“医師”と“陸上選手”の二刀流!広田有紀が“現役選手”にこだわるワケ…日本選手権へ「力強い走りで恩返しを」

新潟市で行われる陸上の日本選手権を目指して練習に励む医師国家資格を持つ選手がいる。女子800mの広田有紀だ。高校時代には、国体やインターハイで優勝し、新潟県記録保持者でもある広田は、なぜ医師でありながら陸上選手を続けるのか、その理由と日本選手権にかける思いを取材した。

モットーは文武両道!県記録持つ広田有紀

5月27日。1カ月後に迫った日本選手権に向けて練習を公開したサトウ食品新潟アルビレックスランニングクラブ。

「これは頑張るしかないなというポジティブな気持ちで、新潟開催は喜ばしいニュースだと思っていた」

地元・新潟で開催されることへの喜びを語ったのは、女子800mに出場する広田有紀だ。

高校時代は、県内随一の進学校である新潟高校に通っていた広田のモットーは「文武両道」。

その言葉を体現するように高校時代にインターハイと国体を制覇。秋田県にある大学の医学部に進学し、日本インカレで3年連続準優勝に輝いた。

医師国家資格を取得した広田は、大学卒業後も新潟に戻って競技を続け、2021年の日本選手権では準優勝に。東京オリンピック出場にあと一歩届かなかったものの、2分4秒18の好タイムで県記録を塗り替えた。

“陸上選手”と“研修医”両立も…迎えた転機

数々の輝かしい成績を残してきた広田だが、いま大きな転機を迎えている。

「研修医が今年度で終わって、来年以降3年目で一つの科に絞って、本格的に病院での責任が重くなるようなフェーズではある」

東京オリンピックを目指し、大学卒業後の3年間は競技に専念していたが、2023年から新潟大学病院で研修医として勤務している。

「できることが少しずつ増えつつも、やっぱり、まだまだできないことと毎日向き合っている状況なので、全然慣れない感じ」と陸上競技と研修医を両立した1年を振り返る。

研修医は複数の診療科を1カ月ずつ研修しなくてはならない。取材時には救急科で研修していた広田。救急車で運ばれてきた患者の対応に当たっていた。

救急科では、その場で診察や検査を行い、緊急度に応じて必要な処置を判断しなければならない。

日中は研修医として夕方まで働き、その後、病院近くの新潟市陸上競技場で2時間ほど練習するのが、基本的なスケジュールだという。

「研修医と並行させずに陸上一本でやっていた時期を知っているため、もどかしさはあるものの、少ない時間でも集中力さえあれば、自分としては80点くらいの練習はできているかなと思う」

メリハリのつけ方は、医師免許取得を目指して勉強しながら大会に臨んだ大学時代の経験が生きている。

多忙な二刀流生活「選手はそろそろ厳しい…」

一方で、救急科では夜勤もあり、その場合は日中に練習してから勤務に当たっている。短い時間でも体を休められるよう、研修医室の机には枕が用意されていた。

「机の上で寝る用の枕。限界ならこれで寝る。たぶんいい枕」と笑う広田だが、空いた時間を活用して、患者の情報や研修した科で学んだことをパソコンでまとめている。

スマートフォンと連動させることで、すぐに患者の対応を確認することができるという。「睡眠時間を確保したいので、勤務時間内にやれる勉強をしている」

アスリートとして栄養面にも気をつけているという広田のお弁当は自分で作ったものだ。

「おかずは生姜焼きとサケと卵焼きと…タンパク質ばっかり。脂は少なめにしようと思っているが、卵焼きの中にチーズが入っている」と笑顔を見せた。

選手と研修医の二刀流で、多忙な生活を送る日々だが…「いまは研修医だからこそ色んな責任がまだ少ないが、ここからまた来年以降は専攻医と言って、一つの科に絞って責任を持った状態で働くので、そうなったからには陸上選手はそろそろ厳しいかなと思っている」

日本選手権に向け準備も「スタートラインに立てるか…」

そんな中、発表された日本選手権の新潟開催。

本来であれば広田は2024年4月から別の病院で研修する予定だったが、大会までの間、練習場所に近い新潟大学病院で研修できるよう病院長に直談判したと明かす。

「新潟市陸上競技場だったら午後9時まで開いているし、帰宅途中にあるので、練習をサボることができない。練習はどれだけルーティン化できるかが大事だと思っている」

しかし、広田は2024年4月のレースで左足のアキレス腱を負傷。5月の公開練習でも、トラックで走ることができなかった。

「事実を色々言うと、結構足が厳しい状態で、スタートラインに立てたらいいなくらいの状態ではある。なかなか歯がゆい。やっぱり腱を使わないと足もなまってしまって、いま左のふくらはぎがかなり落ちてしまっているような状態。そこの面で視覚的にも不安を感じているが、そこで焦っても意味ない」といまの心境を吐露する。

なぜ二刀流を続けるのか…広田の原動力は

スタートラインに立てるかわからない状態でも、広田は前を向き、心肺機能や体幹のトレーニングなど、いまできることに集中している。

陸上選手と研修医。多忙を極める中、なぜ広田は二刀流を続けるのか…その原動力には研修医として働いているからこそ得た“人とのつながり”があった。

「患者さんも自分の記事を読むことがあったり、毎月のように必ず一言や二言『先生の記事見たよ』とか、すれ違う看護師さんや上の先生に言っていただける」

研修医として、そして選手として。“集大成”と話すレースには、競技人生の全てをかけて臨むつもりだ。

「新潟の人の力・支えあっての15年間、女子800mを続けられてきた背景があるので、その恩返しも含めて、力強い走りをお世話になった新潟の地で精一杯やりたいと思う」

(NST新潟総合テレビ)

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