【特集 メルセデス・ベンツが切り拓くハイブリッド新時代の今②CLE 200 クーペ スポーツ】MHEVが求めるのは、絶対性能ではなく毎日が楽しい「ハイスペック」なのかも

電動を推し進めつつも、内燃機関の進化を止めないことを明言しているメルセデス・ベンツ。その未来戦略の橋渡しとなる「ハイブリッド」たちは果たして、どんな魅力を実感させてくれるのでしょうか。第二回目は2024年3月に日本向けの発売が開始された新型CLEクーペの試乗レポートをご紹介。ベーシックなMHEVモデルでも十分、スポーティに楽しめるようです。(MotorMagazine2024年7月号より再構成)

マイルドハイブリッド「CLE200クーペ スポーツ」概説

日本市場向けに、新しいCLEクーペが発表されたのは、2024年3月のこと。メルセデス・ベンツの2ドアクーペとして伝統のロングホイールベース、ショートオーバーハング、ロングボンネットを採用。その上で、メルセデスデザインの基本思想である「Sensual Purity」によって磨き上げられることで、ダイナミックかつエモーショナルなスタイリングを実現しています。

そのスタイリングの優雅さとともに、しっかりと使いこなすことが可能な万能性を備えていれば、ユーザーからしっかりと支持されるのだ。新しきCLEクーペは、まさしくその要件を満たしていた。

導入当初は、2L 直列4気筒ガソリンターボにISGを組み合わせた、MHEV仕様のみの設定でした。しかし6月25日にメルセデスAMG CLE53 4MATIC+ クーペをラインナップ(同日、CLE200 カブリオレ スポーツも追加)。こちらは3L 直列6気筒ガソリンターボに電動スーパーチャージャーを組み合わせた上で、ISGを備えた「M256M」エンジンを搭載しています。

システム最高出力が449ps(330kW)m最大トルク560Nm(約10秒間のオーバーブースト時は600Nm)というAMG53向けユニットに比べると、CLE200の204ps(150kW)+23ps(17kW)、320Nm+205Nmのエンジン+ISGの電動ブーストはさすがに非力に思えます。が、しかし実際は、「スペックから想像する以上の力強さ」を感じさせてくれるようです。

2L直4ターボエンジン+モーターに9速ATを組み合わせたMHEVパワートレーンは期待を上回る力感を発揮した。

メルセデスの後輪駆動ならではの素直なハンドリングも含めて、CLE200クーペは850万円というお値頃感も含めた高い満足感が味わえるようです(CLE 534MATIC+クーペは1290万円)。そのあたり、さらに詳しいところを、自動車評論家の島下泰久氏に教えていただきましょう。(ここまでWebモーターマガジン編集部)

まず味わうべきは「FRレイアウトらしさを見せつけるエレガントなフォルム」

その長い歴史において、常に美しい2ドアクーペをラインナップし続けてきたメルセデス・ベンツから登場した最新作がCLEクーペである。従来のEクラス クーペとCクラス クーペが統合された形だが、実はその全長はEクラスクーペよりも長い。

そのボディ形状ゆえに、CLEクーペの乗車定員は4名となる。その優美な雰囲気こそが、多少の不便さを上回るメリットだろう。

しかもフォルムは、FRレイアウトの旨味を活かしたロングボンネット、ショートオーバーハング、そしてロングホイールベースにより実にエレガント。一方、逆スラントしたシャークノーズや大きく張り出したリアフェンダーなどによって、力強さも際立たせられている。いずれにせよ、どの角度から見ても視線を奪うデザインであることは間違いない。

インテリアにも触れないわけにはいかないだろう。ダッシュボードの意匠はCクラスに準ずるが、標準装備のAMGラインにより広範囲がシンセティックレザーの「ARTICO」で覆われるなど質感高く仕立てられている。

オプションのレザーエクスクルーシブパッケージ(90.0万円)を装備したインテリア。パワーレッド色も印象的だ。
試乗前は、もしかしたら2+2シーターなのではないかとも思っていたが、実際は立派なフル4シーターとして使えるゆとりがある。

