成功率10%の超難易度「メタボな蛇口」製造工程を初公開 赤字でもオンリーワン商品がブランディングに

大阪に本社を置く蛇口メーカー、株式会社カクダイ(以下、カクダイ)の岐阜工場に潜入。工場では「お寿司型」や「おでん型」など、使う度に笑顔になる常識破りの“ユニークな蛇口”を製造していた。

今回は、成功率わずか10パーセントの大人気商品「誰や!またメタボにしたん?!」の製造工程を初公開する。

職人泣かせの「メタボな蛇口」はすべて手作業!

カクダイは、奇想天外でユニークな商品を手掛けることでも知られているが、中でも最も売れたのが、こちらの蛇口。「誰や!またメタボにしたん?!」(以下、「メタボな蛇口」)はぷくっとふくらんでおり、どこか憎めないメタボなボディーを再現している。8年前に発売し、今も問い合わせがあるほどの人気ぶり。

「メタボな蛇口」の生みの親は多田修三副社長。ユニークな蛇口の約7割を考案した、社内きってのアイデアマンだ。

「メタボな蛇口」は、画家のサルバドール・ダリ作「溶ける時計」のような蛇口を作りたいとの思いから誕生した。「俺たちの持ち味を、プロダクトデザインから離れたところで持とうということでスタートした」と多田さん。

岐阜工場の吉岡透工場長は「作るのはとても難しいです。成功率は10パーセントぐらい。10個に1個成功するかしないか」と内情を明かす。

そんな現場の声を多田さんに確認すると、「そんなことないでしょ。100個作って3個ぐらいしかできない。もっと厳しい」と予想外のコメントが! 失敗が多いため大赤字だが、オンリーワンの商品を作り続けることが、会社のブランディングにつながっている。

現場の皆さんに「メタボな蛇口」を作ることになったときの率直な感想を聞いた。「丸みと溝をどうしようかな、って」「本当にできるのかな? と思いました」。職人泣かせのデザインなのだ。

成功率わずか10パーセントの蛇口の製造工程には、いくつかの“関門”があった。

関門1 型づくり

スタンダードな蛇口の砂型は機械の力で押し固めていたが、「メタボな蛇口」の砂型は、すべて手作業で作る。

「メタボな蛇口」は正面から見ると全体がゆがんでおり、左右対称ではない。複雑な形状の型を作る必要があるため、どうしても手作業になるのだ。吉岡工場長は「自由度が高く、自分たちの作りたいように作れる製造方法です」と話す。

まず、ざるで鋳物砂の塊を崩したら、専用の道具で枠に詰める作業を繰り返す。しかし機械と違って手作業のため、砂型の強度を保つことができず、注いだ銅が漏れ出すリスクも。今回は10個の砂型を作ったが、吉岡工場長もどこか不安な様子だ。

スタンダードな蛇口同様、ドロドロに溶かした銅を炉から容器に移し、砂型へと流し入れる。

しかし、横から銅が漏れ出してしまった!

「あかんやん!」とつぶやく吉岡工場長。10個のうち6個に同様の事態が起きたが、銅が漏れたとはいえ、形になっている可能性もある。

2時間後。砂型を割って中の銅を取り出してみると、1つ目は銅が先端まで行き渡っていなかったため失敗。3つ連続で失敗となったが、4つ目は見事成功していた!

関門2 研磨作業

10個のうち6個が成功し、次のステージへ! 研磨作業を行うのは、この道30年の超ベテラン・加工部の野村彰さんだが、野村さんの腕を持ってしても、かなりの難しさだという。丸みを帯びた形を研磨するのは至難の業で、最も難しいのが溝だ。ほかの部分と同様、ピカピカにする必要がある。

何度も機械をチェックし、胴体を滑らかに回しながら均一に力を加えていく。そして最後に残ったのは、「最も難しい」と言っていた溝。野村さんは熟練の技を駆使し、1回1回表面を見ながら丁寧に磨き上げる。

ほかの部分と同じように、ピカピカに仕上がった。その後も作業は続き、無事にノーミスで6つ終了。

関門3 傷チェック

お次は、厳しい目を持った番人が、傷がないかチェックする工程。こんなに小さい傷でもアウト。ここで見逃すと、完成したとしても不良品となってしまうのだ。吉岡工場長も固唾を飲んで見守るが、次に進めたのは、たった1つだけだった。

関門4 “気泡&通水”チェック

いよいよ蛇口を組み立て、水を使った検査を行う。水に浸して気泡が出ないか確認すると、無事クリア! そして実際に水道に取り付け、水が通るかをチェックする。

蛇口に水が通り、思わず「よっしゃ!」とガッツポーズを決める吉岡工場長。さまざまな関門を乗り越え、完成したのはわずか1つ。本当に成功率10パーセントだった。

ユニークな蛇口を手掛ける株式会社カクダイ、今後はどんな蛇口が誕生するのか楽しみだ。

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