間瀬秀一監督、故郷のクラブ「ヴィアティン三重」の指揮で感じる「人の環境の素晴らしさ」とは

6月23日に行なわれたJFL第13節、ヴィアティン三重対レイラック滋賀FC。Jリーグ参入を目指しながらも中位に沈むクラブ同士の対戦は、互いにチャンスを生かしきれずに1-1の引き分けとなった。

キックオフ直前から雨が降り続いたLA・PITA東員スタジアムでは、ピッチに水が溜まることこそなかったものの、晴天のコンディションとは異なるプレーが必要となる状況に。

前半はどちらもゴールに迫る場面を迎えつつもスコアレスで終了。そしてハーフタイムを終えた直後、ヴィアティン三重が先制点を叩き込む。

梁賢柱の左コーナーキックからファーポストに篠原弘次郎が飛び込み、ヘディングで合わせてネットを揺らす。再開から間もなく試合が動いた。

しかしながらそれから数分後、レイラック滋賀FCも左コーナーキックから同点ゴールを奪取する。久保田和音のキックがクリアされたところを、小松駿太がミドルシュートに持ち込む。これがゴール右に突き刺さり、試合は降り出しに戻された。

その後は降り続く雨のなか、前半と同じように両チームがゴールに迫るシーンを作りながらもシュートを決められず、試合は1-1のまま終了。ヴィアティン三重とレイラック滋賀FCはともに勝点1の獲得にとどまった。

否定してはいけない「先制点」と「ピンチを凌いだこと」

試合後、今季から生まれ故郷の三重県に戻ってヴィアティン三重を指揮している間瀬秀一監督は以下のように感想を述べた。

「こういう試合の評価は本当に難しい。否定してはいけないものは、前半のピンチを体を張ってなんとか凌いだこと。そして先制点を取ったこと。もちろんその後のピンチも凌いだこと。

試合の流れやメンタル面も含めて、いろんなことがミックスされています。整理するのが難しいですが、そのようなところは選手たちが本当にしっかりと戦えたと思います。

一方、当然先制した方がサッカーにおいては有利でありながら、その状態を保てなかった。しかも今回はすぐに失点をして同点になってしまった。自分たちが今後修正しないといけないところは、守備でいえばそこです。

もう1つ、大いに自分たちが成長や修正するべきところは、周りの状態を把握しての繋ぎの判断であるとか、ボールを失わないポゼッションの技術。特に今日の試合ではそのようなところのミスが露出して、その分何度も相手にはゴールに向かうチャンスを与えて、自分たちが勝利するには厳しい展開になった。

技術や判断というところでいうと…3点くらいは追加点を取り得るチャンスも作れたんですが、そこも決められなかった部分がある。そういった部分は、自分たちに目を向けて今後取り組んでいかないといけない。

今季このことに触れるのは初めてかもしれないですけど、我々はセットプレーの準備をとても念入りにやっています。映像ミーティング、そして実践トレーニング、不備が出ればもう1度フィードバックのミーティングを繰り返す。

今回もこのようにセットプレーで先制点をとれたんですが、それに関してはコーチ陣を中心に選手と力を合わせてやってくれた部分でもあります。評価すべきところです」

ヴィアティン三重は今季13試合を終えて半分近い6試合を引き分けで終えている。その原因について間瀬秀一監督は以下のように答えた。

「優勝と昇格が目的の年なので、このまま進んで行くとどんどん首位の高知ユナイテッドとは差がついてしまう。 人選も含めてしっかりと自分たちのサッカーを…今引き分けてしまっている試合を勝利に変えるためのサッカーを構築するべきだと思っています。

今季はこれで6引き分け。そのうち栃木シティ戦のスコアレスドロー以外は全て『先制してから追いつかれてからの引き分け』なんですね。

そこは冷静に話をしないといけない。 先制することはサッカーでは有利ですし、勝利のために必要なことです。それだけの点数を決めている、ちゃんと先制点を取っているということは否定してはいけない。選手とスタッフは、私が打ち出すものに対してとても力を込めてトレーニングをやってくれている。まず先制するところはみんなで力を合わせた結果のものです。

そこから追いつかれるということの要因は…これもすべての試合で『追いつかれ方の原因が違う』。時間の使い方、戦術的なこと、私自身の采配、交代のタイミング、いろんなものが重なります。

総合的に言えば…当たり前のことを言いますけど、その1点を守りきるということ。もう一つは、2点目、3点目を取るということ。

自分たちの取り組みの結果、守備をする時間や回数は以前より減ってきている。それは勝ち切るためにはいい方向性ですし、今日も我々が得点をするチャンスは何度かあった。 それを決めきる、2点目、3点目をとるということが引き分けを減らして勝利に繋がるものになると思います」

ヴィアティンの強みは間違いなく『人』

ヴィアティン三重を昨年まで指揮していた樋口靖洋監督は、常に「自分たちのスタイルを構築する」と強調し、攻撃的に主導権を握るサッカーを志向していた。

そのベースがあるクラブに就任することになった間瀬監督は、今どのようなことを上積みしようとしているのか。

「このような場で昨年の体制や監督の話をしたことはなかったと思います。歴史があって、いろんな人がバトンを繋いだ末に今のヴィアティンがある。

昨年のチーム、そして樋口さん(樋口靖洋前監督)がここに残した確固たるものがベースとしてあるというのが大前提の話なんですが、今季の我々は優勝と昇格をするために目の前の相手から勝利するということを逆算して自分たちが取り組んでいます。

正直に言えば、何か1つのスタイルを磨いて勝利には向かってはいません。逆に言えば、スタイルにこだわらないが故にいろんなことができないといけない。現代サッカーの原理に沿って、様々なことが必要になる。

先ほど言っていただいた共通理解のもと、様々なことを実践できている部分がある中で…何度もここでポイントになっている『ボールを失わない』『2点目、3点目を取り切る』そういうところは今の我々が急成長すべきところです」

確固たるなんらかのスタイルを持つのではなく、勝利や優勝から逆算しつつ、サッカーの原理に従ったプレーを積み上げる。それが今季の三重に組み込まれているという。

また、Jリーグに近いクラブと言われて久しいヴィアティン三重にある組織としての強みについては、間瀬監督は以下のように話していた。

「ヴィアティンの強みは間違いなく『人』ですね。今日の試合前にも選手に伝えました。

Jリーグに近いという話で言えば、 環境の点はまだまだ遠いです。練習場所、ホームスタジアムのピッチ。それらは、まだ Jリーグに向かうにあたって、もう少し向上できる部分です。

僕は『人の環境』という言葉を使うんですけど、このクラブはフロントや社員、今季で言えば選手もスタッフも、そして本当に気持ちのこもったサポーターの皆さん、 メディアの皆さんも含めて一丸となれる。クラブが一丸となれる。この『人の環境』がある。

最大の強み、そしてJに近いところは『人』だと思っています。これはもう本当に感謝していますし、この連帯をもっと強く大きなものにできたら、 間違いなくJリーグに近づきます。Jリーグに昇格するべきクラブだと思っています」

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インフラの点で言えばまだまだJリーグのクラブには遠い部分が多いものの、一方でJFLを長く戦ってきた中で構築されてきた「人の環境」が素晴らしいものになっていると感じているそうだ。

ヴィアティン三重はこの結果で勝点21となり、JFLでは5位につける。6月30日には敵地たまゆら陸上競技場でティアモ枚方とのアウェイゲームに臨む予定だ。

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