ハイバックタイプのフロントシートはCLEクーペ専用。後席に乗り込む際には肩部分にあるレザー製のループを引くことで、イージーエントリー機能を起動できる。この後席も、いざとなれば大人2人が快適に過ごせるスペースを用意しており、やはり十分な容量を持つ荷室ともども、高い実用性に貢献しているのだ。

唯一のラインナップとなるCLE200クーペ スポーツが搭載する直列4気筒2Lターボエンジンは最高出力204ps、最大トルク320Nmを発生する。さらに、マイルドハイブリッド機構のISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)による17kW(23ps)/205Nmのモーターアシストが加わる。トランスミッションは9速ATで、駆動するのは後輪である。

島下泰久かく語りき「驚きの力強さを発揮。フットワークも素晴らしい」

走り出すと、スペックから想像する以上の力強い蹴り出しに驚かされた。これはまさにISGのおかげで、電気モーターが瞬時のレスポンスと豊かなトルクによって、速やかにクルマを前に進めてくれるのだ。その先の加速も爽快そのもの。エンジンの吹け上がりが心地良く、低音域やや強めの排気音を伴いながらスポーティかつ上質に速度を高めていく。

オプション設定のドライバーズパッケージ(40.0万円)装着により20インチホイール&タイヤを装着するが、素晴らしい乗り心地を実現。

いったん戻したアクセルペダル操作を再度踏み込む時などには、やはりモーターアシストによって鋭い反応が得られる。またアイドリングストップからの再始動にショックが伴わないのもISGのメリット。マイルドハイブリッドとは言え、これだけトルクがあると、恩恵は小さくないのである。

フットワークの質も高い。オプションとなるドライバーズパッケージにより、20インチのタイヤ&ホイールと電子制御ダンピングシステムが装備されていた試乗車は、まず当たりのしなやかな乗り心地で唸らせられた。適度に引き締められてはいるが、ショックの角がきれいに丸められているのだ。

それでいてコーナリングでは、まさに意のまま。基本的に60 km/h以下の低速域では後輪を前輪とは逆位相に、それ以上の速度域では同位相に操舵するリアアクスルステアリングが俊敏なレスポンスと高いスタビリティを両立させていて、クルマとの高い一体感を味わわせてくれるのである。

しかもこのリアアクスルステアリングには、標準でも5.2mの最小回転半径を5.0mまで縮小する効果も担っている。コンパクトカー並みと言っていい取り回しの良さは、日常使いの場面で所作をスマートに魅せてくれるはずだ。

美しいデザインに使い勝手の良さ、そして爽快な走りといった多くの魅力を併せ持ったメルセデス・ベンツCLE200クーペ スポーツは、まさに長年クーペをラインナップし続けてきたブランドだからこそ実現できた1台である。

目の肥えたファンにも、あるいは若いユーザーにも、クーペのある生活の豊かさをこういうクルマでぜひ感じてみてほしい。(文:島下泰久/写真:永元秀和)

【メルセデス・ベンツCLE200クーペ スポーツ主要諸元】

●全長×全幅×全高:4850×1860×1420mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:1760kg
●パワートレーン:2L直4ターボ+モーター
●総排気量:1997cc
●エンジン最高出力:150kW(204ps)/5800rpm
●エンジン最大トルク:320Nm(32.6kgm)/1600-4000rpm
●モーター最高出力:17kW(23ps)/1500-3000rpm
●モーター最大トルク:205Nm(20.9kgm)/0-750rpm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:FR
●WLTCモード燃費:14.5km/L
●タイヤサイズ 前:245/40R19、後:275/35R19
●価格:850万円

CLE 53 クーペのボディサイズは CLE 200 クーペと比べ、全長 4,855mm(+5mm)、全幅 1,935mm(+75mm)、全高 1,435mm(+15mm)と前後にワイドフェンダーを採用したことで、全幅を大幅に拡大し、ダイナミックさを強調している。価格は1290万円。
CLE53と同じ6月25日に発表されたCLE 200 カブリオレスポーツ。ソフトトップは時速 60km 以下であれば 20 秒以内に完全電動で開閉操作ができる。パワートレーンはクーペ同様、2L直列 4 気筒直噴ターボエンジン(M254)+ISG。価格は936万円。

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