお願いして借りることにしました」と、条件を満たすために必要なタイヤバリアをレンタル。ウレタンバリアの撤去と借りてきたタイヤバリアの増設作業が行われた。

 スーパーフォーミュラ開催週の月曜日にタイヤバリアが届き、入れ替え作業を開始。日中は走行等があるため、それらのスケジュールが終わってから作業を開始する流れだったという。サーキットや携わった業者の努力もあり、なんとか大会開幕前に作業を終わらせた。すぐにFIAに報告が行われ、承認を得ることができた。

ピットロード出口からから見た1コーナーアウト側のタイヤバリア。ここは大会前に増設された箇所だ。

■SUGOに突き付けられる“次の課題”

 この報告として、6月22日付けで大会組織委員会より『SUGOインターナショナルレーシングコース改善工事完了報告について』というインフォメーションが発行され、タイヤバリアおよびガードレール前に設置してあるウレタンパッドの撤去とT1、T7(ハイポイントコーナー)、T9(馬の背コーナー)、T12(最終コーナー前半)のタイヤバリア増設をFIAの指示どおりに実施した旨が、公式にアナウンスされた。

 なお、今回クラッシュが多発した最終コーナー後半についてはバリアの設置場所が少なくなっているというドライバー側からの指摘もあったが、サーキット側は「あそこに関しては、もともと飛び出しが少ない箇所でしたが、『良かれ』と思ってプラスアルファで置いていた部分もありました。今回については(FIAからの)指摘どおりになっていました」とのこと。ただ、今回の件を踏まえて「今後の増設については検討する」とした。

 これで一件落着かと思われるのだが、SUGO側では別の深刻な問題も発生している。今後に対するウレタンバリアの管理だ。スポーツランドSUGOでは全日本ロードレース選手権をはじめ2輪のレースも頻繁に開催される。2輪レースの国際統括をするFIMでは別の規定もあり、こちらではウレタンバリアが必要となるのだ。

「もし、今回指摘されたもので今後も運用していかないといけなくなると、(ウレタンバリアを)設置しなければいけないレースと外さなければいけないレースが混在してくることになります。それにひとつひとつ対応するとなると毎回費用もかかってくるし、サーキット側の負担は大きくなります……」とSUGO担当者。

 ちなみに撤去した数百個のウレタンバリアは、サーキットの敷地内では収まりきらず、サーキットと付き合いのある方の私有地に一時的に置かせてもらったとのこと。10トン車で数往復してウレタンバリアを運んだという。前述のとおり2輪レース開催時にはウレタンバリアが必要になるため、今度は逆にサーキットへ運び込む作業も発生することになるのだ。これらにかかる費用と労力が莫大なものになることは、想像に難くない。

 7月頭には、今回レンタルしたタイヤバリアを返却しなければならず、そこを補填する新しいタイヤバリアを購入・設置する作業も待っている。9月にスーパーGTとFIA F4の開催も控えているため時間的猶予も限られている状態だ。「具体的な本数は言えないですが、相当な量のタイヤバリアを買わないといけません……」と、サーキット側も頭を抱えている様子だった。

ウォームアップ走行の最終コーナーでクラッシュした山本尚貴のマシン

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